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昨年4月、弘前市十面沢の自然豊かな地に裾野小学校が誕生した。裾野中学校区にあった修斉小と草薙小の2校が統合した学校で、開校に当たって立派な校舎が建てられ、児童63人でスタートした。
開校から9カ月。「(草薙小は)あまりにも人数が少なかったので、娘のことを考えると統合して良かった」と裾野小に6年生の長女を通わせる母親(38)は言う。自身も草薙小出身で母校がなくなるのは寂しかったというが、統合後は「娘が前よりたくさんの友達と触れ合っているので楽しそう」と目を細める。
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裾野小学校新校舎の完成記念式典で歌う児童たち。統合校の先例として新たな一歩を踏み出した=昨年11月 |
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同小4年の次男を持つ葛西真由美さん(44)は、次男の学級や他の複式学級の様子を見て「複式だと子どもが落ち着かない」と感じる統合前は男女1人ずつの2人だった次男の学年が、統合後は8人になった「人数が増えて子どもたちが全体的に明るくなった。同性のクラスメートが増えたことで、自分を発揮できるようになった子が多いのでは」と語る。
弘前市では農村地域の児童数減少が顕著だ。市教育委員会は、児童数の減少によって導入せざるを得ない複式学級を回避・解消するために学校再編を進める。だが、特に地域への愛着が強い農村地域の住民にとって、学校は地域の歴史そのものであり、地域に学校がなくなると地域が寂れる―といった声が多く聞かれる。
その上2校の場合は、地域説明会の段階で難航した。校舎の耐震性に問題がなかった草薙小校舎をそのまま統合校として使っては―という住民らの主張と、裾野中に近い場所に新校舎を建設するという市教委の案との間で意見がまとまらず、計画が3年ほど行き詰まった。
西さんは、PTAの代表として幾度も説明会に出席したことから「統合対象となった地域の声は、たとえ子どもの声でも真摯(しんし)に聞いてほしい」と訴える。また、複式学級(学年二つ)の児童数が上限16人と定められる国の基準に対して「複式の基準を取っ払わないと、いくら統合しても繰り返し」とも指摘。少子化の一因として、農村地域である同地区に50~60代の独身男性が多い問題も浮かび上がった。
市教委は今後も6校の統廃合計画を検討課題に挙げる。市学校づくり推進課の宇庭芳宏課長は「保護者の不安をどう解消し、現状を知ってもらうかが課題。保護者や地域の要望を聞き、それが実現可能かどうか検証していくことが不安解消につながるのでは」と再編計画を進める上での姿勢を説明する。
市教委が2015年度に策定した「弘前市立小・中学校の教育改革に関する基本方針」によると、統合案が出ているのは、百沢と岩木、小友、三和と新和、三省と致遠、大和沢と千年、青柳と朝陽の各小学校。地区によって意見交換会や議論の進み具合はまちまちで、具体的な実施時期は不透明だが、方針通りに統合が進んだ場合、小学校数は現在の35校からいずれ29校に減る見込みだ。
一方で、小規模校の強みを生かした仕組みも導入予定。長い間複式学級が導入されている常盤野小・中学校では、豊かな自然に囲まれた教育環境と地域との連携が期待できるメリットを生かして「小規模特認校制度」を17年度から始める。学区に関係なく入学できる仕組みで、小規模校での教育を望む家庭の受け皿とする考えだ。
歯止めがかからない少子化。未来を担う子どもたちのためにも、一歩先を見据えた柔軟な対応が求められる。