「津軽さくら物語」 誕生秘話

 

初披露が運命変える=3

2017/2/20 月曜日

 

作曲した板橋かずゆきさん。演歌調の曲になり、当初は「大物歌手が歌ってくれればとは思ったが、夢のまた夢」と語っていた(板橋かずゆきオフィス提供)

 東京都渋谷区で川中美幸が営む「Barまいどおおきに」の店内にはライブができるスペースが設けられている。才能がありながら世に出るきっかけに恵まれないミュージシャンら表現者たちにチャンスを与えたいという川中の強い思いを形にしたものだ。
 2014年11月。板橋かずゆきはその会場にいた。友人のライブがあったためだ。ライブ終了後、川中が客として会場にいるのを板橋のマネジャーが見つけた。マネジャーはとっさに川中に駆け寄り「板橋かずゆきというシンガーソングライターがいる。ぜひ、ここで演奏させてほしい」と申し出た。
 大物歌手にいきなり声を掛ける失礼を忘れ、ただ板橋をステージに上げる機会をつくりたい一心だったという。むつ市出身で「盲目のシンガーソングライター」として活動していることなどを説明すると、川中は出演を快諾。マネジャーの機転と熱意で、板橋は思いがけず最初のチャンスを手にした。
 そして翌年4月17日に、単独ライブが実現した。川中は仕事があり、会場にはいなかった。自身の歌を披露していく中で、これまで「演歌調なので、自分が歌う歌ではない」とライブで披露することもなく、作詞した斎藤千恵子も「親友との思い出」として胸にしまい込んでいた「津軽さくら物語」を思い出した。
 「ちょうど桜の季節。大物演歌歌手の店だし、歌ってみようかな」と、ギターを手に初めて人前で歌い始めた。しゃれに近い軽い気持ちだったという。「大物演歌歌手が聴いていると思うと、緊張してしまう」と考えていた板橋が演歌を歌おうと思ったのは、川中が会場にいないからであるのは言うまでもない。
 しかし、実は仕事が早く終わった川中が訪れ、静かに板橋の歌を聴いていた。目が不自由な板橋が客席にいる川中を見つけられるはずはなく、聴衆も板橋の歌に聴き入っていたため気付かなかった。
 川中がいないからと気軽に歌ったことが、この歌の運命を大きく変えることになろうとは予想すらしなかった。(敬称略)

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お蔵入りの歌に光差す=4

2017/2/21 火曜日

 

偶然の縁でジョイントライブを行うようになった川中美幸さんと板橋かずゆきさん(板橋かずゆきオフィス提供)

 板橋かずゆきがライブのアンコールを終えると、川中美幸はステージに向かった。会場にいないはずの川中が姿を見せたのだから「僕もお客さんもびっくりした」。川中はライブの打ち上げにも参加。そこで驚きの言葉を口にした。「いい歌。CDに入っているなら買いたい」。CD化されないことを知り「CDになる、ならないを別にして、歌いたい」と、直感的に思った。お蔵入りの歌に光が差した瞬間だ。
 川中の母の体調が悪く、気持ちが落ち込んでいた時期。しかも芸能生活40周年という大きな節目を控えていた。そして「亡くなった父はどんな気持ちで空から見ているだろう。もう一度、会いたい」と歌詞に気持ちを重ねた。川中の目から涙がこぼれた。
 単独ライブから約半年後、板橋と川中のジョイントライブが始まった。そこで川中による「津軽さくら物語」を披露。ここからCD化の話が一気に進むことになる。川中は「歌うことで、一字一句、深くなっていく自分がいる。今までの作品とは違う」とし、40周年の節目に「新しい川中美幸」を表現できることを喜ぶ。
 偶然の重なりで、つながりが生まれたことを実感し「ご縁ってすごい」と、しみじみと話した川中。心を動かす歌詞を書いた斎藤千恵子の印象を「歌詞から熱い思いを感じる。温かく、懐の深い方」とし、曲を付けた板橋については「良い歌を世に出したいという板橋さんの夢を手伝わせてほしい」と話した。
 縁を感じているのは川中だけではない。斎藤は「須藤詩子さんの力かもしれない。歌でもう一度生きたいと、導いてくれたよう」と。「大物に歌ってもらえればいいな」と冗談っぽく話していた板橋も、自身の曲が初めてメジャー発売されるのだから当然である。
 発売される22日を控え、川中は「1、2回聞いて飛び付き、カラオケで歌われる歌ではないと思う。しかし何度も聞くことで、必ず人の心に受け止められる」と魅力を説明し「大事に長く歌っていきたい」と加えた。春の定番曲になるよう、育てたいと考えているからだ。
(敬称略)

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