山里を彩る (長尾キヨ)

 

ヒバ林の妖精「ヒメホテイラン」=1

2008/1/15 火曜日

  山のあちこちに、まだら模様の残雪が見られる4月下旬。県木ヒバ林に限って生育するヒメホテイランが見られる。
 初めてこの花と会った時、こんなに可(か)憐(れん)で美しい野草もあるんだと、ただただ感動して、うっとりと見入ったものである。
 草丈10センチほどで、根元に一枚の葉をつけた淡紅紫色の花。昼でも暗いヒバ林にぽうと点在し、かすかな風にも揺らぐ様は、妖精がダンスしているみたい。
 漢字では「姫布袋蘭」と書く。唇弁(しんべん)の膨らんだ様を七福神の布袋様のお腹に見たてたというのが、何ともユーモラスである。

 ヒメホテイランには忘れられない思い出がある。1982年5月3日、カメラマンの神田淳(きよし)さん(日本中の野生ランを撮影したことで著名)が、五所川原に来たことである。目的はヒメホテイランの撮影。お話を伺うと、ホテイランは山梨県の標高1900メートルの高山で何度か撮影しているとのこと。車から降りて2、3分歩いただけの道端に咲いているヒメホテイランに感動し、さまざまな角度から撮影。私はその現場に同行したのである。
 1984年、神田淳さんの写真集「野生ラン巡遊」に、青森県のヒメホテイランが掲載されたのは言うまでもない。

 そんなヒメホテイランは、ヒバ林の伐採や盗掘により、今はほとんどなくなり、絶滅危惧種となっている。

 

 ◇筆者紹介

 

 長尾キヨ(ながお・きよ)=1938年、五所川原市生まれ。五所川原高校、弘前大学卒業後、小学校教諭となり各校を回る。現在は自然観察指導員。津軽植物の会会員でもあり、ミニ白神のガイドも務める。五所川原市在住。

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不思議な姿「ハナイカダ」=2

  5月、新緑がまぶしくなるころ、お気に入りの散策コースへ出掛ける。
 優雅な名前と不思議な姿で人気のあるハナイカダに会う。淡緑色で直径4、5ミリの小さな花が、開いたばかりの葉の主脈の中央に咲く。その姿が筏に乗っているようなところから、ハナイカダ(花筏)の名前が付いたのである。
 決して美しい花ではなく、むしろ非常に地味であるが、独特の風格を持っていると言われる。
 この木は雌雄異株の落葉低木で、高さ1、2メートル(写真撮影にもさほど困らないので会うたびにシャッターを押す)。雄株の花は数個、雌株では1~3個付く。花が終わると雌株には小豆くらいの果実が付き黒く熟す。小鳥が好んで食べる。黒く熟したものには甘みがある。どこかでハナイカダの実に会ったら、記念に1粒つまんでみるのもいい。
 ハナイカダの若芽・若葉は山菜として食べることができるのをご存じだろうか。ゴマあえ、クルミあえ、おひたし、天ぷら、油いため、煮付け、汁の実、佃煮などとして食べる。くせのないソフトな味が親しまれ、昔から各地でいろいろな方言で呼ばれ、利用されるとのこと。
 だが、津軽地方では食べない。ほかにおいしい山菜がたくさん採れるからだろうか。
 

 

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山のサルビア「キバナアキギリ」=3

  秋になると、梵珠山での楽しみは「山のサルビア」ことキバナアキギリに出合うことである。「黄花秋桐」。つまり黄色い花を付け秋に咲く、桐に似た花という由来がある。春に咲く桐は落葉高木で紫色を付けるので、誰でもよく知っている。
キバナアキギリは山の木陰に生え、20センチから40センチぐらいになる。花は8月から10月に開き、シソの仲間だなとすぐ分かる。
 夏から秋の花壇を鮮明な赤で染めるサルビアもいいが、山のサルビアは秋風が吹き始めると静かに咲き出す。そして、われわれ愛好者を喜ばせてくれる。
 キバナアキギリは学名がサルビア・ニポニカと言い、「日本のサルビア」という訳。
 サルビアの仲間には薬用になるものが多く、咽喉炎、歯根炎にうがい薬として用いる。血液循環を良くし体調を整える効果があり、疲労回復、強壮などに用いる。現在ではソース、ソーセージなどの香味料として使用される。花が美しいので観賞用としても栽培される。
キバナアキギリはサワグルミコースで見られ、六角堂付近で特に多く見られる。
 梵珠山では数多くの草花を見ることができるが、キバナアキギリは名花の一つと言いたい。

 

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空中に浮かぶ船団「ツリフネソウ」=4

  花の形が面白い。帆掛け船をぶら下げたようなので「釣船草」とは、とても分かりやすい。
 この花こそ、私の原点なのである。
 学生のころ、夏休みに五所川原市飯詰地区に足を運んだ。川岸に群落を作って咲いているツリフネソウを見たとき、「不思議な形をしてなんと美しい花なんだろう」と、心底感動したことを忘れることができない。
 7~9月ごろ、茎の先から細い花柄が伸び、船に似た紫紅色の美しい花がぶら下がるように咲く。津軽地方ではごく普通に見られるもので、川岸や山すその湿地などに小群落を作って繁り、キツリフネと混生することも多い。キツリフネは黄色で船を釣ったようなので「黄釣船」。これもなかなか風情がある。
 観賞用に栽培されるホウセンカはインド・マレーシア半島原産で、古くから日本に渡来した花である。誰しも、ホウセンカの種子を飛ばして遊んだ経験があると思う。ツリフネソウも果実は熟すと、わずかの刺激で小さな種子をはね飛ばす。観察会では完熟した実を見つけては触って種子をはじき飛ばして遊ぶ。誰もが大喜びする。
 熟した果実は触れると急にはじけて種子を飛ばすことから、学名はインパチェンスという。インパチェンスは「我慢できない」という意味。
 インパチェンスといえば、アフリカホウセンカのことをいい、たくさんの花色のものが出回っている昨今である。

 

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万葉の植物「オケラ」=5

  「ちょっと来て。変わったアザミが咲いでるよ」と叫ぶ友人。気になって飛んで行く。
 「ああ、これ。アザミでなくてオケラっていうんだ」
 「オケラって虫でねが」
 ぱっと見には確かにアザミに似ているが、よく見ると花を取り囲んでいる苞(ほう)が魚の骨のようだし、葉はかたく縁には刺状の鋸歯(きょし)があるので触ると痛い。
 古名はウケラ(宇家良)といい、ウケラから転じてオケラになったといわれ、万葉集に登場する。ウケラを詠んだ歌が三首あるが、「恋しけば袖を振らむを武蔵野のうけらが花の色に出なゆめ」が有名で、あなたが恋しく思うならば私の袖でも振って見せて合図をしてあげよう。だから決して顔色に出すなと忍ぶ恋歌である。
 オケラはアザミのようにどこでも見られるというものではない。珍花といってもよい。
 万葉のエリート歌人、山上憶良の詠んだ秋の七草の歌は有名である。
 
荻が花 尾花 葛花 撫子の花 女郎花 また藤袴 朝顔の花

 しかし、歌の対象になった植物は近畿地方を中心にしたものばかり。津軽の秋にふさわしくないものがいくつかある。
 そこで津軽の秋を彩る代表としてオケラ、ススキ、ミズヒキ、アザミ、ノコンギク、アキノキリンソウ、ナガボノシロワレモコウを選んでみた。
 津軽版秋の七草として提案したい。

 

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