拓く・創る 地元で育成、展開 クリエーティブ職

 

2016/12/18 日曜日

 

 人口減少社会において、仕事おこしや新産業育成が急務となっている本県。デザイナーやライター、クリエーターといった、いわゆるクリエーティブ職が担うコンテンツ産業に着目し、地域での事例を通じて活性化へのヒントを探る。

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設立30周年 弘前のアニメスタジオ=上

 

 今や「クールジャパン」として海外から高い評価と人気を集め、国内でも幅広い層が愛好する日本のアニメ。その作品たちを手掛けている製作スタジオが、弘前市内にも所在する。同市城東の「イーゲルネスト」は1986年設立、今年で30年の節目を迎えた。TVシリーズ「ふしぎ遊戯」「るろうに剣心」や劇場版「新世紀エヴァンゲリオン」「美少女戦士セーラームーン」など人気作の製作に参加し、セル仕上げの技術では業界内に定評がある。スタジオは製作の便宜上、首都圏に集中立地しており、東北では四つを数えるのみ。代表の白戸勝彦さん(53)はかねてから地方でアニメ製作を仕事として確立することに意識を向けていた。
 白戸さんは黒石市出身。高校卒業後はコンピューターのオペレーターを務めていたが、アニメ製作に興味を持ち同僚らとサークルを結成。メンバーの知人が東映の当時社員であったつてで、商業作品の製作パートを任されたことをきっかけに、プロ集団としての活動を希望した有志でスタジオOM青森ワークスを設立。これが現スタジオの前身となった。
 地元でアニメ業界に携わりたいと志す若者や、札幌にあったアニメーター養成専門校からの就職の受け皿となり、最盛期には15、16人のアニメーターを擁した。設立時は在京スタジオの分所だったが97年に独立。「枚数をこなしつつも、とにかく丁寧な仕事を」と心掛けていたという白戸さん。TVアニメ「不思議の海のナディア」のオープニング製作の案件では、こだわり抜く仕事ぶりで有名な、同作監督の庵野秀明氏をして「こんなに綺麗に仕上げてくれるスタジオがあるのか」と感嘆したとのエピソードもあるという。
 「激務・低賃金」に加え、デジタル化に伴う海外スタジオへの発注増など、アニメ産業を取り巻く環境は厳しい。「『キツイ、安い』で、好きだから続けられる仕事ではない。今はアニメがもてはやされているが、実情は人材不足で業界は空洞化していっている」と指摘する白戸さん。ここに至り「東京を当てにせずアニメというメディアを創(つく)っていく活動を」という構想を抱いている。
 白戸さんの転機は4年前の脳出血発症だった。入院をきっかけにSNS(インターネット交流サイト)を始め県内のさまざまなクリエーターと知り合いになった。アニメ分野でも生き残りのため地方独自での活動が必要だと考え始めたことに併せ、同じくものづくりに携わる人との出会いが「青森での仕事を見直す場」を作ろうという意欲につながった。「仕事は固定給という観念が根強い青森で、自分たちのような制作物で対価を得る職業も認知してもらいたい」
 スタジオが立ち上がった30年前と比べ、さまざまな仕事ができる環境に変わり「理解者は増えてきている実感がある」という。「イーゲルネストが小さな趣味のサークルから始まったように、自分の活動が大きな動きになっていけば」。SNSを介し、地場やUターン志望のクリエーターをつなぎ、青森でのクリエーティブ職の在り方を再定義しようとしている。

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津軽発 コワーキングスペース=中

2016/12/19 月曜日

 

弘前初のコワーキングスペースであるSHIFT。ワーカーが個人利用するほか、さまざまなセミナーやワークショップを恒常的に開催している

 遊牧民の意である「ノマド」というビジネススタイルが一般化した現在。編集者やライター、ITビジネス関連のノマドワーカーやフリーランス、企業家といった、固有のオフィスを不要とする人たちが多く利用するのが、コワーキングスペース(CWS)だ。
 主に中心街に立地し、電源やインターネット環境などの設備を整えた「仕事場」としての機能に加え、セミナーや交流会などを通じてさまざまな年齢、業種の人々がアイデアやノウハウを共有する、イノベーションの場としても存在感を高めている。CWSの性格上、運営にはまとまった数の利用者確保が必要なため、人口規模の大きい都市部で展開するのが主だが、弘前市百石町にある「ワークスペースSHIFT」では地方都市でのCWSの在り方や可能性を提案しようとしている。
 SHIFTは同所2階にオフィスのあるITコンサル会社・CONSIS(大浦雅勝代表取締役)が運営。CWSは一般的に会員費や使用料金で経営を賄っているが、ITビジネスが先進的に発達している地域でなく、人口も20万人未満の弘前エリアでの運営は、本来のCWSのビジネスモデルに照らすと厳しい。しかし大浦代表は「利用者からお金を集める不動産業のようなことで採算を取る気は全くない」と言い切る
 ITビジネス黎明期から業界に携わってきた大浦代表は「当初はネットインフラや機器の普及、技術革新が進むにつれて、都市と地方の差は縮まるのではと考えていたが、逆に差が開いた」と指摘。東京への一極集中が続いた結果、働く場所を選ばないはずの職種であるにもかかわらず、人材やノウハウは首都圏に滞留。技術による距離的格差の解消という恩恵は上滑りの状況にある。地方ではCWSやWi―Fi(公衆無線LAN)など、ITビジネスを積極的に受け入れた環境整備が進んでいないのも、都市部から地方への転出を滞らせている要因と言える。
 大浦代表が見据えているのは、団塊世代が平均寿命を超えたことで、親の介護などの必要に迫られUターンを余儀なくされるITワーカーが今後増えるだろうということだ。SHIFTは地方での環境整備に布石を置くという意味がある。何より大浦代表は、同所内でさまざまな年代や職種の利用者が交流することによる化学反応に価値を見いだしている。「利用者からの“家賃”ではなく、この場所から生まれる新しいビジネスが狙い」。
 学生と社会人との交流セミナーや、第一線で活躍するクリエーターやITワーカーを招へいした会合などを積極的に企画しているのも特徴。「面白い人が集まる場として認知が進めば。地元民だけでなく、在京の人にも『あそこに行けば何かしら出会いがある』と思ってもらえれば、今の状況は変わっていく」と大浦代表。UターンだけでなくJ、Iターン者も引き付けようとしている。クリエーティブ職にとって働きやすい場所づくりは、地固めの段階ではあるが着実に進んでいる。

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弘前クリエイターズバンク=下・完

2016/12/20 火曜日

 

「自分たちでものを発信する力を、地域で養いたい」と話す妹尾さん

 弘前市民の認知度はほぼ100%と言ってもいいほど、愛着を得ている同市マスコットキャラクターのたか丸くん。“彼”をデザインした妹尾昭吾さんが、プロジェクト「弘前クリエイターズバンク」を通じて、津軽地域でクリエーティブ職の担い手を掘り起こそうとしている。
 自身が取締役を務めるゲーム企画制作会社「デザインアクト」(東京都)で手掛けているグラフィックデザイン案件の一部を登録クリエーターに発注することで業界第一線での経験を培ってもらうものだ。
 現在は登録した二十数人がスキルアップのための課題をこなしており、このうち数人はすでに実際の案件に携われるレベルにあるという。妹尾さんは「課題はあくまでプロの現場でこなすためのものであり、プロジェクト自体は学校のようなものでない」と強調。「手の技術は培うことができるが、オリジナリティーを出して、なによりクライアントが納得するものを作る能力は現場に入らないと育たない」。
 プロジェクトの肝は、これまでつながりのなかった業界と地域を直結し、地元にいながら「食べることができる」クリエーターの育成環境をつくり出すことにある。
 業界では、ゲーム産業の振興政策にかじを切った福岡市に熱視線が集まり、都内から有力メーカーが移転する現象が起きている。「基幹的な産業がない福岡はコンテンツを作っていかなければつぶれてしまう、という危機感からいち早く行政が取り掛かった」。
 本県では農林水産業が確固たる柱としてあるが、全国トップクラスの人口減少スピードの中で、後継者不足がすでに顕在化している状況。仕事おこしと新産業の育成は喫緊の課題になっている「まず津軽の人々にクリエーティブ職という仕事や産業があることを分かってもらいたい。そこを起点に、青森が東北で一番早くに、福岡のような呼び込み政策を展開するような機運を高めたい」とプロジェクトに懸ける思いは強い。
 「東京でやっている面白いことも地方にいながら即座に分かるようになった」というIT技術の発展を「もろ刃の剣」と例える。「若者が首都圏に引かれていく度合いは昔より強い。だが青森でも面白いことをやっていることが伝われば、逆に都市部の人がこちらに興味を持ってやってくるかもしれない」。働き掛けてもらうには、まず“発信する”地域にならなければならない。「そのためにはゼロからものを生み出す力を持ったプロを作らなければ」と意気込んでいる。
 プロジェクトでは、東京の現場から仕事を受注するだけにとどまらず、地元クリエーターが独自のコンテンツを作り、逆に発注していくような域にまで高めることを展望している。そのためには理解と共感を持った地元の人々と、地域に引き付けられた外部の人々との「二人三脚」が不可欠という。
 「コンテンツづくりとは何もないところに種を植えて育てること」と妹尾さんは言う。「アイデアは誰でもどこでも生み出せるし、それこそ畑がなくても作れる。例えば10年後に収穫できるよう、この地に今から種をまくことが必要」。
 本県において、クリエーティブの地平を切り開いていく時は、まさに今なのではないだろうか。

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