山里を彩る (長尾キヨ)

 

端正なイギリス紳士「イチヨウラン(一葉蘭)」=36

2008/6/16 月曜日

 

 5月4日夕方、青森市在住のN子(中泊町出身)から電話があった。
 「イチヨウランもう咲いでらの。去年より1カ月も早くてびっくりした」と。
 去年6月、N子は中泊町の実家に帰郷した折、山菜採りが好きな母を連れて山へ行った。その時、偶然イチヨウランの開花と出合い、大喜びしていた。初めて見る花だからである。そして今年、わたしを案内してくれる約束をしていたのである。
 5月5日、N子の案内でイチヨウランの観察に出掛けた。
 あった、あった。薄暗いヒバ林である。足場のよくない斜面に点々と咲いている。地面すれすれにある肉厚の1枚の葉から、細い花(か)茎(けい)を伸ばし地味な色の花を1個つけている。一葉に一花、まさに一葉ランである。シュンランと似た感じで派手さのないイチヨウランが大好きなのである。
 薄暗い上に足場も良くない。腹ばいになり必死になってシャッターを押す。何枚も何枚も。ひっそりと一株のもの、三姉妹もいる、初めて見るつぼみもある、見合いしているように前向きと後ろ向きになっている株もある。後ろ向きのイチヨウランを見た時、背筋を伸ばしすっくと立つ端正なイギリスの紳士を連想したのである。
 手元にあるイチヨウランのスライド。撮影月日は昭和56年6月。なんと27年ぶりの再会である。N子に感謝―。

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希少野生生物Aランク「オキナグサ(翁草)」=37

2008/6/23 月曜日

 

 Aランクとは〈県内では絶滅の危機に瀕(ひん)している野生生物〉のこと。生息・生育数が極めて少なく、または生息・生育環境も極限される種で、近い将来県内での絶滅が危(き)惧(ぐ)される種のことである。
 オキナグサはかつて日本の平地の春を彩る代表的な植物であった。5~6月ごろ、日当たりの良い原野に群生するオキナグサが咲き乱れるのを楽しみにしていたものである。なぜかアズマギク(東菊)と一緒に咲いているのを不思議に思ったのも遠い思い出となった。
 オキナグサは高さ10~15センチの多年草で、花が終わると40センチほどに伸びる。花は鐘形で、落ち着いた暗赤紫色で下向きに咲く。花には花弁はなく、6~7個のがく片が花弁のように見える。全体が白い絹毛で覆われている。細かく切り込んだような葉とのバランスもよく、実に美しい花である。
 和名は、花が終わると白い毛をつけた果実が茎の先に集まっている様子を白髪の翁に例えたもの。
 オキナグサには「猫草」「猫花」などの方言が残っている。果実に羽毛状の毛が密生することから、これをネコの毛に見立てたのだろうか。「万葉集」に登場する「ねっこぐさ」もおそらく方言名の猫草から転じたものといわれている。ちなみに津軽では「じじばば」と呼ぶ地域がある。
 最近では、青森市内2カ所で確認しているだけである。オキナグサを確認している方がおりましたら情報を寄せてください。

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第2ステージ「ノハナショウブ(野花菖蒲)」=38

2008/6/30 月曜日

 

 つがる市にあるベンセ湿原は津軽国定公園屏風山地域にあり、第一種保護区に指定されている。
 6月下旬になると、ベンセ湿原のニッコウキスゲが咲き出す。一面オレンジ色の絨(じゅう)毯(たん)を敷き詰めたような様は見事なものである。新聞、テレビなどマスコミが取り上げるので、この時期は湿原の植物観察会、プロ・アマのカメラマン、観光客がどっと押し寄せ大にぎわいする。これが第1ステージなのである。

 ニッコウキスゲの花が終わると、ノハナショウブの花が咲き、一面紫色の絨毯に変わる。まさしくマジックである。これまた見事な眺めである。この第2ステージが始まるころになると、お客様の足が遠のいてしまう。
 ノハナショウブは、津軽ではソドメ(早乙女・五月女)と呼ばれ、小さな湿地や田んぼのあぜ道などに多く見られたものだった。
 ベンセ湿原には大群落があり、乾燥した場所から順に花が咲くのである。
 ノハナショウブとは野生のショウブの意味で、山地の草原、湿原に生える。6~7月、赤紫色の美しい花をつける。牛馬には毒草のため、放牧原野では食べ残され大群落となる。

 ハナショウブはノハナショウブを改良した日本独自の園芸植物で、江戸時代中期ごろから園芸化が進められた。観賞用に花形や花色のさまざまな品種が栽培されている。シーズンになると、全国各地でハナショウブ祭りが開かれ人気を呼んでいる。
 「いずれアヤメかカキツバタ」、そしてノハナショウブ。この3種の違いがわかるかな?

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平安の才媛「ムラサキシキブ(紫式部)」=39

2008/7/7 月曜日

 

 小さくて優美な紫色の花や果実を、平安の才媛・紫式部の名を借りて、その木の名を美化したものだという。覚えやすくそのものずばりの植物名である。植物学の大家本田正次博士が「平安の才媛の名を勝ち得た果報者・ムラサキシキブ」と書いていたのが印象的である。
 ムラサキシキブは高さ1・5~3メートルくらいの落葉低木で、山野に普通に生えている。7月に入り津軽も暑くなるころ、葉の脇に集まって多くの小さな淡紅紫色の花をつける。クマツヅラ科特有の甘い香りがする。しかし、よほどの植物好きでないとこの花を見逃しているようで、「ムラサキシキブの実は見たことがあるが、花は見たことがない」という。
 秋が深まるころ、紫色に熟した小さいつぶらな実が薄暗い茂みの中でも目を引く。特に落葉した後は実に見事な眺めとなる。この美しさが才媛・紫式部の名を勝ち得たのだろう。
 私の庭に、建築記念にいただいたムラサキシキブがあり、毎年花を開き実を結んで楽しませてくれる。
 方言でカマタタズ(鎌立たず―幹が堅いことによる)といわれているように、堅くて丈夫なことから用途が広く、はしや大工道具の柄、つえになるほか、最も硬度の高い良質の炭になるとのことで、生活に密着した木でもある。

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夏本番「オカトラノオ(岡虎尾)」=40

2008/7/21 月曜日

 

 梅雨晴れ。こんな日は気の向くまま車で走る。おやっ、オカトラノオの白い花穂が風に揺れて、私を手招きしている。オカトラノオが見ごろになると、津軽は夏本番を迎える。
 オカトラノオは日の当たる山地・原野などに普通に生える。草丈60~100センチほどになり、茎の先に白い小花をびっしりつけるので、一方に傾いて咲く。その様子がトラの尾とそっくりなのである。
 和名「岡虎尾」は、丘陵地に生え花の様子をトラの尾に見立ててつけられた、というのも納得できる。ちなみに長崎県ではインノ(犬の)シッポバナ、福島県ではネコノシッポと呼び、いずれも動物の尾に例えられている。グーズネック(雁(がん)の首)という欧米人の見立ても面白い。
 オカトラノオは、茶花として6~7月の花に用いられる。「大和本草」(1709年)には、虎の尾「葉桑如くにして長し。茎長二尺余。夏秋白花を開きて穂をなす。形獣尾の如し。(略)」とあり、花材としてもかなり用いられたといわれる。
 オカトラノオは好きな野草の一つなので庭に植えたところ、繁殖力が強くたちまち増え、間引くのが大変である。まるでドクダミと同じ…。
 花が終わった後、2・5ミリほどの丸い朔(さく)果(か)をつける。秋、霜が降りるころになると、葉・朔果が紅葉する。草紅葉として格別の美しさで目を楽しませてくれる。オカトラノオの紅葉を見過ごしている人は多いのではないだろうか―。

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