創生への道 人口減少時代を生きる〈第4部 農業〉

 

2018/7/14 土曜日

 

  少子高齢化の進展により、本県が日本一の生産量を誇るリンゴは担い手や労働力の不足が深刻化している。産地間競争が激化の一途をたどるコメは国による生産調整(減反)が廃止され、大きな転換期を迎えた。リンゴやコメを中心に、生産現場が抱える課題と立ち
向かう関係者の姿を7回にわたり紹介し、本県農業の未来を考える。

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担い手・労働力不足・上=1

 

担い手を育てる「kimori campus(キモリ・キャンパス)」で、この春からリンゴ栽培技術の習得に励む須藤さん

 6月上旬、弘前市船沢地区のリンゴ園地でまだ小さな「金星」の実に、てきぱきと袋を掛ける男女の姿があった。彼らは、弘前市の「弘前シードル工房kimori」を運営する百姓堂本舗が借り受けた、後継者不在の園地でリンゴ作りを学んでいる4人だ。同社の高橋哲史代表取締役(45)いわく、ここは「ただのリンゴ畑じゃない。人が育っていく場所」。
 この園地のあるじは昨年末、病気のため亡くなった。後継者がおらず、放任園になるか、木が切られる恐れもあったが、知人を介して知った同社がこの春から借りている。
 「弘前では後継者がいるリンゴ農家は2割程度と言われる。今までは農家に生まれた人たちでリレーしてきたものが、成り立たなくなってきている」(高橋さん)。
 2015年農林業センサスによると、農業後継者がいる弘前市内の販売農家数は前回(10年)から14・2%減少している。“バトン”のつなぎ方が従来の「親から子へ」だけでは、リンゴ産地は守れない。農家出身ではない人たちをリンゴ作りに取り込まないといけない―と高橋さんは考える。
 しかしながら、リンゴ作りに意欲ある人がいても「現実的には第一歩が踏み出せない」。リンゴ作りは技術はもちろん、畑を買ったり、借りたり、苗木や資材購入などの多額の初期投資が必要だ。新たに木を植えたら収穫までに年月がかかる。
 同社が「kimori campus(キモリ・キャンパス)」と名付けた船沢地区の園地で目指すのは「(非農家出身者の)新たな人にリンゴ作りに入ってもらい、担い手として育てる」こと。
 高橋さんや元県りんご協会職員の奈良正史さん(61)が指導役となり、きちんとした栽培技術を習得させる。袋掛け作業にいそしむ4人はバトンの受け手、出し手の候補だ。
 そのうち研修生として働く須藤七星さん(36)は平内町生まれの非農家出身。東京からUターンし宿泊業や観光業に就いた際、リンゴ作りに興味を持ち挑戦を決意したが、「知識も経験も土地もないので、まずはさまざまな農家の人に話を聞きに行った」。
 須藤さんから就農について相談を受けた高橋さんは、自宅の園地が人手も足りていることもあり、まずは同社取締役の園地で働くことを世話した。一方で、担い手を育てる仕組みがないことを実感し、キモリ・キャンパスを立ち上げた。
 須藤さんは16年秋から約1年半、取締役の園地で働き、改めてリンゴ作りが好きであること、自分の体力でも取り組めることを確認し、現在はキモリ・キャンパスで充実した日々を送る。
 「担い手不足はもっと深刻化し、リンゴ作りができない畑が増えていく。その時、ここに人が育っていれば手を差し伸べることができるじゃないか」と高橋さん。キモリ・キャンパスで担い手育成の仕組みを確立させ、そ地域、地域に波及させていく―。リンゴ産地を守るための挑戦は始まったばかりだ。

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担い手・労働力不足・下=2

2018/7/15 日曜日

 

藤谷さんのナガイモ畑の畝に支柱を差し込むタスケルのパート社員

 「収入を上げるため農地を広げたものの、作業が間に合わない」。六ケ所村でナガイモなど根菜類を生産する藤谷義秋さん(56)は、労働力不足の現状を訴える。村内に約25ヘクタールもの広大な畑を持ち、娘夫婦と合同会社を経営する。農繁期は人手が足りず、社員を募集しても「農業は重労働なイメージのためか人が来ない」。適期に作業を終えないと品質低下を招き、収入に影響が出る恐れも。そこで藤谷さんが利用するのは、農家に社員らを派遣する東北町の会社「アグリTASKEL(タスケル)」だ。
 藤谷さんは昨春、昨秋の農繁期にもタスケルに派遣を要請し、合わせて10日間延べ30人に手伝ってもらった。
 担い手支援を目的に、2016年にゆうき青森農協(本店東北町)の子会社として設立されたタスケルは管内の農家から派遣要請を受け付ける。社員らが農作業を手伝う「受託作業事業」は17年度、520件に延べ2083人を派遣した。
 同社の岡山時夫代表取締役は、労働力不足解消への早急な取り組みの必要性を主張する。高齢化や人口減少を背景に、意欲のある担い手への農地集約が進み、経営規模拡大が図られる半面、人手不足に拍車が掛かっているという。
 同社自体も人手不足で、派遣要請の全てに対応できていない。岡山代表取締役は「県内の農家が限界に来ている。外国人労働者などを入れないと経営に支障を来す。生産現場を衰退させれば、好調な青森県の農業販売額は維持できなくなる」と警鐘を鳴らす。
 こうした中、農業分野に外国人技能実習生を活用する動きも見られている。リンゴ、サクランボ、イチゴなどを栽培する弘前市十面沢の観光果樹園「森の中の果樹園」は、16年からベトナム人女性2人の技能実習生を受け入れている。
 「働きぶりがいい。リンゴの収穫作業も1日やったら大体は覚えてくれた」と、佐々木耕平代表取締役(44)は2人を評価する。
 その一方で、住居の用意や毎日の送迎などが必要で受け入れ先の負担は小さくない。加えて、技能実習である以上、仕事が農作業に制限されるため、今後新たに外国人技能実習生を受け入れるかは「少し悩んでいる」。
 補助労働力不足の解消に向けては、リンゴ生産量日本一を誇る弘前市が行政として、摘果、葉取り、収穫などの作業を実践的に学べる「初心者向けリンゴ研修会」を企画している。
 定年後の就農や副業を検討する人、リンゴ作業の手伝い経験がないため二の足を踏んでいる人―。市内に潜在するさまざまな人材の取り込みを狙う。
 初年度の17年度は2回の研修会に延べ約30人が参加し、葉取りと収穫の基本を学んだ。18年度は計5回開催予定で、初回の6月9日は会場の市りんご公園に、20~70代の男女20人近くが集まった。
 昨年も参加した白戸信昭さん(75)は金融機関を定年退職後、友人のリンゴ栽培を手伝った経験を持ち、今春には摘果のアルバイトをした。「摘果も農家によってやり方が違う。基本を学び、農家の要望にできるだけ応えられるようにしたい」とし、担い手不足や補助労働力不足というリンゴ産地が抱える課題を理解するだけに「体力が続く限りはリンゴ作りの手伝いをしたい」と語る。
 労働人口が減り、他産業との人材確保競争が激化する中、農業生産現場を支える補助労働力をどう確保するか―。担い手と同様、他産業などから意欲ある人を取り込み、育成する観点が欠かせない。

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