不撓不屈の魂 五所川原立佞武多運行20年

 

技術向上=3

2017/7/25 火曜日

 

7月14日に完成した今年の新作大型立佞武多「纏」

 1998年の運行以来、進化を遂げている五所川原立佞武多。高さ23メートル、重さ19トンの山車がビルの間から顔をのぞかせて街を練り歩く姿は見る人の心を揺さぶり、圧倒してきた。誰もが驚くその威容だが、その高さゆえ、雨天時にはねぷたやねぶたのようにビニールを掛けた運行ができず、制作者たちが苦悩する時代が続いた。
 運行当初、塗料に使っていた染料は光を通しきれいな色彩を生み出していたが雨には弱かった。2001年から運行した「北の守護神」(制作者・三上敦行さん)では雨に強くしようと、塗料とペンキを混ぜたものを使用し試行錯誤するも染料並みの鮮やかさは出せなかった。
 運行から10年目を過ぎた頃、立佞武多製作所の制作者福士裕朗さん(35)が大阪の絵の具メーカー「ターナー色彩」と塗料の共同研究開発を始めた。染料と同じくらい鮮やかな発色で、色落ちせず光の透過性も良く、ぼかしなど繊細な技術に対応できる「ねぷた・ねぶたカラー」が生まれた。
 この塗料とナイロンを一緒にすき込むことで、水に強く光の透過性に優れた紙「ロンテックス雲漢」を使った大型「復興祈願 鹿嶋大明神と地震鯰」が2012年に登場し、立佞武多は新たな時代を迎えた。
 福士さんは「初代制作者の三上正輝さんは復活、三上敦行さんは技術を磨いた。私たちの世代は師匠たちの作り上げた立佞武多を発展させていかなければならない」と話す。
 今年度の新作大型立佞武多は「纏(まとい)」。五所川原を襲った大火で纏を振る勇壮な火消しの姿から、度重なる困難を乗り越える不撓(ふとう)不屈の精神を表現している。送り絵は「八百屋お七」で両脇の袖絵には一対の金剛力士、頭上には火消しが信仰していたとも言われる不動明王が大火を背負い鎮座する。制作者鶴谷昭法さん(35)は江戸時代の浮世絵などを参考に、火消しの服装にこだわり何度も練り直したという。
 赤、黄、緑、紺など約10色を巧みに使い、当時の火消しの姿を再現。火事場の炎を表現するため、あえて雑に赤を薄めて黄色を塗り、顔をりりしく仕上げていった。「原点に返り王道を追求し、五所川原の歴史、その精神を伝えたい」と語る。
 立佞武多はテーマや題材を探し下絵、骨組み、書き割り、ろう入れ、色づけ、組み立てと作業は約1年かかる。最後の工程となる組み立ては7月12日から3日間行われ、クレーンを使い大工、電気関係、とびの職人が技を駆使して36パーツを組み合わせた。
 完成後、鶴谷さんは「(自身の)5作中ではよくできたが、まだまだ技術を磨かないと」と新作を見上げた。
 年中いつでも立佞武多を見ることができる立佞武多の館。開館当初観光客からは「すごい迫力だね」という声が聞かれたが、最近は「なんて奇麗なんだろう」「繊細だ」という言葉も飛び交う。
 中学2年の時に岩木川河川敷で復活を遂げた96年の「武者」に魅了され、高校卒業後すぐに立佞武多の世界に飛び込んだ鶴谷さん。「20年たって技術も上がり、やれることが増えてきた。苦労をかけている人も多いが、さらに良いもの、誇れるものにするために頑張りたい」と笑顔を見せた。

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地域も節目を応援=4

2017/7/27 木曜日

 

8月4日の五所川原立佞武多開幕日に纏振りを披露するため練習に励む纏組の団員たち

 運行20年の節目を迎える今年の新作大型立佞武多は「纏(まとい)」。8月4日に開幕する五所川原立佞武多に市消防団の纏組が登場し、「一文字」「津軽奴振り」「木遣り」の三つの演目を披露して立佞武多と共演する。
 町火消しの組の旗印としての役割もあった纏。江戸時代の火消したちは、それぞれが掲げる組の纏に向かって走り消火活動に励んでいた。「纏持ち」は、各組と争うように火事場に駆け付け、纏を掲げて消し口を取ることで目印となり、仲間たちをもり立てた。「纏持ち」は纏を担いではしごを登ったり、屋根の上で大きく振ったりするので、組の中でも体力、威勢ともに優れた者が選ばれていたという。
 五所川原市消防団の纏組で30年以上にわたり纏を振りを続けている兄弟がいる。第一分団分団長で纏組前組長の竹内義博さん(62)、纏組組長の茂さん(59)の二人だ。
 父親の引退とともに、消防団に入団していくのが一般的だった時代に入団した義博さんは「五所川原の“もつけ”たちがたくさんいて消防団はにぎやかだった。纏振りは“選ばれし者”という感じで、振りたくても振れない人が大勢いた」と懐かしみ「憧れだった纏も気が付けば30年以上振り続けているな」とほほ笑む。
 五所川原地区消防事務組合によると、消防団員数は全国的に減少し、五所川原も同様、減少の一途をたどる。市町村合併時(2005年3月28日現在)1011人だった団員数は徐々に減少し、今年4月1日現在では853人に。かつて消防団を束ねていた元団員たちからは「少子高齢化の中、団員の減少に地域の衰退が重なる」と危惧する声が多い。
 纏振りを披露する機会も減ってきた。以前は消防団が火の用心の札を持って病院や大きな店などを巡り纏を振っていたが、現在は観閲式などわずか年2回。茂さんは「街中で纏を振っていた頃は練習機会にもなっていたが今はなかなか。伝統を伝えることも難しくなってきた」と時代の移り変わりを嘆く。
 同消防団の纏組は今年の立佞武多との共演が決まると、当日に向け、8人だったメンバーを増員。28歳から62歳までの21人で練習を開始した。練習も佳境を迎えた7月13日夕方、団員たちが歩幅やタイミングをベテラン団員に確認してもらいながら何度も纏を振る姿があった。
 同消防団の纏は頭に五所川原の「五」の文字があり、その上に消防作業に欠かせない「鳶口」を3本備えているのが特徴だ。重さは9・5キロ。同消防団が管理する10本の纏のうちベテランだけが持つことを許される纏が2本あり、頭の下に垂れ下がる馬簾(ばれん)は2連で重さは12・5キロにもなる。
 茂さんは「当日は纏を振りながらコースを練り歩く。体力勝負。春から加わった団員も練習で成果が出て良い仕上がりだ」と気合十分。
 竹内兄弟の本職は大工で、長年大型立佞武多の組み立てにも携わり、新作大型でも腕を振るっている。立佞武多との共演に義博さんは「面白い。ぜひやりたいと快諾した。20年という節目で纏にスポットライトが当たったことはうれしい」と語る。
 開幕が迫る祭りを前に2人は「『纏』の共演で祭りが盛り上がることを期待している。多くの人が消防団や纏のことを知り、祭りの元気とともに消防団も活気づいてほしい」と願っている。

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未来に向けて=5・完

2017/7/28 金曜日

 

今夏の五所川原立佞武多で披露する出陣太鼓の囃子を練習する子どもたち。五所川原立佞武多は次世代に受け継がれていく

 運行20年を迎える今夏の五所川原立佞武多。大型3台をはじめとする全17台の山車が中心市街地のコースを練り歩き、真夏の五所川原を彩る。かつては各町内がこぞって町内ねぷたを制作、運行していたが、今年の祭りに参加する町内ねぷたは「北部地区住民協議会」ただ一つになってしまった。
 同協議会の制作運行を担う下平井町青年部の事務局を務める田仲栄一さん(61)は高校時代から町内ねぷたに携わってきた。
 田仲さんは「自分たちが楽しむ祭りから、見せる祭りに変化した」とし、中心街に設定したコースのため「町内運行はされず、町内から遠く見に行きづらい人や規制が厳格化され参加しづらいと感じる人もいた」と変化を指摘する。一方で、「立佞武多のおかげで五所川原の知名度は上がった。首都圏でも立佞武多は通用する」と誇らしげに語り、「数カ所の町内が力を合わせて、復活してくれれば祭りも面白くなるはず」と期待を寄せる。
 下平井町町内会では、地域の人たちが参加しやすい取り組みに力を入れ、ねぷたの紙張りや金魚ねぷた作りを子どもたちが手伝っているほか、数年ほど前から8月12日に独自に町内を運行している。田仲さんは「地域も市全体も大事」とし「祭りは黙っていられないワクワク感や世代を越えて絆を結ぶ力がある。何より子どもたちに伝えたいという願いがある」と熱く語る。
 今夏の祭りでは五所川原立佞武多とともに育ってきた世代が活躍をみせる。運行20年を記念した取り組みとして、五所川原立佞武多の先陣を飾る「忠孝太鼓」の担当に五所川原三中の佐藤樹さん(14)と五所川原一中の小野陸登さん(15)が選ばれた。
 小学4年生から祭りで太鼓をたたき始めた佐藤さんは「自分が生まれた時からある立佞武多は五所川原の誇り。出陣太鼓をたたくのはずっと夢だった」とし、本番に向け「感動するような音を出したい」と一心不乱に練習に励む。
 忠孝太鼓は二つの大太鼓を積み上げ、その上には中型立佞武多が鎮座し、大型にも引けを取らない迫力がある。小野さんは「太鼓は2階式で音を合わせるのが難しく、たたき手が心を一つにして臨み、観光客が驚くような大きな音を響かせたい」と自信満々。
 次世代を担う2人は「立佞武多は世界に通用する。もっと有名になれると思うし、自分たちが魅力を世界に広める人になりたい」と未来を思い描く。
 「ひとは町をつくるが、のちには町がひとをつくる」。復活から立佞武多を見詰めてきた立佞武多の館の菊池忠館長は五所川原の大火をつづった「失われた五所川原(山本和夫著)」からこの一節を読み上げ、「まるで立佞武多のことを表しているようだ。人が育てた立佞武多が今度は五所川原を育てていくと信じている」と五所川原立佞武多の躍進を願う。
 運行20年の努力から、市の中心市街地の再活性化や立佞武多の館を中心とした街づくりへの努力が評価され今年度、市は国土交通大臣表彰を受賞した。市民とともに成長し、東北を代表する夏祭りとなった立佞武多は市民にとり「誇り」であり、祭りや観光の枠を超え、五所川原の核として飛躍していく。

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