桜と生きて 弘前観桜会100周年

 

桜の系譜=3

2018/4/27 金曜日

 

菊池楯衛が寄贈・植栽したとされる「日本最古のソメイヨシノ」。100周年を迎える祭りを見守っている。今年は21日の開幕に合わせて開花した

 絢爛(けんらん)豪華な桜絵巻で人々を魅了する弘前公園。日本一の桜の名所があるのは、桜を植えた先人たちがいたから。公園北の郭にある武徳殿休憩所内では「桜の恩人」として、菊池楯衛(1846~1918年)、内山覚弥(1852~1933年)、福士忠吉(1881~1957年)が紹介されている。
 1871年の廃藩後、荒れ放題となった弘前城内。その姿を嘆いた旧藩士の内山が1880年、自費で桜20本を植えたとされる。続いたのが「青森リンゴの開祖」として知られる同じく旧藩士の菊池。内山の話を聞き、2年後にソメイヨシノ1000本を寄贈・植樹した。
 ただ、新編弘前市史通史編4(近・現代1)によると、当時は「城の中に桜を植えて、花見酒などとはもってのほか」との批判もあり、切られたり、引き抜かれたり、ほとんどは成木にならなかった。
 それでも、内山は弘前公園が開園した1895年、日清戦勝記念としてソメイヨシノ100本を寄贈。さらに市会議員の在任中、桜の植栽による公園美化を訴え続け、1903年に大正天皇のご成婚記念としてソメイヨシノ1000本を植えさせた。城跡を美しく―。旧藩士の思いが、桜の名所の原点になった。
 「全国から多くの人が訪れ、皆さんに喜ばれているのは一市民としてうれしい」。弘前公園の桜について菊池のひ孫、せい子さん(70)=弘前市=は笑顔で語る。
 菊池は1918年4月8日にこの世を去り、翌5月の第1回観桜会を見届けることはなかった。だが園内では今も、菊池が寄贈した桜が1本、「日本最古のソメイヨシノ」として花を咲かし続け、今年で100周年を迎えた祭りを見守る。せい子さんは「立派に桜を維持管理してくれている人に感謝しているのでは」と、天国の曾祖父に思いをはせる。
 せい子さんの長女、緑川純子さん(47)=同=はこぎん刺しで桜の単体模様を2013年に考案し、「楯衛吉野」と名付けた。
 先祖が弘前公園の礎を築いたことに「たまたまそういう家に生まれただけ」と照れつつも、菊池の功績を広く知らせたい―との思いを込めて楯衛吉野を刺している。
 残る1人の「桜の恩人」の福士。弘前公園に桜の寄贈を申し出て、1955年までにソメイヨシノ1300本などの苗木を植えた。当時の弘前公園は老木が多く、樹勢に衰えが見られていた。市は限られた予算内で補植に取り組んできたが、その窮状に手を差し伸べたのが福士だ。
 弘前市内に住む孫の勝夫さん(78)は「『中興の祖』。忠吉が寄付したことで桜の名所として再び立ち上がった」と、祖父が果たした役割を誇る。
 福士は第1回観桜会開催発起人の1人であり、市会議員を務めた際には公園の桜による観光振興を訴えたという。祖父らが残した桜と祭り。仕事が忙しく、久しく祭り時期に公園に足を運べていない勝夫さんだが、「100周年だから、今年は行きたいね」。一面桜色の園内に心を躍らせる。

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祭りの醍醐味=4

2018/4/28 土曜日

 

時代とともに変化を続けながら、祭りの風景を彩ってきた出店や見せ物の数々

 弘前さくらまつりの主役である桜とともに、祭りの風景を彩ってきた出店や見せ物は祭りの醍醐味(だいごみ)。1918(大正7)年の第1回観桜会では「芸者たちの手踊りが観客を集め、山車・自転車競争・相撲大会・花火打ち上げ等々、多種多彩な余興も繰り広げられた」(新編弘前市史通史編4近・現代1)。翌年の第2回から早くもガサエビ(シャコ)やバナナ売りが目立つようになる。ここに津軽の春の風物詩、トゲクリガニを加えた3品が大正期以降、観桜会の“食の三大名物”として長く親しまれた。
 「ガサエビとカニは衛生面などの問題で出せなくなった。殻がそこらじゅうに落ちて『刺さるから危ない』と言われた」。出店者で構成する弘前桜まつり協賛会専務理事の山崎勝男さん(64)が当時を振り返る。行商人だった祖父母の代から祭りが身近にある環境で育った。「確かに出店や見せ物の中身は時代とともに変わってきたけれど、お化け屋敷や食堂など当時から変わらないものもある。今だっていろんな店があるからね」と胸を張る。
 お化け屋敷は現在、東京や大阪などの4団体が1年ごとに巡業する。今年は前身の見せ物小屋から100年以上の歴史を誇る名古屋の安田興行が担当。代表の安田春子さん(85)は10代から呼び込みを務め、今も「昔ながらのお化け屋敷」を率いて全国を巡る。「観桜会は最初の頃から参加していたはず。昔はお客さんの馬車が北門の辺りにずらりと並んで、情緒があった」と回顧しつつ、「奈良や愛知の桜もきれいだけど、ここの桜を知ったらよそは見れない」と“日本一の桜”に太鼓判を押した。
 創業100年余り、映画「津軽百年食堂」のモデルとしても有名な弘前市の三忠食堂も観桜会の初期から出店。看板メニューの津軽そばは、だしに使う焼き干しの仕込みなどに手間がかかる。4代目店主の黒沼三千男さん(69)は「祭り期間中は寝ないで働くこともあるが、帰省した人などに『そばを食べてさっぱりした』と懐かしんでもらえるとうれしくて。今後も頑張らなければ」と老舗としての責任感をのぞかせた。
 現代の弘前さくらまつりの名物を問われ、悩んだ末に山崎さんが答えたのが「嶽きみの天ぷら」市内で飲食店「なじみ」を営む奈良正則さん(58)が店のメニューとして開発。9年前、祭りに出店するやいなや人気に火が付いた。しかし数年前に体を壊し、今は長男の隆輝さん(32)が現場を切り盛りする。隆輝さんは「油の量や衣の付け方など試行錯誤を重ねてきた。やり方をめぐって父と何度けんかしたことか」と振り返り、「だからこそ品質には自信がある」と頼もしい表情で語った。
 食の三大名物の中で、現在も唯一残るのがバナナだ。バナナが貴重品だった時代、年に1度の観桜会で買ってもらうことが子どもたちの楽しみだった。しかし現在、バナナを販売するのは1950年創業の青果卸売「笹喜代二商店」(弘前市)1店舗のみ。2代目店主の笹直正さん(64)は「私が小学生の頃はたたき売りも含めて二十数軒バナナを扱う店があったが、バナナは珍しくなくなった」と時代の変化を語る。
 それでも伝統を絶やさない姿勢を貫くのは、Uターンした次男の仁志さん(27)の存在が大きい。今年店に立った仁志さん。「僕自身、この商売で父に育てられた。その父が『店は先代から預かっている』と口にするのを聞くと、今度は自分が預かる番だと気が引き締まる。これからも伝統を守っていければ」と継承を誓った。
 いつの時代も桜の風景とともにあった商人の魂は、未来へと引き継がれていく。

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桜の路を歩みつつ=5

2018/4/29 日曜日

 

弘前の魅力を広く伝えようとガイドを続ける土岐さん(左)と黒滝さん=17日

 桜雲の弘前公園を訪れる県外の花見客にとって、藩政時代の面影が残る園内は未知の光景が連綿と続く。東北のはるか片隅に位置する小大名の城郭が、今では日本一の桜の名所として200万人を優に超える観光客を出迎えるようになった。「この街が好きだからこそ、残された財産の素晴らしさを伝えたい」。絢爛(けんらん)豪華な桜にも負けない城門や櫓(やぐら)に脚光を浴びせ、おもてなしの心で弘前の良さを発信するため、弘前観光ボランティアガイドの会の土岐峯子さん(74)と黒滝弘さん(84)は今年も意気揚々と緑色の制服に袖を通す。
 1991年、弘前観光協会(現弘前観光コンベンション協会)が地元の魅力を再発見しようと実施した観光講座「ひろさきウオッチング」をきっかけにガイド養成の機運が上昇。翌年に弘前市、同協会、弘前商工会議所が第1回弘前観光ボランティアガイド養成講座を開講し、その後の試行を経て95年に弘前観光ボランティアガイドの会が発足した。
 最近では春、夏、秋の三つの祭りを柱に据えて活動を展開。弘前さくらまつりでは、公園内の追手門と東門付近にテントを構え、来園客らの要望に応じて無料で園内を案内している。
 「桜の匂いがする。とってもきれいな絵が私のまぶたの裏に浮かんでいます」。長年ガイドを続けていると、多種多様な人々との出会いがある。現在唯一のガイド1期生である土岐さんは、目の見えない女性が枝垂れ桜の中で子どものようにはしゃぐ姿を見て強く心が動かされたと振り返る。「旦那さんが奥さんの写真を撮っていた時だったかしら。誠心誠意対応したらあんなにも喜んでくれて、心の交流ができたんだと実感した」と目を細める。
 最初の頃は案内の順番が回ってくることが嫌で、仲間内で仕事を押し付けあったりしたこともある。「それでも、だんだんと会員同士が切磋琢磨(せっさたくま)したり、情報交換し合ったりして大きな力となり、それぞれが自分の得意な知識を生かしたガイドの形が出来上がっていった」と話す。
 城や櫓に関するクイズを織り交ぜるなど独創的なガイドで人気を集める3期生の黒滝さんは、車いすのおばあさんを連れた家族のガイドが最も印象深いという。日本最古の桜の前で「この桜は日本一古く、樹齢は100を超えています。おばあさんもこの桜のようにいつまでも長生きしてください」と何気なく声を掛けたところ、涙を流して喜ばれた。「『こんなにうれしい言葉をかけられたのは初めて』と言われ、もらい泣きしてしまった。あんなふうに言われたらガイド冥利(みょうり)に尽きる」と笑顔を浮かべる。
 100周年の節目を迎えた弘前さくらまつりだが、「ボランティアガイドは浮き足立つことなく“おもてなしの心”を徹底することが大切」と二人は語る。弘前へのあふれんばかりの愛着を胸に、きょうも桜色の園内を花見客とともに巡り歩く。

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