’18弘前市長選 検証葛西市政

 

2018/3/16 金曜日

 

  任期満了に伴う弘前市長選告示が4月1日に迫る中、葛西市政を検証する。

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発想と実行力=1

 

 2017年6月28日、本県で29年ぶりとなるプロ野球1軍戦が弘前市で開かれた。県内外から約1万3200人が詰め掛け、手に汗握るプレーを観戦、興奮を分かち合った。今年は7月3日に1軍戦(楽天―ソフトバンク)が行われるなど、プロ野球3試合の市内開催が予定される。
 会場は昨年5月末に改修工事を終えた「はるか夢球場」。水木厚美弘前野球協会長は「昔は弘前でプロ野球1軍戦が開かれるなど思いも寄らなかった。球場を使った子どもからも評判がいい」とし、「弘前がうらやましいとの声を周辺野球関係者から聞く。市長の思い切った取り組みがあってこそ」と語る。
 2期8年となる葛西憲之市長が市政運営に掲げるキーワードの中に「発想力と決断、実行、スピード感」がある。1軍戦誘致実現は、その象徴といえる。
 「はるか夢球場」は、築40年近い市運動公園野球場をプロ野球1軍戦を誘致できるレベルに改修した。改修に当たって市の負担軽減を図り、有利な財源を活用。施設を防災拠点にするとの発想で国の補助を受け、同時に球場機能を向上させた。
 総事業費27億9443万円については、社会資本整備総合交付金5億8100万円、70%が地方交付税措置される緊急防災・減災事業債5億8100万円、地域の元気臨時交付金4億円を組み合わせるなど市の持ち出しを極力減らし、市の実質負担は19・2%の5億3795万円にとどまった。
 葛西市政の特徴に挙げられるのが、このような国の有利な財源を活用した大型事業だ。元弘前商工会議所会頭の新戸部満男氏は「私の会頭時代から、歴代市長が解決できなかったことを葛西市長は解決した」と評価する。
 葛西市長は「箱物に金を使ったと言われるが、ほとんどは改修事業」と強調。特に東日本大震災後は、学校を含む施設の耐震改修事業に力を入れた―と訴える。
 ただ、有利な財源を活用するとはいえ、吉野町の煉瓦(れんが)倉庫を現代アート空間「市芸術文化施設(仮)」とする事業では、耐震改修を含め工事費に約20億6000万円を見込むなど大規模ハード事業が進行中だ。さらに現在協議中の中核病院に要する、数百億円とみられる経費も不透明な状況にある。
 発想を実現する葛西市政の財政は、財政健全化の判断比率となる実質公債費比率が16年度一般会計決算で8・5%。地方債を元利償還金として支払う経費が一般財源に占める割合を示す。10%以内が健全の目安とされ、葛西市長は「県内10市で最低の数値」と胸を張る。
 一方、財政構造の弾力性を測る経常収支比率は、16年度で前年度比2・1ポイント増の95・5%。普通交付税など自由に使える財源を、必ず支出しなければならないものに使った割合を示す。一般的に70~80%が適正とされ、県内の16年度市平均は92・9%。県内10市で黒石、五所川原に次ぐ3番目の高さだ。
 市内ではさまざまなインフラが更新時期を迎え、高度経済成長期に建造された橋梁(きょうりょう)の多くが老朽化。市は対象188橋梁の長寿命化に取り組み、現段階で50年間LCC(維持更新コスト)は約80億円と推計される。
 改修した建物の維持管理費も増加。庁舎と立体化した駐車場は改修前と比較して約3500万円増の年間約1億2000万円、市運動公園野球場は約1300万円増の約3900万円。4月にオープンする高岡の森弘前藩歴史館は馬場跡管理も含め5030万円、市芸術文化施設(仮)は建物補修管理を含む維持管理費が年間約1億7500万円に上る。
 経常収支比率が上がった要因は、歳入面での普通交付税の大幅減だ。さらに国民健康保険や介護保険特別会計への繰り出しなど削ることの難しい分野への支出が増加。発想を生かした各種事業に取り組む市職員の残業代増もあり、決して楽観視できないのが実情だ。
 ある市OBは「箱物を次々つくるのはいいが、事業費の返済や維持管理費が今後膨らみ、そのつけを5年後、10年後に市民が負担することになる」と懸念する。

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経営型行政=2

2018/3/17 土曜日

 

次期弘前市経営計画策定に向けた庁内会議の様子。葛西市長が掲げる「経営型行政」はPDCAサイクルの循環がカギとなるが、事務作業の増加などが課題に挙がる

 葛西憲之市長の行政運営の根幹にあるのが、「管理型」から「経営型」への転換という考え方だ計画実行、評価、改善を繰り返すPDCAサイクルによるマネジメントシステムの構築市政の“見える化”に取り組み計画に基づいて各種事業施策を展開してきた
 市が行う施策や事業の根拠となるのが、最上位計画の「弘前市経営計画」だ2015年度に設置した庁内シンクタンク「ひろさき未来戦略研究センター」が計画の策定と進行管理を担っており、葛西市長は「しっかりした計画づくりは根拠に基づく必要があり、分析ができるシンクタンクを作ったことは大きい」と意義を強調する
 市経営計画の特徴に毎年度の改定が挙げられる。PDCAサイクルによる進行管理を繰り返すことで、市民ニーズや社会経済の変化などに対応、取り組みの継続的改善を図ることが狙いで、同センターの担当職員は「(最上位計画を)毎年度見直し、議会の議決を得て改定している自治体は他にはほとんどない」と胸を張る。
 改定は予算編成と連動し、各施策の進捗(しんちょく)評価に基づいて実施。施策の進捗評価は、アンケートによる市民評価や担当課の1次評価、同センターによる2次評価、市長評価、総合計画審議会の意見などを踏まえて行われ、施策間の政策資源(人員、財源)配分、事務事業群を見直している。
 経営計画のマネジメントシステムは、総務省がPDCAサイクルの質向上に資する参考事例集として取り上げられているが、市民からは「計画の指標を見てもよく分からない」「自己分析だと市に都合の良い評価になるのではないか」という指摘も少なくない。
 また計画を毎年度改定する弊害を指摘する声も。細かい事務事業群まで記載されることから、市OBは「計画の見直しには相当な労力が必要。ペーパーワークだけがどんどん増えているのではないか」と疑問を呈し、「事務作業に忙殺されるようになると、実際の事業実施に割くマンパワーが不足していく」と懸念した。
 葛西市長が次々と手掛ける事業は地方創生の先進モデルと言われることも多い。市役所の窓口改革や市民参加型1%システムなど、さまざまな分野で従来にない取り組みに挑戦。温泉熱や地下水を活用した融雪、地熱資源開発調査など社会実験的な事業が多いことも「経営型」の特徴と言える。
 「トライアル&エラー」で解決策を探っていく行政手法を批判する声もあるが、市の行政評価に携わった経験がある男性は「失敗することが悪いわけではない」とする。その上で「原因はマンパワーなのか、能力なのか、組織体制なのか分からないが、職員が市長の描くビジョンに追い付いていない気がする」との見方を示し、「経営型を掲げるなら1年間に2、3回はPDCAサイクルを回すイメージで取り組まないと事業成果は上がらない」と話した。
 弘前大学人文社会科学部の児山正史准教授(行政学)は「計画の進行管理、施策評価という点では1期目より見えにくい」と指摘。理由として「検証作業は職員の負担が大きく、最低限のことしかできないのではないか」と推察し、「効果が上がっていない施策について原因、改善方法などを徹底的に検証するなど、絞り込む必要があるのではないか」との見方を示した。

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観光政策=3

2018/3/18 日曜日

 

2016年1月に始まったシティプロモーション戦略「弘前デザインウィーク」。市民の認知度、参加意識という点では疑問の声も多い

 葛西憲之市長の先進的なアイデアは観光政策にも表れている。最も注目を集めたのは、弘前城本丸石垣修理事業に伴う弘前城天守曳屋(ひきや)だろう。2015年9月20~27日の曳屋体験イベント「曳屋ウイーク」では、一般参加者が天守に付けた綱を引っ張ることで天守を動かすという、これまでにない取り組みで大きな話題を呼んだ。
 当初、観光面でマイナスと見られていた弘前公園内での公共工事を公開型にすることで「観光資源」に転換。17年度から本格的に始まった石垣解体作業でも節目ごとに一般市民らを対象にした体験型イベントを開催しており、観光関係者は「曳屋は市民が一体となって盛り上がった。石垣解体は10年近く続く世紀の大事業。観光資源に変えた功績は大きい」と評価する。
 一方、葛西市政の観光政策について「打ち上げ花火的。一過性のイベントが目立つ」という批判も少なくない。その例として必ず挙げられるのが、15年度に始動したシティプロモーションの新戦略「弘前デザインウィーク(HDW)」だ。
 HDWは「市民一人ひとりが弘前の価値を築き上げるクリエーターとして参画する市民運動」という位置付けで、桜やリンゴをテーマとした商品や観光コンテンツの開発、伝統工芸のブランド再構築など各種事業を展開。国の地方創生に関する交付金などを活用し、毎年度8000万円以上の予算が計上されている。
 観光コンテンツ事業では、ダンスや音楽のイベントを開催。17年度はリンゴ約3万個を使った巨大モザイク画「リンゴアート」や、クリスマスフードや雑貨を扱う店が集まり、イルミネーションやオーロラ投影で会場を彩る「弘前フィンランドクリスマスマーケット」も行われた。
 有名人を招いたイベントも多く、「にぎわい創出に一役買っている」と評価する声が聞かれる一方、「デザインウィークそのものは市民に浸透していない」という批判も根強い。HDWの業務委託先は東京デザインウィークが多く、イベントに携わった30代男性は「地元の視点が欠けており、市民参加型になっていない」と話した。
 弘前市のたびすけ合同会社西谷の西谷雷佐代表はHDWについて「東京の感性やノウハウを学び、吸収することも必要だが、丸投げでは意味がない」とし、「予算が打ち切られた時に何が残っているか。地域主導で取り組むべきで、もっと工夫しなければならない」と指摘した。
 観光の取り組みを地域経済の活性化につなげることも大きな課題だ。17年の弘前市内の宿泊者総数は62万7269人(速報値)で、1990年の統計開始以降で過去最高を記録。しかし、中心商店街の小売業者らは「売り上げは増えておらず、恩恵を感じない」「地元にお金が落ちていない」と声を落とす。
 宿泊者数を押し上げた主な要因は外国人宿泊者数で、3万8132人(同)と前年実績の約3倍にも達したが、ある観光関係者は「インバウンドが増えたと言っても観光客全体の数%。インバウンドへの期待は大きいが、国内客の需要ももっと取り込まなければならない」と話した。
 西谷代表は観光政策の課題について「マーケティング。観光客が何を求めているか、何にお金を使いたいかを徹底的に分析しなければならない」と指摘。「弘前は桜やリンゴを中心に観光コンテンツが豊富だが、まだ素材の良さに頼っているだけ」とし、コンテンツ(素材)をプロダクト(商品)に磨き上げる必要性を強調した。

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中核病院構想=4

2018/3/19 月曜日

 

2月に開かれた弘前市地域包括ケア検討委員会で、望ましい中核病院の在り方を諮問した葛西市長(中央奥)

 「中核病院の問題に道筋をつけず、市長職を終えることはできない」。昨年12月、葛西憲之市長が3期目を目指す理由の一つとして強調したのが、中核病院問題だ。
 津軽圏域8市町村の医療を支える中核病院構想については県が2016年10月、市立病院と国立病院機構弘前病院を統合し、機構が運営主体になる案を提示した。
 これを踏まえ、関係機関が事務レベルの事前協議をしていたが、話し合いは難航。市立病院職員の全員雇用といった市側の要望などを含めて膠着(こうちゃく)状態に陥る中、葛西市長が打ち出したのは医療資源の集約に加え、中核病院を地域包括ケアの拠点とする構想だ。さらに市が運営主体となることが「最善」との考えを表明。関係機関からは「今までの話し合いは何だったのか」と困惑する声が上がった。
 葛西市長が中核病院構想で繰り返すフレーズが、「2025年問題」だ。団塊の世代が75歳以上となる超高齢化社会を見据え、健康寿命延伸や要介護者サポートといった地域包括ケアシステムを構築する必要性を指摘し、中核病院と一体とみなして検討している。
 市は地域包括ケアに関する調査を東京の企業に委託。一部不開示の報告書では、中核病院の病床(440~450床)の半数近くを症状の軽い軽症急性期、回復期、地域包括ケアに充てることが提案された。市内医療関係者は「仮に実行するとなれば、経営的にかなりの赤字が生じるやり方」と懸念する。
 さらに機構が運営主体となった場合、数百億円規模とみられる中核病院整備費の大半を、機構が担うとみられていた。
 市が運営主体となった場合、巨額の整備費をどのように捻出するのか。また、市立病院職員の全員雇用を求めた市側が、逆に機構側の職員全員を雇用できるのかなど、市にどの程度の負担がのし掛かるかは、不透明なままだ。
 市が新たな中核病院構想を打ち出して以降、懸念されているのが関係機関や周辺市町村からの孤立だ。
 昨年11月21日、県、機構、弘前大学医学部附属病院、市は非公開で4者会談を開催。青山祐治副知事も出席した会議で葛西市長は、市が中核病院の運営主体を目指す考えを伝えたとされる。
 会談について市は「他の出席者から特に意見は出なかった」とするが、出席者からは「葛西市長が一方的に意見を述べるだけで、話し合いにならなかった」との声が上がった。
 さらには医師不足の中、県内に医師を派遣する弘大医学部附属病院との関係性も懸念される。市立病院の外科常勤医師は、16年4月の6人から現在2人に減少し、これに伴って経営は悪化。附属病院側は医師不足の影響として理解を求めているが、「医療現場の声を聞かない葛西市長が、協力を得られなくなっているのでは」とみる関係者も少なくない。
 また2月に黒石市で開かれた津軽南市町村連絡協議会では出席した首長から、「中核病院再編に加わる余地がない」「県の構想を待ち、話し合いが進むと思ったところで地域包括ケアシステムの話。理解できない」といった声が相次ぐなど、構想をめぐって周辺市町村と距離が生まれている状況にある。
 2月に開かれた、中核病院の在り方を協議する弘前市地域包括ケア検討委員会で、弘大医学部附属病院長の福田眞作委員は「2次救急は綱渡り状態。地域の抱える課題をまず解決してほしい」とし、中核病院と地域包括ケアを切り離して検討するよう訴えた。
 市内の2次救急輪番に関わる医師は「夜は休めず、翌日から通常勤務に入ることは日常茶飯事。非番の日も待機し、いつでも病院に駆け付ける」と医師不足の現状を語り、「それでも医師たちが現場に踏みとどまっているのは、津軽の医療のため」と話す。「いつになるか分からない中核病院の完成まで、われわれがどれだけ持ちこたえられるか。そこまで考えて、取り組みを急いでほしい」

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