創生への道 人口減少時代を生きる〈第5部 地域づくり〉

 

津軽から全国へ=6

2018/11/30 金曜日

 

東京の工房を拠点に、弘前のチョコレート文化の振興も目指す須藤さん

 首都圏でビジネスを軌道に乗せ、次なる展開にと地元津軽から新たな発信をしている人がいる。弘前市百沢出身のショコラティエ須藤銀雅さん(32)は、東京都内に構えたバー専用チョコレートの工房を拠点にしながら、今年10月、地元である弘前に東北初となるクラフトチョコレート工房兼店舗をオープン。チョコレートを通じて地域を盛り上げ、首都圏に弘前の魅力を広めることを目指しており、地域づくりの新たな形として注目が集まる。
 カカオ豆からチョコレートにするまでの加工を一手に行う専門店「浪漫須貯古齢糖(ロマンスチョコレート)」は10月5日、弘前市亀甲町に開業した。店のドアを開けると、ほのかなチョコレートの香りが鼻をくすぐる。店内はレトロな家具で統一されており、店のコンセプトである「大正ロマン」の雰囲気が漂う
 チョコレートは海外から日本に伝わり、嗜好(しこう)品として普及したのが明治、大正時代。そして弘前が大正時代の建物が立ち並ぶ趣のある街であることから、大正ロマンをコンセプトに決めた。加えて、カカオ豆の焙煎(ばいせん)からチョコレート製造まで全工程を自社で行う「ビーン・トゥ・バー」の出店は東北初。須藤さんは「文明開化をもう一度味わうイメージ」と出店に懸けた思いを語る。
 弘前実業高校を卒業後、大阪の製菓専門学校で学んだ。卒業後は洋菓子店勤務などを経て高級チョコの名店に勤め、本格的にショコラティエとして修業。当時、行きつけのバーのマスターに酒と合う店用のチョコを作ってくれないかと依頼されて作ったのが、バー専用チョコの製造に絞るきっかけとなった。
 2016年1月に独立し、東京都中野区にバー専用チョコレートの工房「Airgead(アールガット)」を構えた。
 須藤さんがチョコと組み合わせる材料は、フルーツ、ハーブ、みそ、昆布、ブルーチーズとさまざま。一口大のボンボンショコラは見た目も宝石のような美しさで、酒に合わせて考え抜かれたマリアージュ(組み合わせの良さ)が好評だという。
 地元への出店は昨年11月ごろから構想し始めた。「せっかく出店するなら弘前でと思っていた。雇用が生まれて地域貢献もできるし、弘前は美容院やおしゃれな店が多いので市民の美意識の高さがうかがえる。勝算はあった」と須藤さん。
 加えてチョコレートがもたらす健康効果も強調する。主な原料のカカオニブに含まれるカカオポリフェノールは、血管中の善玉コレステロールを増やして血管内部をきれいに保ち、血圧を下げる効果があるとされる。チョコを固めているカカオバターは、質の良い純粋なものは脂肪として体に残りにくく、肌の保湿や抗酸化作用など美容にもうれしい油脂だという。
 須藤さんは「血管がきれいになって脳への血流量が多くなることで記憶力の向上や認知症予防にも効果が期待できる。短命県の青森になかった健康食品として“はまる”要素は絶対にある」と力を込める。
 目指すは「弘前に嗜好品としての新たな文化を持ち込むこと」。弘前の店舗は小売りもしながら、東京の工房で使う原料の板チョコを作る場にもするといい「今後は地元産の食材も使っていきたい。銀座のバーの客に弘前で作ったチョコを発信できることはメリット」とし「弘前全体のチョコレート文化を先導して盛り上げていきたい」と目を輝かせる。

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トップランナーに聞く=7・完

2018/12/1 土曜日

 

「地域と世界をつなげることが自分の役目」と語る相内さん
「スポーツを通じて人と人、外とのつながりを生み出したい」と語る黒部さん

 地方の人口減少が叫ばれて久しい。弘前市を中心とした津軽地域でも多くの産業で人手不足、後継者不足が顕在化し、若者は将来像が描きづらくなっている。それでも地元に根を張り、人づくり、街づくりに取り組む若者は少なくない。「人とのつながり」をキーワードに掲げ、ビジネス、スポーツを通じて地域活性化を模索するトップランナー2人に話を聞いた。
 「地域と世界をつなぐ歯車、ハブになりたい」。白神山地の玄関口西目屋村での養蜂、生ハチミツを使ったスイーツ店の運営などを手掛ける弘前市の青弘トラスト代表取締役相内英之さん(43)は、ビジネスを通じて地域に貢献しようと事業を展開している。
 相内さんは事務機販売業の2代目。しかし、社会情勢が大きく変化し、「会社、自分の存在価値が小さくなっていると感じた」という。NPO法人の活動を通じて白神山地周辺の自治体とつながりができ、8年前から同村で養蜂に着手。2013年に同村と弘前市内にスイーツ店を相次いでオープンさせた。
 養蜂ではハチの全滅を経験、15年に仙台市に出店するも半年で撤退を決めるなど順風満帆ではなかったが、「人とのつながりでやってこられた」と振り返る相内さん。「ビジネスは人と人のコラボレーション。やる気のある人同士なら『1+1』が4、5、10にもなっていく」と力を込める。
 人口減少に歯止めがかからず、経済を含めて社会全体の縮小は避けられない。「だからこそ『1+1』が無限に広がるビジネスが重要になる。地域に新たな産業を興したい」とし、「事業を興し、産業に成長させる人間を育てなければ、地域活性化はない」と指摘する。
 GARUTSU(ガルツ)専務取締役としてシードルの醸造、販売にも携わり、現在は輸出に向けた準備を進める。同村でブドウ栽培を始め、来年にはワイナリーを立ち上げる予定で、「地域、国内の市場が狭まっていくなら外に飛び出していくしかない。自分の役目はビジネスで地域と世界をつなげていくこと」と先を見据える。
 今季、東北社会人サッカーリーグ1部で本県初の優勝を果たしたブランデュー弘前FC。Jリーグ参入への道を着実に歩んでおり運営する弘前Jスポーツプロジェクト理事長の黒部能史さん(42)は「ブランデューが進む道の上に人と人とが出会える“交差点”を数多く作り出したい」と理想を掲げる
 今季は成績だけでなく、クラブを介した地域活性化の面でも大きく前進した。J2の栃木SCから育成期限付きで選手を迎え入れたことが縁で、9月に栃木SCのホーム戦会場で物産展を開催。「Jリーグでも地域間交流しているクラブはなく、大きな成果があった」と手応えを語る。
 今秋からは県の求めに応じ、地域の基幹産業である農業の支援にも乗り出した。選手やスタッフがリンゴ園地で作業を経験。黒部さんは「農業×スポーツ」という新たな組み合わせに可能性を感じており「新たなビジネスチャンスを見いだす企業が出てくるかもしれない」と期待する
 JFL(日本フットボールリーグ)昇格、さらにJリーグ参入を目指す上で欠かせないのが、サポーターの応援はもちろん、行政や各種団体など地域全体との連携だ。「上に行くために必要なピースは周囲の本気度」と熱を込め、地元を拠点に活動するスポーツチームへの支援体制の構築を求める。
 ブランデューの存在を、市民やスポンサー企業、自治体などが交わる“交差点”に例える黒部さん。「外とのつながりが増えるに従って交差点も増えていく」とし、栃木での物産展、農業支援の活動もその一つと捉える。スポーツが生み出す人と人のつながりを信じ、「そこには創生の道がいくらでもある」と力を込めた。

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