創生への道 人口減少時代を生きる〈第3部 地域社会の再生〉

 

見守りが変える地域=3

2018/1/4 木曜日

 

地域のことは地域で―。昨春から始まった地域見守り事業は、地域の薄れかけていたコミュニティーを再生し始めた

 「まみしぐしてらな」。独り暮らし高齢者の世帯を回り、言葉と笑顔を交わしながら住人に広報誌や特殊詐欺注意のチラシを手渡す―。黒石市は昨春から、独り暮らし高齢者らの見守り事業の委託先を宅配業者から地区協議会に変更した。当初は「市から丸投げだ」と住民から不満の声が少なからず出たが、開始から9カ月たち、町内会のイベントや会議への参加率が上がるなど地域に変化がもたらされている。
 黒石市は昭和30年代から、10カ所の小学校学区ごとにある公民館を拠点にした活動を行い、独特の地域コミュニティーを形成してきた。現在も防災訓練やスポーツ大会など、地区単位で参加する行事が多く存在する。
 この市内10地区のコミュニティーエリアを軸に、昨年4月から住民主体の見守り事業が始まった。町内会役員や民生委員、行政連絡員らが独居高齢者宅を訪問し、対面して安否を確認。3回訪問しても対面できない場合は、市の担当者が安否確認する―というシステムで、950人近い独居高齢者を見守っている。開始前から「行政から地域へのトップダウン」と不満が噴出誰が訪問するか決まらず4月実施に間に合わなかった地区もあるなど、足並みそろえてのスタートとはならなかったが、その効果は目に見えて表れ始めた。
 「コミュニケーションがコミュニティーになってきた」と話すのは、訪問対象者が200人を超え、10地区の中で特に多くの人数を受け持つ東地区連絡協議会の村上昭男会長。
 同地区では町内会単位で見守りを実施しており、自身も訪問者を務める村上会長は「見守りを始めたことで、訪問先の高齢者が町内のイベントに参加するようになった。協議会や町内会の会員同士も顔を合わせる機会が多くなり、親交が深まった」と早速の効果に驚く。
 西部地区連絡協議会は昨年6月から見守りを開始。村上隆彦会長は「地区の環境に合った見守りの方法や担当者を決める会議を複数回開いたため、4月に間に合わなかった」と振り返りつつ「今は警察が自宅に来ても疑う時代。地域住民は顔なじみなので、独り暮らしの人も安心して迎えられるし、会話もしやすい」と話し、独居高齢者の不安の払拭(ふっしょく)につながったと評した。
 「地域コミュニティーは黒石でも薄れてきており、都市部だけの問題ではない」と警鐘を鳴らす憲市長も「最初はなぜ自分たちが…との声もあったが、実施してよかったという声を多く聞くようになった」と評価。さらに「全国的に独居高齢者のごみ出しや除雪も問題。見守り事業を検証した上で、住民との意見交換をしながら課題解決に向けた体制の充実について協議できれば」と一層のコミュニティー力向上に向けて展望を語った。

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伝統を紡ぐ中で=4

2018/1/5 金曜日

 

金屋地区の住民が伝統を守り、一から縄をない続けている年縄づくりと奉納会
子どもたちが神主と大黒天に扮し、大根子地区の家庭を回る「カパカパ」と「福俵」(田舎館村提供)

 伝統行事を若者世代や子・孫へ伝えることは、地域にとって重要な意味を持つ。しかし近年は、少子高齢化の進行や個人優先による行事への不参加などが大きな壁となり、伝統の継承は難しくなっているのが現状だ。しかし、そのような苦境に立たされる中でも、住人同士で協力し合いながら伝統を守り続けている地域もある。
 旧尾上町にある平川市金屋地区では、その年の五穀豊穣(ほうじょう)などを願い、地元の「山神社」に奉納する年縄作りと奉納会が長年行われている。同地区の老人クラブ「金屋第一、第二高砂クラブ」が中心で、地区の人たちによると、戦中、戦後の一時期に中断したが戦前から続く伝統行事だという。
 地区の農家が刈り取った稲を持ち寄り、わら打ち、縄ないを経て全長約30メートルの年縄を完成させる。この作業は同クラブが行ってきたが、近年は会員の高齢化だけでなく、未加入の高齢者や縄をなう経験がない人が増えたため、参加者の減少が問題となっている。
 そのため、3年ほど前から金屋町会が年縄づくりに参加。寄付の集金も手分けして行い、行事の継続に力を貸している。佐藤正道町会長は「長年続く伝統という面もあるが、地域コミュニティーをつくる一つとして、顔を合わせて交流する場が必要。子どもたちにも見せることで『こういう行事が地区にあるんだ』と覚えてくれたらいい」と話す。こうした活動によって、徐々に参加する人も現れたという。
 元旦に行う年縄奉納会も、以前は車を使って年縄を運んでいた
時期があった。現在では同地区の町会や子ども会育成会、囃子(はやし)愛好会など8団体が協力し、山神社までの運搬や囃子の演奏などを行っている。金屋第一高砂クラブの高橋義春顧問は「1回でも休んでしまうと、再開するのが難しくなる。こうして協力してくれるため、毎年開催できる」と感謝し、これからも地区の伝統として続けていく意欲を見せている。
 田舎館村の大根子地区で行われている「カパカパ」と「福俵」も、大切に続けられている行事の一つだ。大根子子ども会育成会(田澤健次会長)が主催。カパカパと福俵は、元は別々に行われていた行事で、カパカパは戦国時代に旅人が豊作を祈願して歩いたのが始まりとされ、ダイコンとニンジンで手作りした「カパカパ人形」を家の入り口に立てて歩く。福俵は、僧侶らが祝い事のある家で福俵を転がしていたのが成り立ちとされている。
 両行事とも、戦後の食糧難などを背景に次第に姿を消したが、1977年に当時の育成会会長が「地域にあった行事を大切にするべき」と、両行事を合わせた形で復活させた。現在は1月の第2日曜日、神主や大黒天に扮(ふん)した地区の児童たちが地区の家々を回っている。一度だけ休止した年はあったが、それ以外は毎年行っており、今年で復活から40回目となる。
 写真愛好家も訪れる注目の行事となったが、一方で「地区の子どもたちが少なくなり、厳しい状況にある」と田澤会長は語る。以前は20~30人いた子どもたちも今は10人前後。全員参加するとも限らず、中学生になった子どもたちにも手伝いを頼むなどして、行事の継続に努めている。
 「地区の人たちは行事をやることを楽しみにしてくれている。この行事は地域を表すもので、地区の誰もが知っているもの。ここで途絶えてほしくはない」と田澤会長。
 地域の連帯感や世代間交流、近所や隣人とのつながりが伝統継承を媒介により深まる。古くて新しい地域コミュニティーの在り方がそこにある。

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地域おこし協力隊の今=5

2018/1/6 土曜日

 

津軽あかつきの会でバッケの炒め煮を作る吉田さん(左)。将来は会で学んだ家庭料理で生計を立てたいという=2017年11月30日、弘前市

 都市部から過疎地域に一定期間移住し、地場産品の開発や販売、農作業の支援など地域活性化に取り組む事業「地域おこし協力隊」。県内では12市町村で28人の隊員が活動している。本県に興味と愛着を抱き、志願してきた隊員たち。最長3年の任期を終えた後、定住という理想を達成するには募集時の“入り口”と任期終了後の“出口”をどう整備するかが課題だ。隊員が地域に与える恩恵と抱える不安を探った。
 棒タラの煮付け、サメのなます、けの汁。津軽ならではの家庭料理が次々と出来上がる。エプロン姿で手際よく調理するベテラン主婦たちの中に、唯一の20代、千葉県出身の吉田涼香さん(25)がいた。吉田さんは2016年、関東の通信系企業を辞め、弘前市の地域おこし協力隊に入った。就職前に隊員をテーマにしたドラマを見て憧れを抱き、大学時代にサークルで定期的に鯵ケ沢町に通った経験から、津軽への移住を考えた。今は移住希望者の相談業務を行いながら、同市石川の津軽あかつきの会で、郷土料理を学んでいる。
 「最初は何回続くかなと思ったが、3、4回来て根性あるなって。好奇心とやる気もある。今はすっかり溶け込んでいる」と話すのは同会の工藤良子会長(77)。会は予約制で津軽の郷土料理を提供。通った当初は会員の手伝いをしていた吉田さんだが、今ではサメのなますなど数品の料理を任されるほどの腕前になった。吉田さんは任期後、学んだ郷土料理を生かし、開業するなどして生計を立てたいと考えている。会員もその志が実現すれば地域活性化につながる―と熱心に料理を教える。
 神奈川県から来た米山竜一さん(33)は15年に入隊して以降、同市相馬地区でイベントを次々と企画。県民の人柄の良さに引かれ、最初は移住目的で応募したが現在は「県内に就職がないことはよく分かった」と揺らぐ。一方で、本県に貢献したい気持ちが薄れたわけではなく「パソコンを使えば県外にいても情報発信ができる」と任期後の職を模索中だ。
 同市は15年度から17年度までに20~50代の10人を採用。このうち1人が定住している。募集時は毎年3倍ほどの倍率があるという。同市の担当者は「隊員は行政と違い、議会での議決などの過程がなく、すぐに行動できるのが魅力」と話し、今後も積極的に募集していく方針だ。
 弘前大学大学院の平井太郎准教授は「事前に『こうした人材が欲しい』というビジョンをつくってから隊員を受け入れないと、地域づくりの手応えも感じにくく、隊員に対するサポートもできない。事前準備を丁寧に重ねられていない場合がある」と事業の課題を指摘。「市町村も臨時職員を採用する気持ちで協力隊を募集すると、定住につながらず、地域の地力をつけることにもならない」と警鐘を鳴らす。
 県内で同事業は、11年度に深浦町でスタート。現在は14市町村で募集中だ。入隊して3年目、米山さんは感じた。「地域のため『これをやりたい』と思う住民は意外と多い。それを具体的に形にするのが、地域おこし協力隊の役割だと思う」

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