創生への道 人口減少時代を生きる〈第4部 農業〉

 

有袋栽培=3

2018/7/16 月曜日

 

 「着色が良いので商品になる果実の割合が高まる。つる割れも減って商品化率が向上し、収益性も上がる」。今年2月に弘前市内で開かれた県産リンゴのフォーラムで、県りんご果樹課の担当職員はリンゴに袋を掛けて育てる「有袋栽培」のメリットを次々と挙げた後、「県産リンゴの強みである周年供給の体制を維持するために呼び掛けをお願いしたい」と出席した生産者らに協力を求めた。
 害虫から果実を守るために明治時代に導入された有袋栽培は、袋をはぎ取った時点から着色が始まるため一斉収穫ができるほか、袋を掛けずに育てる「無袋栽培」より収穫期が早く、労働力を分散できる利点もある。
 何より最大のメリットは、貯蔵性の高さから県産リンゴの通年販売を可能にさせている点だ。9月ごろから翌年3月ごろまでは無袋ふじを中心に出荷し、4月以降はリンゴの呼吸作用を人工的に調整して鮮度を長期間維持する「CA貯蔵」の冷蔵庫で保管した有袋ふじを出荷している。
 だが、有袋から無袋に切り替える生産者が増えている。同課の調査によると、ふじの栽培面積に占める有袋の割合は1990年産が81%と8割を超えていたが、97年産で5割を切って49%に。その後も下降し続け、2016年産は3割以下の27%にまで落ち込んだ。
 食味が良くなる無袋を進めることで他県産と差別化をする動きが昭和50年代ごろにあったが、近年は、人手不足と価格差から無袋に切り替える生産者が急増している。
 生産者の高齢化や農作業を手伝う補助労働力が不足している状況に加え、無袋でも着色が良い「着色系統」のふじの種類が増えて産地市場の価格が全体的に上昇し、有袋ふじの有利性が希薄になっていることが影響しているという。
 このまま有袋が減り続ければ、周年供給のバランスが崩れて4月以降に売り場に並ぶリンゴが「ニュージーランド産など海外産に取って変わられることが危惧される」(同課の舘田朋彦課長)。14年産から3年連続で1000億円を超える好調な県産リンゴの販売に影を落としかねない。
 そんな中、つがる弘前農協(本店弘前市)は管内で生産された有袋ふじを「機能性表示食品」として消費者庁に届け出し、今年3月に受理された。リンゴに多く含まれるポリフェノールの一種「プロシアニジン」に内臓脂肪を減らす機能があると報告されており、包装にその健康機能を表示し、「プライムアップル!」の商品名で東京や大阪地域で販売している。
 同農協に入庫された17年産リンゴ約287万箱(1箱20キロ)のうち、有袋ふじはおよそ14万箱。有袋ふじの入庫数量は年々減少しているという。
 3月の「プライムアップル!」の発表記者会見で工藤文明組合長は、取引先から県産リンゴを通年販売できるよう供給してほしい―との要望が強いとして有袋の重要性を強調。
 付加価値の高い「プライムアップル!」が市場で認められることにより、「今まで『忙しいから袋を掛けない』『そんなに(無袋と)値段が違わないなら袋を掛けない』と言っていた組合員や農家も袋を掛けるきっかけになるのではないか」と期待を膨らませた。

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省力化で産地を守る=4

2018/7/17 火曜日

 

わい化樹が近い間隔でみっしり並ぶ「高密植わい化栽培」の園地。村上さん(左)によると、収益性が高く、作業効率も良いという

 「作業性の良さが全然違う」。黒石市上十川のリンゴ生産者村上鐵雄さん(69)は、19年前から「高密植わい化栽培」に取り組んでいる。普通(丸葉)栽培より背が低くて細い、わい化樹を園地にたくさん植える栽培方法。幅約4メートルの通路を挟み、1~1・15メートルと近い間隔でわい化樹がみっしり並ぶ。
 村上さんがわい化栽培に取り組むのは多収を実現するためだが、わい化樹は、枝が横に広がり大きくなる普通栽培より剪定(せんてい)や収穫などの作業がしやすいメリットがある。加えて、木の本数が多い高密植で園地が整然としているため、草刈り機、スピードスプレーヤー、高所作業台車など機械を使った作業も容易だ。
 農林業センサスによると、県内のリンゴ販売農家は1990年に2万5024戸だったが、2015年には1万3757戸まで減った。手間暇が掛かるリンゴ作りだが、農家が減る中で産地を維持するには省力化が大きな課題となっている。
 「何だかんだでリンゴ作りも機械に左右されている」。機械を入れるのが困難な山手など傾斜地の園地は廃園となり、平たんな園地での高密植わい化栽培が今後のリンゴ作りの主流になる―と村上さんは予測する。
 農林水産省のリンゴの調査によると、収穫可能な園地面積を表す本県の「結果樹面積」は16、17年産と2年連続の1万9900ヘクタールで、2万ヘクタールを割っている。わい化栽培への切り替えも進んではいるが、リンゴ作りそのものを見直して生産量確保を目指す動きも出ている。
 県は17年度から2カ年、需要が高まっているカットリンゴやプレザーブ(砂糖煮)の原料となる「高品位加工リンゴ」の安定供給に向けた事業を展開。加工用リンゴの確保だけにとどまらず、生産者に加工専用園の導入を進めるきっかけづくりを目指す。
 「着色管理がいらない。収穫が1回でできる。選果しなくても済む」。この事業で加工業者と生産者をつなぐコーディネーターを務める県りんご協会の工藤英紀技師は、加工専用園を導入する利点を解説する。
 生果用リンゴは見た目が重視される。だが、そもそもカットリンゴやプレザーブに加工されることが決まっていれば、葉摘み、つる回しといった着色管理は不要。収穫したリンゴを1個1個仕分ける選果の手間も省ける。
 荒廃の恐れがある園地を意欲ある生産者に集約し、省力化栽培が可能な加工専用園として活用を進める。そして、需要の高い高品位加工リンゴとして出荷してもらう。加工専用園の普及が少子高齢化時代の産地を守る鍵になるかもしれない。
 とは言え、話は簡単に進まない。「生産者は生果用の高品位なリンゴを作りたい」と工藤技師。加工専用のリンゴ作りに抵抗感を抱く生産者は少なくないという。
 「生産者の意識改革ができれば一歩ずつ先に進むかもしれない」。事例を着実に重ね、加工専用園導入を農業経営の選択肢に入れてもらえるようPRに努める構えだ。

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産地間競争に打ち勝つ=5

2018/7/18 水曜日

 

産地間競争を生き抜くには青天の霹靂の「さっぱり」とした食味を独自性として打ち出したい考え

 「2016年産よりもコメが出荷される進度は良い」。全農県本部の成田具洋米穀部長は、17年産「青天の霹靂(へきれき)」の小売店での販売終了は前年産よりも早いと見込む。
 県内の出荷団体が扱う霹靂の17年産販売計画数量は前年産比1439トン増の9014トン。このうち全農県本部が扱う約8800トンに占める出荷割合は6月末時点で、約82%(出荷量約7200トン)と前年産同時期を9ポイント上回る。県産米の「まっしぐら」「つがるロマン」が5~6割で順調とされる中、霹靂に対する引き合いの強さをうかがわせる。
 本県初のブランド米として登場した霹靂は、作付け地域の限定や農薬の使用回数の制限、うま味に影響する「玄米たんぱく質含有率」など厳しい栽培・出荷基準を設けているほか、衛星画像を活用する最先端技術「リモートセンシング」も生産指導の中に取り入れて、高い品質や食味を維持している。
 販売対策では認知度を高められるようインパクトの大きい名称はもちろん、食品で使用が避けられる傾向にある青色を包装に取り入れ、宣伝モデルに男性を起用するなど、従来のコメの宣伝方法とは異なる戦略を仕掛けてきた。
 生産、販売の両面での努力、工夫のかいもあり、成田部長によると、さっぱりとした味わいと安定した品質、他県産の高額な有名ブランド米よりも手頃な価格が卸売業者の評価を得ているという。
 霹靂は県産米の評価を高める「けん引役」と期待され、15年産で市場デビューした。霹靂の効果か、中・外食産業の業務用米として取引されてきた「まっしぐら」が首都圏のスーパーなどの店頭に並ぶ動きも見られるようになっている。成田部長は3年間の販売を通じ、「県産米の評価を上げていることが明確になってきた」と手応えを語る。
 平川市の生産者で、津軽みらい農協特A米プレミアム研究会長の工藤憲男さん(66)は霹靂の作付け後に手取りが「増えた」と実感する。他県産のブランド米と比べても「負けていない、おいしいと感じる。今の食味と品質を守り続け、しっかりと売り出せば問題はないと思う」と自信をのぞかせる。
 しかし、全国の各産地が売り出すブランド米は“戦国時代”に突入した。農林水産省の調査によると、国内のコメの需要量は毎年約8万トンずつ減り続けており、人口減少や食生活の変化を背景に消費量は落ち込んでいる。高価格なブランド米を売り出して生産者の所得増加を狙うが、一部消費者の奪い合いに陥っているのが現状だ。
 日本穀物検定協会が実施する食味ランキングの最高評価「特A」に選ばれた17年産米は青天の霹靂を含む43産地銘柄で、評価区分に特Aが設定された1989年産の13産地銘柄に比べて大幅に増加。特A評価はブランド米の成功を保証するわけではないが「成功への近道」になるため、各産地は特A取得に躍起。激化する産地間競争を勝ち抜かなければ、高まってきた県産米の評価を失いかねない。
 県総合販売戦略課の齋藤直樹課長は、霹靂がすでに高い認知度と人気を誇る「ゆめぴりか」(北海道産)や「つや姫」(山形県)を追う立場にある―と指摘する。
 さらに霹靂の市場デビュー以降も、後を追うように他産地が続々とブランド米の新品種を投入している。
 いかに産地間競争を勝ち抜くか―。「ブランドの強化を抜かりなく続けていくことが求められる」と齋藤課長は力を込める。ほかの品種にはない「さっぱり」とした食味を武器に、市場で存在感を示す戦略を描き、コメ生産県として生き残るための先を見据える。

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