災害に備える 台風10号から学ぶ

 

2017/1/19 木曜日

 

 観測史上初めて東北地方太平洋側に上陸した台風10号は各地に傷痕を残し、岩手県の高齢者施設では多くの犠牲者が出た。課題が浮き彫りになる中、求められるのは再発防止への施策。岩手県の事例を教訓に、隣接する本県では防災・減災対策が進められている。生活に身近な水が猛威となった時、対応することができるのか。土砂・水害の危険性と県の取り組み状況を探った。

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要配慮者対策が急務=上


 2016年は東北地方で台風や河川氾濫が相次いだ。特に8月に日本列島を直撃した台風10号は岩手県で死者・行方不明者20人以上の人的被害を生じさせ、本県でも農林水産関係を中心に総額30億円以上の経済的被害を引き起こした。岩手県の人的被害の多くは、生活弱者といわれる高齢者や障害者などの「要配慮者」。災害時における生活弱者への対応は本県にとっても大きな課題となっている。
 本県でも水害・土砂災害の恐れがある地域に要配慮者施設が建つ事例はある。県河川砂防課は「どこにでも被害は起こり得る。早期避難を中心に減災対策を考えていくべき」と意識変革を掲げる。
 県が対策を加速させる契機の一つとなったのが、台風10号により、岩手県岩泉町の高齢者施設で発生した水害だ。近接する小本川の水位急増で土砂にのまれ、多数の認知症患者が犠牲となったが、現場が水害への警戒感が薄い内陸の山間部だったことに加え、施設では水防法に基づく避難確保計画が作成されていなかったことが、被害拡大の一因とみられている。
 こうした水害・土砂災害の危険性は本県にも付きまとう。同課によると昨年4月から12月27日までに県内では、台風と大雨の影響による土砂災害が11件確認された。16年3月末現在、36市町村の4032カ所が土砂災害の恐れがある「土砂災害警戒区域等」に指定済みで、津軽関係では深浦町の210カ所、弘前市の204カ所、平川市の185カ所などが目立つ。
 県全体でみると、27市町村に点在する106の要配慮者利用施設が警戒区域上に立地しており、岩手県での水害事例も決して人ごとではない。本県には、昨年8月中~下旬に台風7、9、10号が相次ぎ接近した経緯があり、同課も「昨今の雨の状況を見ると、短期間での増水も考えられる」と懸念する。
 県はこれらの状況を踏まえ、要配慮者施設管理者向けの説明会開催や河川状況を首長に直接伝えるホットラインの確立、地域全体で水害に備える対策協議会の対象範囲を県全域に広げるなど、各種施策を国土交通省などと連携して展開し始めた。

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避難計画の作成重要=下・完

2017/1/20 金曜日

 

要配慮者施設管理者向けの説明会に登壇した工藤水害対策気象官「いざ情報が出た時に動くのは大変。事前に決めておけばコストも下がる」と事前準備の必要性を訴えた

 「失うリスクの最大は命。あやふやな根拠で命を懸けることはギャンブルに等しいのでは」。東北地方初となる要配慮者施設管理者向けの説明会を県が開いた昨年12月、講師として登壇した青森地方気象台の工藤貴彦水害対策気象官は、避難に向けた事前準備の重要性を強く訴えた。
 岩手県今泉町の高齢者施設で発生した土砂災害は、中小規模の河川でも環境変化で想定以上の猛威となり、現場の判断が命を左右することを実証した。
 被害を最小限にとどめるためには、身近に潜む危険性の察知や行政の避難情報を正確に理解する意識が重要だが、とっさの行動が難しい要配慮者は周囲の協力がより必要なものとなる。
 青森市内で開かれた要配慮者施設管理者向けの説明会では、国土交通省や県土整備部など各担当者が説明に臨んだ。登壇者の多くが呼び掛けたのは、自主的な災害情報の入手と避難確保計画作成の重要性だ。
 水防法は2013年の改正で、浸水が想定される「浸水想定区域内」の要配慮者施設は避難確保計画の作成などが努力義務に指定された。だが、16年8月の台風10号接近の際、避難情報が発令された県内21市町村の要配慮者施設(浸水や土砂災害の危険性がある区域)を対象に県が行ったアンケートでは、回答者の多くが避難確保計画が努力義務なことを知らず、4割近くは避難経路が未決定という結果だった。効果的な避難対策を進める上で、民間レベルでの意識醸成が喫緊の課題と言えよう。
 行政側は、国管理河川での水害対策の取り組みを県管理河川にまで広げようとしている。国管理河川では河川状況を首長に直接提供するホットラインを構築しているが、県はこの仕組みを県管理河川にも導入。避難指示権限を持つ首長の、迅速な判断につなげようという考えだ。
 社会全体で洪水に備える県の「水防災意識社会再構築ビジョン」も範囲を広げる。現在は岩木川、馬淵川、高瀬川の3河川に沿線河川が付随する形で協議会を設置しているが、県は出水期の6月中旬ごろまでに、既存協議会の延伸と新設により県内全域をカバーする方針で、今後は包括的な水害対策が進むことになる。
 青森市にある要配慮者利用施設管理者で生活相談員の山内香織さん(32)は「避難マニュアルは作ったが、頭で分かっていても実際に動けるかどうか心配」とし、「施設の近くには河川も山もある。危機感は感じている」と語る。
 今年の出水期まで時間はある。今こそ、避難確保計画作成を含む「災害に備える」取り組みが民間でも求められているのではないか。

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