創生への道 人口減少時代を生きる〈第4部 農業〉

 

省力化で産地を守る=4

2018/7/17 火曜日

 

わい化樹が近い間隔でみっしり並ぶ「高密植わい化栽培」の園地。村上さん(左)によると、収益性が高く、作業効率も良いという

 「作業性の良さが全然違う」。黒石市上十川のリンゴ生産者村上鐵雄さん(69)は、19年前から「高密植わい化栽培」に取り組んでいる。普通(丸葉)栽培より背が低くて細い、わい化樹を園地にたくさん植える栽培方法。幅約4メートルの通路を挟み、1~1・15メートルと近い間隔でわい化樹がみっしり並ぶ。
 村上さんがわい化栽培に取り組むのは多収を実現するためだが、わい化樹は、枝が横に広がり大きくなる普通栽培より剪定(せんてい)や収穫などの作業がしやすいメリットがある。加えて、木の本数が多い高密植で園地が整然としているため、草刈り機、スピードスプレーヤー、高所作業台車など機械を使った作業も容易だ。
 農林業センサスによると、県内のリンゴ販売農家は1990年に2万5024戸だったが、2015年には1万3757戸まで減った。手間暇が掛かるリンゴ作りだが、農家が減る中で産地を維持するには省力化が大きな課題となっている。
 「何だかんだでリンゴ作りも機械に左右されている」。機械を入れるのが困難な山手など傾斜地の園地は廃園となり、平たんな園地での高密植わい化栽培が今後のリンゴ作りの主流になる―と村上さんは予測する。
 農林水産省のリンゴの調査によると、収穫可能な園地面積を表す本県の「結果樹面積」は16、17年産と2年連続の1万9900ヘクタールで、2万ヘクタールを割っている。わい化栽培への切り替えも進んではいるが、リンゴ作りそのものを見直して生産量確保を目指す動きも出ている。
 県は17年度から2カ年、需要が高まっているカットリンゴやプレザーブ(砂糖煮)の原料となる「高品位加工リンゴ」の安定供給に向けた事業を展開。加工用リンゴの確保だけにとどまらず、生産者に加工専用園の導入を進めるきっかけづくりを目指す。
 「着色管理がいらない。収穫が1回でできる。選果しなくても済む」。この事業で加工業者と生産者をつなぐコーディネーターを務める県りんご協会の工藤英紀技師は、加工専用園を導入する利点を解説する。
 生果用リンゴは見た目が重視される。だが、そもそもカットリンゴやプレザーブに加工されることが決まっていれば、葉摘み、つる回しといった着色管理は不要。収穫したリンゴを1個1個仕分ける選果の手間も省ける。
 荒廃の恐れがある園地を意欲ある生産者に集約し、省力化栽培が可能な加工専用園として活用を進める。そして、需要の高い高品位加工リンゴとして出荷してもらう。加工専用園の普及が少子高齢化時代の産地を守る鍵になるかもしれない。
 とは言え、話は簡単に進まない。「生産者は生果用の高品位なリンゴを作りたい」と工藤技師。加工専用のリンゴ作りに抵抗感を抱く生産者は少なくないという。
 「生産者の意識改革ができれば一歩ずつ先に進むかもしれない」。事例を着実に重ね、加工専用園導入を農業経営の選択肢に入れてもらえるようPRに努める構えだ。

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産地間競争に打ち勝つ=5

2018/7/18 水曜日

 

産地間競争を生き抜くには青天の霹靂の「さっぱり」とした食味を独自性として打ち出したい考え

 「2016年産よりもコメが出荷される進度は良い」。全農県本部の成田具洋米穀部長は、17年産「青天の霹靂(へきれき)」の小売店での販売終了は前年産よりも早いと見込む。
 県内の出荷団体が扱う霹靂の17年産販売計画数量は前年産比1439トン増の9014トン。このうち全農県本部が扱う約8800トンに占める出荷割合は6月末時点で、約82%(出荷量約7200トン)と前年産同時期を9ポイント上回る。県産米の「まっしぐら」「つがるロマン」が5~6割で順調とされる中、霹靂に対する引き合いの強さをうかがわせる。
 本県初のブランド米として登場した霹靂は、作付け地域の限定や農薬の使用回数の制限、うま味に影響する「玄米たんぱく質含有率」など厳しい栽培・出荷基準を設けているほか、衛星画像を活用する最先端技術「リモートセンシング」も生産指導の中に取り入れて、高い品質や食味を維持している。
 販売対策では認知度を高められるようインパクトの大きい名称はもちろん、食品で使用が避けられる傾向にある青色を包装に取り入れ、宣伝モデルに男性を起用するなど、従来のコメの宣伝方法とは異なる戦略を仕掛けてきた。
 生産、販売の両面での努力、工夫のかいもあり、成田部長によると、さっぱりとした味わいと安定した品質、他県産の高額な有名ブランド米よりも手頃な価格が卸売業者の評価を得ているという。
 霹靂は県産米の評価を高める「けん引役」と期待され、15年産で市場デビューした。霹靂の効果か、中・外食産業の業務用米として取引されてきた「まっしぐら」が首都圏のスーパーなどの店頭に並ぶ動きも見られるようになっている。成田部長は3年間の販売を通じ、「県産米の評価を上げていることが明確になってきた」と手応えを語る。
 平川市の生産者で、津軽みらい農協特A米プレミアム研究会長の工藤憲男さん(66)は霹靂の作付け後に手取りが「増えた」と実感する。他県産のブランド米と比べても「負けていない、おいしいと感じる。今の食味と品質を守り続け、しっかりと売り出せば問題はないと思う」と自信をのぞかせる。
 しかし、全国の各産地が売り出すブランド米は“戦国時代”に突入した。農林水産省の調査によると、国内のコメの需要量は毎年約8万トンずつ減り続けており、人口減少や食生活の変化を背景に消費量は落ち込んでいる。高価格なブランド米を売り出して生産者の所得増加を狙うが、一部消費者の奪い合いに陥っているのが現状だ。
 日本穀物検定協会が実施する食味ランキングの最高評価「特A」に選ばれた17年産米は青天の霹靂を含む43産地銘柄で、評価区分に特Aが設定された1989年産の13産地銘柄に比べて大幅に増加。特A評価はブランド米の成功を保証するわけではないが「成功への近道」になるため、各産地は特A取得に躍起。激化する産地間競争を勝ち抜かなければ、高まってきた県産米の評価を失いかねない。
 県総合販売戦略課の齋藤直樹課長は、霹靂がすでに高い認知度と人気を誇る「ゆめぴりか」(北海道産)や「つや姫」(山形県)を追う立場にある―と指摘する。
 さらに霹靂の市場デビュー以降も、後を追うように他産地が続々とブランド米の新品種を投入している。
 いかに産地間競争を勝ち抜くか―。「ブランドの強化を抜かりなく続けていくことが求められる」と齋藤課長は力を込める。ほかの品種にはない「さっぱり」とした食味を武器に、市場で存在感を示す戦略を描き、コメ生産県として生き残るための先を見据える。

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激変するコメづくり=6

2018/7/19 木曜日

 

育苗ハウスでシャインマスカットの生育を見守る川浪さん。農業経営を維持するため、コメ作りを基軸としながら他作物の栽培にも取り組む

 半世紀ほど続いた国によるコメの生産調整が2018年産から見直された。本県では「県農業再生協議会」が独自に生産数量目標を定めたが、過剰供給によって米価が下落するのではないかという不安は大きい。コメの消費量が年々減少していく中、本県最大のコメどころである西北地方では、生き残りを懸けて売れるコメ作りに励む生産者がいる一方、コメに変わる高収入可能な農作物への移行も進められている。
 中泊町の農業生産法人ケイホットライス。代表取締役の荒関敬悦さんは1987年、生産者が農協などを通さず消費者と直接契約して販売ができる「特別栽培米制度」に県内で初めて取り組んだ。
 「農業も商売。“商品”をどうやって売るかと考えた結果」と荒関さん。生産調整の廃止について「県で独自に目標を決めるようになったので実際は変わらない」とし「コメの消費量がどんどん減る中、過剰生産すると米価は下がらざるを得ない。そうなると、リタイアする農家がたくさん出てくる」と危惧する。
 「精米より、コンビニのおにぎりや真空パックのご飯が売れる時代。そういう部分へ売り込んでいくことも必要」と話す荒関さん。それでも「やはり、国内でもっとコメを食べてもらう取り組みをやってほしい。コメを食べることで国土と農家を守ることにつながるんだと知ってもらいたい」と切実に訴える。
 生産者の中には、コメ以外の農作物に経営の活路を見いだす動きもある。水稲の育苗ハウスを活用したシャインマスカット栽培に取り組み、今年産からは市場に出荷する五所川原市の川浪由男さんは「昔と比べてコメの価格が頼りにならなくなった」と環境の変化を指摘する。
 川浪さんの主要作付けは水稲15ヘクタール(青天の霹靂(へきれき)とまっしぐら)と麦3ヘクタールで、農業経営の基盤はコメ作り。だが米価の低迷を受け、5年前から娘の真澄さんと育苗ハウスでのシャインマスカット栽培を続けている。
 水稲農家にとっての利点は、商品価値の高さと参入のしやすさ。シャインマスカット栽培は、水稲の育苗ハウスの上部を活用した「アーチ型栽培」を導入し、労働力に余裕がある水稲の農閑期に諸作業を進めることで水稲との両立が可能。
 商品として出荷できる果実が実るまでに早くても3年ほどかかるが、無理のない範囲で収入増につなげられるため、西北地域県民局は同地域での産地化を推進している。
 当初は「家庭の楽しみや娘の新規就農につながれば」(川浪さん)と始めたが、今では5棟の育苗ハウスで計50本の木を育てるなど規模を拡大。将来的な目標は年間100万円程度の副収入につなげることで、コメの出来不出来に頼らない農業経営を目指している。
 川浪さんは「コメ作りは農業用機械など初期投資が掛かる。これからの農業を盛り上げるためには、若い人が魅力を感じる仕事にならなければならないのでは」と話す。

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革新で未来につなぐ=7・完

2018/7/21 土曜日

 

ICT(情報通信技術)を活用し、リンゴ作りの労働生産性向上を図る森山さん。左にあるのが「ツリータグ」

 「リンゴを作るのにどれだけの労力を掛け、どれだけ稼げているかが一番の疑問だった」。剪定(せんてい)に始まり、摘果、摘葉、玉回し、収穫―と、多くの人手と時間を要するリンゴ栽培に独自のクラウド型生産管理システム「ADAM(アダム)」を導入する、もりやま園(弘前市)の森山聡彦代表取締役(46)。ICT(情報通信技術)の活用で作業工程を「見える化」し、労働生産性の向上を図っている。
 もりやま園は弘前の地で100年以上続くリンゴ農家。2015年2月に家族経営から法人化した現在約10ヘクタールの園地で20品種以上のリンゴを栽培する。
 もりやま園ではリンゴの木1本1本に「QRコード」の付いた「ツリータグ」をぶら下げている。専用のアプリが入った携帯端末でQRコードを読み取ると、いつ、だれが、どのような作業を、どのくらいの時間を掛けて行ったのか記録できるシステムだ。
 森山さんがこのアダムを開発、導入した理由は、リンゴ栽培に「PDCA」サイクルの経営管理手法を取り入るため。16年からアダムを本格運用するようになり、さまざまなことが明らかになった。
 同年の総作業時間は1万2319時間にも上り、アダムで集めたデータを基に「利益を生まない作業をカットした」。摘葉、玉回しなどの着色管理を中心に作業時間を削り、17年には5495時間にまで短縮した。加工用を中心に生産しているため、着色管理は「味を良くする作業ではない。見た目の問題」と割り切った。
 森山さんがアダムの開発に乗り出した08年、津軽地方は降ひょう被害に見舞われた。この年は傷が付いた多くのリンゴが加工用に回り、加工業者も予想以上の入庫量に受け入れを制限する事態に。買い取り価格は大暴落した。
 「自然災害はコントロールできないが、経営や栽培の仕方によりリスクを背負わなくて済む経営の仕組みを作らないとだめだ」。森山さんは痛感した。
 秋の収穫時のみ収入を得ていた仕組みを転換する必要がある。そこで目を付けたのは、実すぐりで樹上から落とした未熟果「摘果果(てきかか)」だ。
 摘果作業で毎年、大量の未熟果が利用されることなく捨てられる。加えて16年は摘果作業に約3000時間もの膨大な時間を費やしていた。「捨てることに手間を掛けるのをやめないといけない。何か価値を生み出さないとならない」。
 農薬の散布基準を見直すなどの試行錯誤を重ね、今年2月に摘果果を原料とする「テキカカシードル」を発売した。また、剪定した枝をチップ化して作った菌床を利用して、キクラゲの生産にも取り組んでいる。
 少子高齢化に伴う労働人口の減少により、各産業間で人材の奪い合いは激しさを増している。森山さんはこの流れの中で、労働生産性が低い産業はいずれ淘汰(とうた)される―と考える。家族経営の場合、収入が時給換算で最低賃金にも満たないリンゴ生産者も多いという。
 ICTの活用や未利用資源を使った商品開発に活路を見いだそうと奮闘する森山さんは言う。
 リンゴづくりや農業が生き残っていくためには「まずは生産者の精神構造を変えていかないといけない」。変化を恐れず、絶えず挑戦することで農業を労力に見合った対価が得られる仕事に転換していく必要性を訴える。

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