創生への道 人口減少時代を生きる〈第2部 子育て環境〉

 

共働き世帯の育児・下=2

2017/4/14 金曜日

 

「子ども・子育て支援新制度」を解説した内閣府のパンフレット(左)。右は弘前市がまとめて子育て世帯などに配布している資料

 子ども・子育て関連3法の一部改正を経て、15年4月に施行された「子ども・子育て支援新制度」。子育てを「量」と「質」の両面から社会全体で支え、より地域の実情に合わせた支援を―と市町村が中心となって実施している。だが、働き方が多様化する現代にあって、補い切れない制度の矛盾点が子育て世帯の負担となっている現状もある。
 長女(4)と11カ月の長男を持つ弘前市の会社員近藤さつきさん(38)=仮名=は、保育園での保育時間の必要量を「保育標準時間(最長11時間)」と「保育短時間(同8時間)」に振り分ける新制度に矛盾を感じた。親の就労時間が認定の基準となり、弘前市では保育の必要時間が月に120時間以上の場合は保育標準時間に、48時間以上120時間未満の場合は保育短時間になるという。
 近藤さんの場合、制度改定前は保育園に長女を最長11時間預けることができただが昨年5月に長男を出産して育児休暇を取ったため、長女の“保育の必要量”が「保育短時間」に振り分けられた。市の担当者からは「家庭での育児時間に都合がつきやすいから」と説明された。これによって、長女の退園時間は午後4時に早まり、今まで会社員の夫(41)が退社後の午後5時半に長女の迎えを担当していたのができなくなった。結局朝夕ともに近藤さんが送迎することになり負担が増えた
 首が据わっていない長男を連れての外出、運転は予想以上に大変。まして、やっと眠った長男を起こして迎えに行かなければならない場合もあり、「産んだ子の保育をするために育児休暇を取ったはずなのに」と制度の矛盾に「憤りを感じた」という。
 保育園の入園に関する選定方法にも疑問を感じる。入園希望者が募集数を超えた場合、家庭環境や両親の就労状況などを自治体がポイント化して保育の必要度をみる判断基準がある。例えば、フルタイム就労とパートタイム就労では、フルタイム就労の方が保育の必要度が高いと見なされ、数点高いポイントが付く。この他、1人親世帯であればさらに加点されるなど、合計点が高い世帯が優先的に子どもを入園させられるという仕組みだ。
 近藤さんは昨年5月に出産。産後半年で職場復帰するつもりだったため、昨年12月に長女と同じ保育園に長男の入園を希望した。しかし、保育士不足との理由でかなわなかった。別の保育園に入れることも考えたが「行事が重なるかもしれないし、送り迎えの負担も増す。現実的ではない」と思い4月入園に再申請することに。より確実に入園したいと思い、数点でもポイントが高くなるよう育休期間を延長し、職場復帰も今年4月まで遅らせた。“育休明け”も加点項目であるためだ。
 近藤さんは共働き世帯だが「わが家は得意な家事を時間がある方がやる。夫は家事も育児も協力的」と言う。そんな家庭でも、新制度のちょっとした“ひずみ”が育児と仕事の両立を図る上で足かせとなった。
 入園をめぐっては、待機児童が問題となっている首都圏で特に、点数を稼ぐために母親が育休期間を調整したり、職場環境を変えたりすることが増えている。近藤さんは「ポイント化は平等で後腐れがないかもしれない。でもこうした状況が続くとポイントを稼ぐために就業証明書などを偽造する人も出てくるのでは」と懸念する。
 働く親をサポートするはずの新制度が、働き方を制限することになってはならない。

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1人親世帯の現状=3

2017/4/16 日曜日

 

子どもたちから送られた手紙やメッセージを大切に保管している女性。1人親でも安心して子どもを産み育てられる社会を願う

 「1人での子育ては、金銭的に非常につらかった。もうどこかに消えたい、もう駄目だと何度も心が折れそうになった」
 五所川原市の女性(56)は36歳のころ、夫が別の女性と突然家を出てしまい、2歳と1歳の息子を抱えて途方に暮れたという。
 パート勤務だったが、離婚後はフルタイムで勤務。息子を保育園と実家に預け、土日出勤や深夜零時までの残業をこなした。1日1食で過ごすこともざら。子どもが熱を出すと保育園に預けられず、支援団体に頼ると1日の預け料が1日分の稼ぎとほぼ同額だった。
 元夫は養育費を払わず、給料の差し押さえも考えたが、弁護士への相談費用がなく諦めた。役所で補助を申請する際、担当者に「自分のわがままで1人親になったのでは」と言われ、1人親への無理解に傷ついた。
 同級生の母親から洋服のお下がりをもらい、息子たちは道具代のかかる部活を避けた。それでも突発的な支出をやりくりできないこともあり、「自殺も考えたが、子どもを残していけないと踏みとどまった」と振り返る。
 子育てが一段落した今、女性は「老後に向けた貯蓄もできなかった」と苦笑いする。
 「1人親でも安心して子どもを産み育てられる社会でなければ、女性がどんどん子どもを産む社会にはならない。いつか、そういう社会が到来することを希望している」
 県ひとり親家庭等実態調査(2014年11月1日現在)によると、本県の母子世帯は1万6649世帯、男子世帯は1988世帯。母子世帯のうち、仕事をしている世帯は90・7%を占めるものの、正社員の割合は39%にとどまる。母子世帯のうち年収200万円未満の世帯は66・3%を占め生活基盤は脆弱(ぜいじゃく)な状況だ。困っていることを訪ねる項目では、生活費が64%を占め、次いで子どもの教育が29%だった。
 県母子寡婦福祉連合会が行う本県での就職相談では、離婚で本県に戻ったが「自立して働くことが難しく都会に戻る」「(西北地域は)職場の近くにアパートがなく、通勤時間や保育時間が心配」といった就職しづらい環境を訴える声が聞かれた。
 同会副会長の引間由実子さんは「本県の有効求人倍率は上向きとはいえ、1人親では子どもの年齢に合わせて労働条件を選ばざるを得ない。就職、転職は乗り越えなければならない試練の一つ」と指摘する。
 国の特定就職困難者雇用開発助成金の制度では、母子家庭の母親らを継続して雇用する事業主に対し、短時間労働者以外には1年に60万円程度、短時間労働者の場合40万円程度支払われる。ただ、この支給額は以前と比べて減少傾向で、西北地方の中小企業経営者の一人は「雇用人数や労働時間はぎりぎり。制度の恩恵を頼るというよりは仕事ぶりや条件で決めている」と胸の内を明かす。
 教育費も大きな課題として1人親世帯にのしかかる。同会が受けた相談の中には、子どもの夢である私立大学の薬学部に通わせるため、1000万円の借金を返済しながら仕事を三つ掛け持ちする母親もいた。10代の子どもからの相談では家庭環境を理由に「自分はもうここ(地元のパート)でいい」と将来に“見切り”をつけ、貧困の連鎖を痛感させられる例もあったという。
 1人親世帯の雇用の安定、子どもの教育環境、貧困の連鎖や格差の解消は、大きな課題として相談の声が絶えない。同連合会の三浦伸子事務局長は「多様な生き方がなされている現代においては、1人親家庭はマイノリティーではない。包括的にみて(教育費の掛からない環境や雇用の在り方などを)どこでフォローするか。経済的、精神的、お金があるなしに関わらず希望を持って人生設計できる環境が理想だ」と力を込める。

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