創生への道 人口減少時代を生きる〈第5部 地域づくり〉

 

SCと商店街=4

2018/11/27 火曜日

 

五所川原市のエルムの街ショッピングセンター。週末は多くの買い物客でにぎわう

 近年、国内各地で大型ショッピングセンター(SC)の進出が相次いでいる。特に地方では郊外に建設され、週末ともなれば多くの家族連れらが車で足を運ぶ姿が見られる。その一方で、大型SC進出は中心商店街衰退の一因になったとも指摘され、地域によってはシャッターを閉じたままの空き店舗が目立つ。大型SCと地元中心商店街の共存は可能なのだろうか。
 五所川原市に1997年にオープンした「エルムの街ショッピングセンター」。県内外から積極的にテナントを誘致し、フードテーマパーク「津軽ラーメン街道」をはじめ「スターバックスコーヒー」「いきなり!ステーキ」などを本県に初出店させて話題を提供してきた。津軽自動車道の整備も後押しし、現在は県内外から年間800万人が足を運ぶ。年間売上額は約200億円と、本県を代表する商業拠点となっている。
 エルムを運営する五所川原街づくり株式会社の山崎淳一副社長は「生活支援と雇用確保情報発信を方針にここまでやってきた」と振り返る「単館SCのためスタッフは異動がない。そこを強みに、フットワークの軽さを生かして全国で折衝してきた。スターバックスは(誘致実現まで)9年かかった」と明かす
 オープンから約20年たつが、集客力は衰えることがない。「時代の流れをくんで、客を飽きさせないようなテナント誘致に努めている」とその秘訣(ひけつ)を語る山崎副社長。流行に敏感に、県内でほかにはないテナント誘致を図り、客を呼び込む仕掛けづくりに挑み続けてきたからだ。
 集客力を誇るエルム誕生以降、周辺にはさまざまな店舗が進出している。近く、新たなショッピングモールも誕生予定だ。競争激化の中、山崎副社長は「時代のニーズに対応し、常にお客さまが行きたい場所、長時間過ごしたいと思える場所にしていかないと人は遠のいてしまう。それはどのお店でも同じ」と語気を強める。
 エルムとその周辺に人が集まる一方で、かつてデパートが三つもあり商都としてにぎわった同市の中心部は、活気が失われ閑散としている。JR五所川原駅から広がる中心商店街は空き店舗が目立ち、アーケードはすべて取り払われ、後継者不足などを理由に商店街の組合は解散していった。
 「エルムができてから消費者がそちらを選択する傾向が強くなった」と話すのは、1921年創業の又上佐々木呉服店の佐々木慎一郎代表取締役。創業約70年の靴店「ゴムのごとう・木靴(サボ)」の後藤厚子店主は「SCだけでなく、郊外に団地ができたことも要因だと思う」と話す。中心商店街活性化を目指し10年以上前に進められた大町二丁目地区土地区画整理事業によって、逆に営業を終了した店舗も複数あったと指摘する声もある。
 2017年に解散した大町商店街振興組合の齋藤英明元理事長は「結成当初は74人いた会員が、解散時は30人弱だった。中心市街地に居を構える人自体が少なくなっている中で(衰退の)流れには逆らえなかった」と無念さをにじませる。
 それでも、昔と変わらず商店街を利用する客は少なくない。佐々木代表取締役は「お客さんにとって必要なら今後も残るだろう。時代に合った商品を作れば必ず需要は出る」と力を込める。
 後藤店主は「はやり廃りではなく、時には海外からの物を取り扱うなどして“本物”にこだわって販売している」。今後の可能性について「エルムは主に若者をターゲットにしている感があるが、そこに当てはまらない高齢者らを大切にした商売をしていきたい」と語り、エルムとは異なる路線での商売に活路を見いだす。
 山崎副社長も「中心商店街のにぎわいは絶対に必要」と強調し「量販のSCに対し、質販とも言うべき本当の専門店は中心街でこそ需要がある。そういうすみ分けがしっかりされればお客さまの選択肢も増えていくだろう」と共存共栄の可能性を訴える。

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新・ご当地グルメ=5

2018/11/28 水曜日

 

マグステ丼販売累計20万食突破を記念し、深浦町役場内で開かれたセレモニー。中田氏(右端)吉田満町長(右から2人目)西﨑会長(左端)に笑顔がこぼれる=10月17日
中泊メバル膳(左)と「メバせん」。さらに人を呼び込むため、中泊町の関係者はメニューのリニューアルや新商品開発などを行っている

 地産地消で街おこししようと「新・ご当地グルメ」が誕生したのは2005年7月。北海道美瑛町の「美瑛カレーうどん」を皮切りに、これまでに70以上のメニューが全国で開発された。
 本県も13年に誕生した深浦町のマグロステーキ丼(マグステ丼)を皮切りに五つの新・ご当地グルメが生まれ、リクルートの調査によると今年10月22日現在で合計約38万9000食を提供、約22億7500万円の経済効果を生み出している。
 一方で、全国70以上の料理のうち約半数は現在販売されておらず、本県関係者は「一過性で終わらないよう常に新しい情報を出していかないと」と次の一手を考案している。
 水揚げ量県内トップの深浦産マグロを使った3種もの丼を味わえるマグステ丼。販売開始から約5年4カ月後の今年10月17日に達成した20万食は、国内でも3番目のスピードという快挙だった。人口8300人弱の町が起こした奇跡に、新・ご当地グルメプロデューサーのヒロ中田さんは「これまで手掛けた中でナンバーワンの成功事例」と舌を巻く。
 町や地元商工会、漁協、提供店などが一丸となって丼を核とした多くの取り組みを展開。結果、町全体の活性化につながったとの自信も生まれ、交流人口増に期待する声も上がる。深浦マグロ料理推進協議会の西﨑朋会長は「20万食の95%が町外観光客。さらに増え雇用にもつながれば、人口減の加速を和らげることができる」と見据える。
 町観光課の鈴木マグロー課長補佐は「マグステ丼は深浦の知名度を多少高めたと思うが、地域活性化下支えまでの威力はまだない。しかし可能性は信じたい」と語る。一方で「ブームが終わったとしても、こつこつやってきたことによる誇りが生まれ『みんなでやる力』が養われたのでは」とこれまでの経験が関係者の自信につながったことを強調する。
 本県新・ご当地グルメの三男坊として15年7月に中泊町で誕生した「中泊メバルの刺身(さしみ)と煮付け膳」(略称・中泊メバル膳)。これまでに6万3000食以上を提供し、課題だった年間を通した提供についても専用の冷凍機を導入。さらにレトルトの「メバチン!」、せんべいの「メバせん」などメバルシリーズを第4弾まで開発、町への経済効果は約6億5000万円に上っている。町民の意識も変わり、小中学生が修学旅行先でPRするなど町全体でメバルの宣伝をする動きが広がっている。
 しかし関係者は「徐々にだが販売ペースは落ちている。てこ入れしないとせっかく注目が集まったのに人が離れてしまう」と危機感を募らせる。そんな中で進められているのがメニューのリニューアル。デザートを新たに追加するなどして来年度デビューさせる予定だ。
 10月に開かれた中泊メバルフォーラムでは、本県の関係者やヒロさんらが出席して新・ご当地グルメの今後の可能性について意見交換した。同町については「専門のレストランと温泉をつくれば良いのでは」といった声が上がった。
 中泊メバル料理推進協議会事務局長で鈴木メバルーさんこと鈴木統生町水産商工観光課課長補佐は「メバルを通じてどんどん新しい物、情報を発信して中泊に人を呼び込みたい」と意気込む。
 食によるまちづくりをさらに盛り上げようと「平内ホタテ活御膳」(平内町)、「田子ガーリックステーキごはん」(田子町)、「東通天然ヒラメ刺身重」(東通村)を含む五つの関係団体は「新・ご当地グルメネットワークあおもり(S―1あおもり)」を結成。地域間連携を図り「食材の宝庫」である本県を次のステージ「料理王国」にしようと、スタンプラリーなどの活動を展開している。
 ヒロさんは「五つすべてが成功しており、青森県の食の豊富さを示している。今後もスピード感を持って次の一手を考えてほしい」と期待する。

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津軽から全国へ=6

2018/11/30 金曜日

 

東京の工房を拠点に、弘前のチョコレート文化の振興も目指す須藤さん

 首都圏でビジネスを軌道に乗せ、次なる展開にと地元津軽から新たな発信をしている人がいる。弘前市百沢出身のショコラティエ須藤銀雅さん(32)は、東京都内に構えたバー専用チョコレートの工房を拠点にしながら、今年10月、地元である弘前に東北初となるクラフトチョコレート工房兼店舗をオープン。チョコレートを通じて地域を盛り上げ、首都圏に弘前の魅力を広めることを目指しており、地域づくりの新たな形として注目が集まる。
 カカオ豆からチョコレートにするまでの加工を一手に行う専門店「浪漫須貯古齢糖(ロマンスチョコレート)」は10月5日、弘前市亀甲町に開業した。店のドアを開けると、ほのかなチョコレートの香りが鼻をくすぐる。店内はレトロな家具で統一されており、店のコンセプトである「大正ロマン」の雰囲気が漂う
 チョコレートは海外から日本に伝わり、嗜好(しこう)品として普及したのが明治、大正時代。そして弘前が大正時代の建物が立ち並ぶ趣のある街であることから、大正ロマンをコンセプトに決めた。加えて、カカオ豆の焙煎(ばいせん)からチョコレート製造まで全工程を自社で行う「ビーン・トゥ・バー」の出店は東北初。須藤さんは「文明開化をもう一度味わうイメージ」と出店に懸けた思いを語る。
 弘前実業高校を卒業後、大阪の製菓専門学校で学んだ。卒業後は洋菓子店勤務などを経て高級チョコの名店に勤め、本格的にショコラティエとして修業。当時、行きつけのバーのマスターに酒と合う店用のチョコを作ってくれないかと依頼されて作ったのが、バー専用チョコの製造に絞るきっかけとなった。
 2016年1月に独立し、東京都中野区にバー専用チョコレートの工房「Airgead(アールガット)」を構えた。
 須藤さんがチョコと組み合わせる材料は、フルーツ、ハーブ、みそ、昆布、ブルーチーズとさまざま。一口大のボンボンショコラは見た目も宝石のような美しさで、酒に合わせて考え抜かれたマリアージュ(組み合わせの良さ)が好評だという。
 地元への出店は昨年11月ごろから構想し始めた。「せっかく出店するなら弘前でと思っていた。雇用が生まれて地域貢献もできるし、弘前は美容院やおしゃれな店が多いので市民の美意識の高さがうかがえる。勝算はあった」と須藤さん。
 加えてチョコレートがもたらす健康効果も強調する。主な原料のカカオニブに含まれるカカオポリフェノールは、血管中の善玉コレステロールを増やして血管内部をきれいに保ち、血圧を下げる効果があるとされる。チョコを固めているカカオバターは、質の良い純粋なものは脂肪として体に残りにくく、肌の保湿や抗酸化作用など美容にもうれしい油脂だという。
 須藤さんは「血管がきれいになって脳への血流量が多くなることで記憶力の向上や認知症予防にも効果が期待できる。短命県の青森になかった健康食品として“はまる”要素は絶対にある」と力を込める。
 目指すは「弘前に嗜好品としての新たな文化を持ち込むこと」。弘前の店舗は小売りもしながら、東京の工房で使う原料の板チョコを作る場にもするといい「今後は地元産の食材も使っていきたい。銀座のバーの客に弘前で作ったチョコを発信できることはメリット」とし「弘前全体のチョコレート文化を先導して盛り上げていきたい」と目を輝かせる。

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トップランナーに聞く=7・完

2018/12/1 土曜日

 

「地域と世界をつなげることが自分の役目」と語る相内さん
「スポーツを通じて人と人、外とのつながりを生み出したい」と語る黒部さん

 地方の人口減少が叫ばれて久しい。弘前市を中心とした津軽地域でも多くの産業で人手不足、後継者不足が顕在化し、若者は将来像が描きづらくなっている。それでも地元に根を張り、人づくり、街づくりに取り組む若者は少なくない。「人とのつながり」をキーワードに掲げ、ビジネス、スポーツを通じて地域活性化を模索するトップランナー2人に話を聞いた。
 「地域と世界をつなぐ歯車、ハブになりたい」。白神山地の玄関口西目屋村での養蜂、生ハチミツを使ったスイーツ店の運営などを手掛ける弘前市の青弘トラスト代表取締役相内英之さん(43)は、ビジネスを通じて地域に貢献しようと事業を展開している。
 相内さんは事務機販売業の2代目。しかし、社会情勢が大きく変化し、「会社、自分の存在価値が小さくなっていると感じた」という。NPO法人の活動を通じて白神山地周辺の自治体とつながりができ、8年前から同村で養蜂に着手。2013年に同村と弘前市内にスイーツ店を相次いでオープンさせた。
 養蜂ではハチの全滅を経験、15年に仙台市に出店するも半年で撤退を決めるなど順風満帆ではなかったが、「人とのつながりでやってこられた」と振り返る相内さん。「ビジネスは人と人のコラボレーション。やる気のある人同士なら『1+1』が4、5、10にもなっていく」と力を込める。
 人口減少に歯止めがかからず、経済を含めて社会全体の縮小は避けられない。「だからこそ『1+1』が無限に広がるビジネスが重要になる。地域に新たな産業を興したい」とし、「事業を興し、産業に成長させる人間を育てなければ、地域活性化はない」と指摘する。
 GARUTSU(ガルツ)専務取締役としてシードルの醸造、販売にも携わり、現在は輸出に向けた準備を進める。同村でブドウ栽培を始め、来年にはワイナリーを立ち上げる予定で、「地域、国内の市場が狭まっていくなら外に飛び出していくしかない。自分の役目はビジネスで地域と世界をつなげていくこと」と先を見据える。
 今季、東北社会人サッカーリーグ1部で本県初の優勝を果たしたブランデュー弘前FC。Jリーグ参入への道を着実に歩んでおり運営する弘前Jスポーツプロジェクト理事長の黒部能史さん(42)は「ブランデューが進む道の上に人と人とが出会える“交差点”を数多く作り出したい」と理想を掲げる
 今季は成績だけでなく、クラブを介した地域活性化の面でも大きく前進した。J2の栃木SCから育成期限付きで選手を迎え入れたことが縁で、9月に栃木SCのホーム戦会場で物産展を開催。「Jリーグでも地域間交流しているクラブはなく、大きな成果があった」と手応えを語る。
 今秋からは県の求めに応じ、地域の基幹産業である農業の支援にも乗り出した。選手やスタッフがリンゴ園地で作業を経験。黒部さんは「農業×スポーツ」という新たな組み合わせに可能性を感じており「新たなビジネスチャンスを見いだす企業が出てくるかもしれない」と期待する
 JFL(日本フットボールリーグ)昇格、さらにJリーグ参入を目指す上で欠かせないのが、サポーターの応援はもちろん、行政や各種団体など地域全体との連携だ。「上に行くために必要なピースは周囲の本気度」と熱を込め、地元を拠点に活動するスポーツチームへの支援体制の構築を求める。
 ブランデューの存在を、市民やスポンサー企業、自治体などが交わる“交差点”に例える黒部さん。「外とのつながりが増えるに従って交差点も増えていく」とし、栃木での物産展、農業支援の活動もその一つと捉える。スポーツが生み出す人と人のつながりを信じ、「そこには創生の道がいくらでもある」と力を込めた。

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