創生への道 人口減少時代を生きる〈第2部 子育て環境〉

 

2017/4/13 木曜日

 

  内閣府公表の「社会意識に関する世論調査」で、社会に満足していない点として「経済的なゆとりと見通しが持てない」43・0%、「若者が社会での自立を目指しにくい」35・5%、「家庭が子育てしにくい」28・7%と続いた。
 2016年の出生数は、1899年の統計開始以来初めて100万人を割る見通しだ。人口減少が主要因とされる。人はなぜ、子どもを産もうとしなくなったのか。雇用や保育・教育環境などさまざまな社会情勢が問題を複雑にしている。子育て世代や若者、関係者の声を聞きながら県内の子育て環境の現実を、7回にわたり取り上げる。

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共働き世帯の育児・上=1

 

共働きでの子育て環境の現状に苦悩を抱えながらも、家族らの支えで仕事との両立を続ける島村さん

 五所川原市に住む島村美寿々さん(30)は、6歳の息子と4歳の娘を育てる母。夫と姑の5人暮らしで家族らの協力を得ながら、育児と仕事を両立する。島村さんは子育てについて職場の理解が得られないなど息苦しさを感じ、仕事を離れた経験も。県子ども・子育て支援推進会議は、雇用形態などの働き方や経済的生活基盤の弱さが出生率に影響を及ぼすと位置付けている。子どもを産み育てる環境の理想と現実の間には大きな溝がある。
 島村さんは2010年、会社員時代に第1子を出産。産休を取得して、その後、職場復帰した。第2子を妊娠した時に辞職し、出産後は子育てに専念。昨春からパートタイムとして別企業で働き始めた。
 第1子の出産を経て職場復帰した際、子育てのため、勤務時間を通常より短い体系に切り替えて働いた。しかし他の社員から早期退社に理解が得られず、それまで良好だった人間関係が次第によそよそしくなっていくのを感じたという。
 島村さんは「社内で他に子育て経験者がいなくて、早く退社すると良くない顔をする人もいた。世の中の人はこうやって子どもを育てているんだと思い我慢したけれど、常に仕事の葛藤があって息苦しかった」と吐露。第2子の妊娠を機に、辞職を決心した。
 第2子出産後は子育てに専念。子どもたちを保育所に通わせるようになり、自治体で保育料の料金設定が違うことに不公平を感じたという。それ以外にも子育てには多額の費用を要する。島村さんは「今の時代だと大学に入れないといけないし、年金も受け取れる保障がない。お金をためるためには、周囲の補助がないと難しい」と不安を口にする。
 専業主婦として家で育児・家事に励む毎日は同時に、孤立感にもつながった。「社会から取り残されている感じがした。遊びに行きたい、飲みに行きたいと言ってもできない」と、専業主婦としての責任と一人の人間としての生活の間でジレンマを抱えた。
 家事や育児で姑の協力もあり、昨年からパートタイムで再就職。「いろんな人との付き合いも広がるし、仕事で学ぶことも多く楽しい」と再就職は金銭面だけでなく、精神的なリフレッシュにも。同僚たちには子育て経験者が多く、子どもが体調を崩して休んだ時も温かい声掛けや協力もあり、島村さんは家族や同僚に心身とも支えられ育児と仕事の両立を続けている。

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共働き世帯の育児・下=2

2017/4/14 金曜日

 

「子ども・子育て支援新制度」を解説した内閣府のパンフレット(左)。右は弘前市がまとめて子育て世帯などに配布している資料

 子ども・子育て関連3法の一部改正を経て、15年4月に施行された「子ども・子育て支援新制度」。子育てを「量」と「質」の両面から社会全体で支え、より地域の実情に合わせた支援を―と市町村が中心となって実施している。だが、働き方が多様化する現代にあって、補い切れない制度の矛盾点が子育て世帯の負担となっている現状もある。
 長女(4)と11カ月の長男を持つ弘前市の会社員近藤さつきさん(38)=仮名=は、保育園での保育時間の必要量を「保育標準時間(最長11時間)」と「保育短時間(同8時間)」に振り分ける新制度に矛盾を感じた。親の就労時間が認定の基準となり、弘前市では保育の必要時間が月に120時間以上の場合は保育標準時間に、48時間以上120時間未満の場合は保育短時間になるという。
 近藤さんの場合、制度改定前は保育園に長女を最長11時間預けることができただが昨年5月に長男を出産して育児休暇を取ったため、長女の“保育の必要量”が「保育短時間」に振り分けられた。市の担当者からは「家庭での育児時間に都合がつきやすいから」と説明された。これによって、長女の退園時間は午後4時に早まり、今まで会社員の夫(41)が退社後の午後5時半に長女の迎えを担当していたのができなくなった。結局朝夕ともに近藤さんが送迎することになり負担が増えた
 首が据わっていない長男を連れての外出、運転は予想以上に大変。まして、やっと眠った長男を起こして迎えに行かなければならない場合もあり、「産んだ子の保育をするために育児休暇を取ったはずなのに」と制度の矛盾に「憤りを感じた」という。
 保育園の入園に関する選定方法にも疑問を感じる。入園希望者が募集数を超えた場合、家庭環境や両親の就労状況などを自治体がポイント化して保育の必要度をみる判断基準がある。例えば、フルタイム就労とパートタイム就労では、フルタイム就労の方が保育の必要度が高いと見なされ、数点高いポイントが付く。この他、1人親世帯であればさらに加点されるなど、合計点が高い世帯が優先的に子どもを入園させられるという仕組みだ。
 近藤さんは昨年5月に出産。産後半年で職場復帰するつもりだったため、昨年12月に長女と同じ保育園に長男の入園を希望した。しかし、保育士不足との理由でかなわなかった。別の保育園に入れることも考えたが「行事が重なるかもしれないし、送り迎えの負担も増す。現実的ではない」と思い4月入園に再申請することに。より確実に入園したいと思い、数点でもポイントが高くなるよう育休期間を延長し、職場復帰も今年4月まで遅らせた。“育休明け”も加点項目であるためだ。
 近藤さんは共働き世帯だが「わが家は得意な家事を時間がある方がやる。夫は家事も育児も協力的」と言う。そんな家庭でも、新制度のちょっとした“ひずみ”が育児と仕事の両立を図る上で足かせとなった。
 入園をめぐっては、待機児童が問題となっている首都圏で特に、点数を稼ぐために母親が育休期間を調整したり、職場環境を変えたりすることが増えている。近藤さんは「ポイント化は平等で後腐れがないかもしれない。でもこうした状況が続くとポイントを稼ぐために就業証明書などを偽造する人も出てくるのでは」と懸念する。
 働く親をサポートするはずの新制度が、働き方を制限することになってはならない。

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1人親世帯の現状=3

2017/4/16 日曜日

 

子どもたちから送られた手紙やメッセージを大切に保管している女性。1人親でも安心して子どもを産み育てられる社会を願う

 「1人での子育ては、金銭的に非常につらかった。もうどこかに消えたい、もう駄目だと何度も心が折れそうになった」
 五所川原市の女性(56)は36歳のころ、夫が別の女性と突然家を出てしまい、2歳と1歳の息子を抱えて途方に暮れたという。
 パート勤務だったが、離婚後はフルタイムで勤務。息子を保育園と実家に預け、土日出勤や深夜零時までの残業をこなした。1日1食で過ごすこともざら。子どもが熱を出すと保育園に預けられず、支援団体に頼ると1日の預け料が1日分の稼ぎとほぼ同額だった。
 元夫は養育費を払わず、給料の差し押さえも考えたが、弁護士への相談費用がなく諦めた。役所で補助を申請する際、担当者に「自分のわがままで1人親になったのでは」と言われ、1人親への無理解に傷ついた。
 同級生の母親から洋服のお下がりをもらい、息子たちは道具代のかかる部活を避けた。それでも突発的な支出をやりくりできないこともあり、「自殺も考えたが、子どもを残していけないと踏みとどまった」と振り返る。
 子育てが一段落した今、女性は「老後に向けた貯蓄もできなかった」と苦笑いする。
 「1人親でも安心して子どもを産み育てられる社会でなければ、女性がどんどん子どもを産む社会にはならない。いつか、そういう社会が到来することを希望している」
 県ひとり親家庭等実態調査(2014年11月1日現在)によると、本県の母子世帯は1万6649世帯、男子世帯は1988世帯。母子世帯のうち、仕事をしている世帯は90・7%を占めるものの、正社員の割合は39%にとどまる。母子世帯のうち年収200万円未満の世帯は66・3%を占め生活基盤は脆弱(ぜいじゃく)な状況だ。困っていることを訪ねる項目では、生活費が64%を占め、次いで子どもの教育が29%だった。
 県母子寡婦福祉連合会が行う本県での就職相談では、離婚で本県に戻ったが「自立して働くことが難しく都会に戻る」「(西北地域は)職場の近くにアパートがなく、通勤時間や保育時間が心配」といった就職しづらい環境を訴える声が聞かれた。
 同会副会長の引間由実子さんは「本県の有効求人倍率は上向きとはいえ、1人親では子どもの年齢に合わせて労働条件を選ばざるを得ない。就職、転職は乗り越えなければならない試練の一つ」と指摘する。
 国の特定就職困難者雇用開発助成金の制度では、母子家庭の母親らを継続して雇用する事業主に対し、短時間労働者以外には1年に60万円程度、短時間労働者の場合40万円程度支払われる。ただ、この支給額は以前と比べて減少傾向で、西北地方の中小企業経営者の一人は「雇用人数や労働時間はぎりぎり。制度の恩恵を頼るというよりは仕事ぶりや条件で決めている」と胸の内を明かす。
 教育費も大きな課題として1人親世帯にのしかかる。同会が受けた相談の中には、子どもの夢である私立大学の薬学部に通わせるため、1000万円の借金を返済しながら仕事を三つ掛け持ちする母親もいた。10代の子どもからの相談では家庭環境を理由に「自分はもうここ(地元のパート)でいい」と将来に“見切り”をつけ、貧困の連鎖を痛感させられる例もあったという。
 1人親世帯の雇用の安定、子どもの教育環境、貧困の連鎖や格差の解消は、大きな課題として相談の声が絶えない。同連合会の三浦伸子事務局長は「多様な生き方がなされている現代においては、1人親家庭はマイノリティーではない。包括的にみて(教育費の掛からない環境や雇用の在り方などを)どこでフォローするか。経済的、精神的、お金があるなしに関わらず希望を持って人生設計できる環境が理想だ」と力を込める。

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男性の意識改革=4

2017/4/17 月曜日

 

男性の育児参加には企業、個人の意識改革が求められる(写真と本文は直接関係ありません)

 社会で活躍する子育て世代の女性が増える一方で、本県における男性の育児に対する意識はまだまだ低い。育児を経験する男性2人の話から、男性の育児参加の課題が浮かび上がってきた。
 青森銀行法人営業部で勤務する赤石直樹さん(32)は今年2月、2日間の育児休業を取得した。行内の制度整備と職場の寛容な雰囲気が大きな後押しになったと振り返る一方、男性に必要な「当事者意識」が不足している、と問題点を指摘する。
 昨年夏に双子が生まれた赤石さんは、育休期間のうち5日間が有給休業扱いになる新たな制度が整備されたことを受け、上司から該当者として申請するよう勧められた。育休初日の2月7日は乳幼児健康診査(健診)に付き添い、2日目の8日は家事と育児を手伝った。2日間の体験を通じ「子育ては大変」だと改めて痛感した。
 育休を取れたのは行内の制度はもちろん、男性の育児を理解してくれる「職場や上司の存在が大きい」(赤石さん)。以前から育児や出産に配慮してくれる職場で、妻が帝王切開になる恐れがあった時も駆け付けるよう部長に言われた。職場内も同僚同士で育児の会話をするなどオープンな雰囲気だ。
 赤石さんは「制度が整備されてもすぐに取れるわけでもないし、上司の理解があっても取れるものではない。両方がそろって初めて取れると思う」と話す。
 一方で、育休を使う権利がある当事者意識の薄さに気付いた。赤石さん自身、上司に声を掛けられるまで制度を知らなかった。申請手続きも分からなかった。そのため「ほかの行員や支店も同様の状況になっているはず」と推測する。
 赤石さんは「育休利用を促せば使う人は多いはず。でも、当事者意識は制度が整備されても『へぇ』と人ごとのような部分がある」と代弁。制度利用の権利が認識されて取得者が増え、さらに課題が出ることで「制度のブラッシュアップにつながる」と話す。
 周りを見渡しても、育児に対する男性の意識に遅れを感じることがある。「会社に制度があるかどうかも関係するが、制度を意識しながら休暇を取り、妻をサポートしようとする男性は何人いるか。当事者のアンテナはまだまだだと思う」
 米国出身で大鰐町在住のニック・ベランドさん(35)は、妻の睦美さん(39)と長女(4)、生後8カ月の次女との4人家族。娘は2人とも日本で生まれた。“子育ては母親がするもの”と捉えられがちな日本の子育てに疑問を持つ。
 「米国ではそもそも夫婦の在り方が違って、子育ては夫婦というチームでするという感覚が当たり前。父親の家庭に対する優先度も高くて、妻の出産前後は休暇を取るし、出産にはもちろん立ち会う。立ち会わないというのは育児に興味がないと言っているのと同じ」と語る。
 ベランドさんは2014年3月に弘前大学大学院を修了。現在は在学中から研さんを積んだ尺八の奏者、指導者として活動し、依頼を受けて尺八作りも行う。睦美さんは育児休暇中だが、普段は弘前市内の福祉施設で働いているため、長女の保育園への送迎など育児の大半をベランドさんが担う。ベランドさんは「仕事が得難い時代なので、夫か妻かどちらかが安定した職に就いていれば、それに合わせて夫婦で協力していけば」と考える。
 留学経験のある睦美さんも米国的な夫婦感に共感しており、「(米国は)子育てを親に頼るという考えがない。その分母親が1人で負担するものでもないし、日本社会の『父親が育児に“参加する”』という姿勢がまず違う」と指摘。子育てに関しては夫婦の意見を一致させるように話し合いを大切にしていると言い、「日本は夫婦の時間を持つことにマイナスのイメージがあるけれど、子どもが生まれた後こそ夫婦の時間を大切にするべき。夫婦あっての家族だから」と強調する。

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