創生への道 人口減少時代を生きる〈第5部 地域づくり〉

 

2018/11/24 土曜日

 

 人口減少と少子高齢化の進展により、地方は多くの課題を抱える。伝統産業の継承、新たな産業の育成など、将来につながる地域づくりに取り組む関係者の姿を7回にわたり紹介する。

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岐路に立つ伝統産業=1

 

県漆器協同組合連合会が取り組む研修事業。津軽塗職人を志す若者が技術の習得に励んでいる
地域おこし協力隊として鍛冶職人の修業を重ねる花村さん(左)と丸山さん。伝統の継承に強い意欲を見せる

 津軽地方には藩政時代から続く歴史の中で育まれた伝統工芸品が数多く存在する。代表格の「津軽塗」は、表現様式の多様さなどが評価され、2017年に本県初の国重要無形文化財に指定された。しかし、出荷額はピーク時の10分の1まで落ち込み、職人も減少の一途をたどる。担い手の育成、産業振興をどう図るか、関係者は生き残りの方策を探る。
 弘前職業能力開発校内の研修所では、津軽塗職人を目指す30~40代の若者が技術習得に励んでいる。県漆器協同組合連合会(石岡健一会長)の後継者育成研修事業で、現在は3~5期生5人が受講。約3年半で基本的な塗りの技法などを学ぶ。
 しかし、これまでに研修を終えた10人のうち、職人として活動を続けるのは5人。石岡会長は「昔は製造業者、師匠の下で働きながら技術を磨いたが、今は難しい」と現状を語り、「技術を磨きながら収入も得られるようにサポート体制を構築しなければならない」と力を込める。
 1990年代前半まで20億円を超えていた津軽塗の年間出荷額は約2億円まで減り、最盛期に700人以上いた職人も現在は100人余り。業界のけん引役である同連合会も加盟団体の脱退、解散が相次ぎ、伝統工芸津軽漆器協同組合だけが残る。
 国重文の価値、技術をつなぐことは大事だが、産業として衰退する一方では意味がない。石岡会長は「高級品だけでなく、産業商品を作ることも大事。大量生産の仕事もできる職人、産業を担う人材も育てなければならない」と指摘する。
 取り巻く状況は厳しいが、職人を志す若者の意識は高い。今年度で研修を終える大瀬歩さん(41)は「この道を貫きたい」、2年目の原純司さん(31)も「一生の仕事にしたい」と目を輝かせる。講師を務める伝統工芸士の今年人さん(61)は「技術を磨くにも一人では限界がある。若い人たちでグループをつくり、次の時代を担ってほしい」と期待する。
 20代から同連合会の事業に携わる石岡会長は「若い人が入りやすい環境を整えることが使命。40代の自分を会長に選んでくれた先輩たちの期待に応えたい」とし、青年部組織の設立を模索。「自分たちが次を担う意識を持ち、先輩たちの中にどんどん飛び込んでほしい」と願う。
 刀鍛冶の技を受け継ぎ、基幹産業のリンゴ栽培を支えてきた津軽打刃物も後継者不足は深刻だ。現在、弘前市内にある打刃物店は5社で、後継者がいるのは二唐刃物鍛造所(吉澤俊寿社長)だけだ。
 こうした中、3人の若者が同社で鍛冶職人の道を歩み始めた。市が募集した地域おこし協力隊の丸山敦史さん(30)=東京都出身=、花村英悟さん(26)=静岡県出身=の2人と、俊寿社長の3男・周さん(19)だ。
 修業開始から半年がたち、協力隊の2人は「作るたびに課題が見つかるが、それが楽しい」と充実感をにじませ、「(3年間の)活動後も弘前でこの仕事を続けたい」と口をそろえる。指導に当たる俊寿社長の長男・剛さん(31)は「2人ともセンスがあり、刺激を受けている。一緒に成長したい」とする。
 二唐の刃物は海外から注文が入るなど評価は年々高まっており、「津軽の刃物を多くの人に知ってほしい」と語る剛さん。父、兄の姿を間近で見て育った周さんは「一緒に伝統の技を残したい」と力を込める。若い4人が切磋琢磨(せっさたくま)を重ね、新たな時代を切り開く。

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地方から狙う世界市場=2

2018/11/25 日曜日

 

保育園からの幼なじみである齋藤さん(右)と三浦さん。弘前市内に今夏開設した事務所のデスクは地元人材で埋まりつつある
カードゲームでの戦いをベースにしたゲームアプリ「津軽為信統一記」の開発画面

 「青森から世界へダイレクトにつながるビジネスを実践したい」。10月下旬、弘前市のひろさきビジネス支援センターで開かれた起業セミナー。ゲスト講師の齋藤雅昭さん(42)がビジョンを熱く語っていた。齋藤さんは今年6月、幼なじみの三浦斎さん(42)と津軽初のゲーム開発会社「エイコードバンク」を弘前市に開業した。すでに二つのゲームアプリをリリースしており、津軽為信をテーマにした新作も準備中だ。情報技術(IT)分野では後進の本県から成長産業のゲーム市場へ参入し、将来的な海外展開も見据える。
 齋藤さんは平川市生まれ。県内の高校を卒業後、就職のため上京し、アスキーなど大手でゲーム作りに携わった。現在は首都圏でフリーのシステムエンジニアとして働く。齋藤さんとゲーム仲間だった三浦さんは県内のコンピューター会社でプログラマーとして働く傍ら、個人でロールプレイングゲーム(RPG)などを開発し、無料で公開していた。
 2人が起業を決意したのは2013年。背景にあったのはゲーム開発をめぐる製作・流通環境の変化だ。開発エンジン「ユニティ」の登場で低コストでのゲーム開発が可能に。アプリ販売のプラットフォームとなるスマートフォンが全世界的に普及し、10兆円規模とされるグローバルなゲーム市場へ個人でも参入できる環境が整った。
 しかし「有料に値する水準のゲームを作るのは資金面で難しい」と感じていた三浦さん。かねてより地元でIT関連の起業を考えていた齋藤さんは、三浦さんを資金面でバックアップすれば「青森でもゲーム開発会社が成り立つ」と法人化へ向け動き出した。
 資金調達は難航した。銀行の担当者から「青森は農業と漁業の県」と断られたことも。「ITの普及で今までできなかったことができる社会になる。首都圏でしか無理だったゲーム開発も青森でできる」。齋藤さんは自己資金で開発を継続した。県内での起業にこだわるのには、ほかにも理由がある。首都圏より家賃が安く、通勤のストレスが少なく製作に集中できる環境が整う。「首都圏にお金が集まる流れにあらがいたい」との思いもあった。
 こうした信念が実を結び、15年に1作目のRPG作品「アビスアンドダーク#1」が完成。現在もじわじわと売れ続けており、1200円の有料版は約3000ダウンロードを記録しているという。今春に発表した「アビス―」シリーズの新作はクラウドファンディング(インターネットによる資金調達)を活用したほか、グーグルのアプリ販売サイトで紹介され話題を集めた。海外から英語版のリリースに関する問い合わせもあり、海外展開への手応えを感じている。
 活動の広がりに加え、ひろさきビジネス支援センターの起業支援専門家の協力で今春、地銀の融資を受けることができた。今夏に齋藤さんを代表に法人化。秋までにデザイナーと、都内企業のシステム開発を請け負うエンジニアの計4人の地元人材が加わった。
 同社は現在、みちのく・ふるさと貢献基金の助成金を使い、来春の完成を目標に津軽為信が津軽統一を目指すゲームアプリを開発中だ。地元人材やUターン人材の受け皿になりたいとの思いも強く、海外展開に向け翻訳担当者を地元の留学生から採用する案もある。齋藤さんは「企画力のある場所にお金が集まる時代。うちがモデルになり、ITやエンタメ系の企業が青森にも続いてくれれば」と本県に新たな産業が根付くことを願っている。

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サブカルの可能性=3

2018/11/26 月曜日

 

ふらいんぐうぃっちの効果で来場者が増加した藤田記念庭園の「大正浪漫喫茶室」=2016年9月

 人気アニメなどサブカルチャー(サブカル)の舞台になった実在の場所を巡る「聖地巡礼」。各地の観光スポットだけでなく、一見どこにでもあるような場所ですら、観光地としての価値を持ち得るのだという可能性を示した最近の旅行スタイルだ。「聖地」を新たな観光資源として活用する自治体は全国的にも少なくない。
 2016年にアニメ化された「ふらいんぐうぃっち」(原作・石塚千尋さん、講談社・別冊少年マガジン連載)の舞台である弘前市でも、さまざまな取り組みが行われている。
 弘前観光コンベンション協会は15年に初めて、同作品を扱った聖地巡礼を企画した。舞台になった市内の各スポットを巡るマップ「チトナビ」を作成し、弘前市立観光館などで配布。弘前駅中央口には看板を設置した。
 アニメの放映が始まった16年には弘前さくらまつり、弘前ねぷたまつりとのコラボレーション企画を展開した。
 「予想以上の効果があった」と当時を振り返る同協会の白戸大吾観光振興部長。劇中で主人公らが訪れた藤田記念庭園洋館内「大正浪漫喫茶室」の来場者数は、15年6~8月が5880人だったが、アニメが放映された16年同時期は約2倍の1万2074人に達した。
 何よりも、アニメ冒頭部分で主人公が降り立つ同市下湯口のバス停など、観光地ではない場所に、多くの観光客の姿が見られるようになったのは驚きだった。
 「アニメなどと連携した取り組みは、地元にとって普段何気ない場所が観光地化する可能性を秘めている」と白戸部長は力を込める。
 放映から2年が経過した現在、ブームは沈静化している。当初の確かな効果を実感しつつも、市民からは急激な落差を指摘する声があり、現在を「つなぎ」の時期として、新たな取り組みを模索すべきとの声もある。
 同市中野で25年の長きにわたってアニメグッズ店「アニメディアブランコ」を経営する松岡保彦さん(64)は、「ふらいんぐうぃっち」アニメ化前の15年7月に同作品のグッズをプロデュースした。同店には現在も、県内外からグッズを買い求めに来店するファンが後を絶たない。
 松岡さんは「地元はブームが過ぎ去っていても、全国に根強いファンが居る。聖地巡礼で訪れるファンを大切にすべき。新たな取り組みで地元がもっと盛り上がれば効果を持続させられるのでは」と強調。「聖地巡礼で訪れる観光客は若年層が中心だろう。また訪れたくなるような仕組みづくりを」と訴える。
 実際、同作品のファンの活動は活発だ。全国各地から弘前を訪れ、交流活動に参加するファンも少なくない。市内で交流会などを主催してきた同市の会社員三浦裕基さん(23)もファンの一人だ。「作品には生まれ育った弘前の風景が登場するので、アニメに入り込んだような気持ちになる」と作品の魅力を語る三浦さん。
 「ファンの力で弘前を動かせないか」と思い立ち、17年2月に同作品にちなんだ雪燈籠を作るイベントを初めて主催した。今年2月にも行われ、全国から集まった約20人が力を合わせて作った雪燈籠が、弘前城雪燈籠まつりに花を添えた。「弘前と『ふらいんぐうぃっち』の魅力を伝えたい。活動が地元の盛り上がりにつながれば」と意欲を語る。
 ねぷた絵師としても活躍する三浦さんは、ファンが中心となって「ふらいんぐうぃっちねぷた」を制作・運行するという夢があり、実現に向けて現在計画を練っている。ファンの活動で新たな効果を生み出したい考えだ。
 「日本のアニメは世界的な人気がある。2020年の東京五輪に合わせ、各国からのインバウンドに向けた発信も行っていければ、さらなる効果が期待できる」と白戸部長。弘前観光コンベンション協会は、他作品も含めた新たな切り口での取り組みも検討している。熱烈なファンの力も生かしながら、アニメなどを活用した地域振興への模索が続く。

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