医療再編-国立弘前・弘前市立病院統合構想-

 

2016/11/11 金曜日

 

 2025年、団塊の世代が75歳以上となり、医療需要や介護需要がピークを迎える時期の地域医療の在り方を示す「地域医療構想」。津軽地域の課題の一つに挙げられた2次救急医療体制の再構築に向けた施策として県が示した国立弘前・弘前市立の2病院の再編統合案により、長年の懸案だった津軽地域の医療再編へと動き出した。現状と課題を探る。

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2次救急医療の危機=1

 

 「毎年3月になると、どこが(新年度に)輪番をやるのか、みんなで苦労してきた。それがようやくなくなるのかと」。10月7日、津軽地域を対象とした地域医療構想調整会議で県が示した弘前市立病院と国立病院機構弘前病院の統合案に対し、弘前市立の東野博院長はそう率直な言葉を口にした。危機的な状況の救急医療の維持に苦慮してきた弘前市内の病院長たちは、救急医療の要となる「中核病院」整備への新たな一歩に期待を隠さなかった。
 救急医療は、重症度によって1~3次に分けられる。このうち、手術や入院が必要な患者に対する2次救急では、夜間・休日も患者に対応するため弘前市内の病院が当番日を決めて受け入れる「2次救急輪番制」を市が運営。周辺自治体からの患者も合わせ年間約1万6000人を受け入れている。
 輪番は一時、内科系・外科系合わせ最大10病院が参加し支えていたが、2004年度から始まった新しい研修医制度以降、出身大学に残る学生が減り、津軽地域でも医師不足が深刻化。中小規模の輪番参加病院でも医師の不足が常態化し、高齢化も加わって参加病院の離脱が相次ぎ、現在は5病院に半減。残った参加病院の負担がさらに増える悪循環に陥っており、特に手術に備えるなどより多くのスタッフの確保を要する外科系は崩壊寸前ともいえる状況だ。
 状況打開に向けた対策もとられてきた。少しでも2次輪番の当直負担を軽減しようと、昨年10月からは、内科や小児科の診療を夜間・休日に行っている市急患診療所に外科を加えて休日診療に対応。また、外科系の輪番参加が今年度3病院に減る見込みとなったことを受けて弘前市は弘前大学に寄付講座を開設し医師を新たに確保することで、本来、より重篤な3次救急患者に対応する弘大附属病院高度救急救命センターも2次輪番に加わって何とか制度を維持したが、抜本的な解決にはつながっていない。
 輪番調整を担う市健康づくり推進課の一戸ひとみ課長も「人が足りないのを無理してやってもらっている状況」と話す。
 2次輪番受け持ち日は、普段の当直体制に加えてスタッフを確保したり、待機させなければならず、救急は“不採算部門”でもある。医師不足で体力を失った病院は離脱を決断せざるを得ず、「使命感でやってもらっている状態。病院の先生たちからは『いつまでこの状態で頑張ればいいのか。先が見えないから苦しい』と言われる」と、市も頭を悩ませる現状が続いている。

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弘前市立病院の現状=2

2016/11/12 土曜日

 

統合案を受け、市立病院内では患者が不安を感じないよう張り紙を掲示している

 国立病院機構弘前病院との再編統合案においては、新たな中核病院の整備場所は国立病院敷地内とされ、事実上の廃止が提案された弘前市立病院。長年にわたって地域医療を支え市民に親しまれている病院だが、2次救急輪番の負担増に加え施設老朽化などさまざまな課題を抱えながらの運営が続いている。
 「これ以上は限界。でもうちが引き受けなければ穴が開く」。櫻田靖市立病院事務局長はそう現状を語る。危機的な状況に陥っている外科系の2次輪番で市立病院は今年度、36コマ中、最も多い14コマを担当。輪番から民間病院の離脱が相次ぐ中、“調整役”を担う自治体病院の負担は避けられなくなっている。「医者や看護師備えて待機してもらう放射線技師などのスタッフも必要。人を探せなくて、シフトを組むのが大変だ」。医師の輪番担当は月2回に抑えることを目標に、足りない場合は弘前大学附属病院から医師の応援を受け維持している。
 標榜(ひょうぼう)科の常勤医確保も難しい。12の標榜科のうち脳神経科と放射線科は休診中。眼科や耳鼻咽喉科、皮膚科なども常勤医はおらず弘大病院から医師派遣を受けており、産婦人科でも分娩(ぶんべん)を休止している。
 加えて、施設の老朽化にも課題を抱える。外来や病棟が入る本館は1971年に建てられ、耐震診断では構造耐震指標のIs値が、大地震で倒壊または崩壊する危険性が高い0・3以下の部分もあった。2013年度に応急的に耐震化工事を実施し0・3以上は確保したが、再編・統合を含めた津軽地域での自治体病院の在り方を考える「津軽地域保健医療圏自治体病院機能再編成推進協議会」が立ち上がったことを受け、耐震化工事は中断中。本館全体として、倒壊の可能性が低くなる0・6以上を確保できないままでいるが、病院総務課は「全館耐震化するとなれば、億ひと桁では済まない」とする。
 経営状態は、昨年度決算は黒字となるなど安定しているが、一般会計からの繰入金はここ数年約7億円となっている。
 国立病院との再編統合に向けて協議が進められている市立病院。櫻田事務局長は「大事なのは、救急をきちんと守れるかどうか。あとは今後の協議を十分注視したい」と話した。

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先行事例から=3

2016/11/13 日曜日

 

今年4月にオープンした渋川医療センター

  国立病院機構病院と自治体病院の統合は全国の他地域でも行われている。群馬県北部・北毛地域に位置する渋川市では今年4月、国立病院機構西群馬病院(380床)と、市立渋川総合病院(154床)が再編統合し、病床数450床の新たな基幹病院「国立病院機構渋川医療センター」が誕生した。先行事例を取材した。

 

■統合への流れ
 現渋川市は2006年、平成の大合併で6市町村により誕生した人口約8万人の街だ。
 2病院の再編統合に向けた動きは、かつて結核療養所だった、伊香保温泉に程近い山手に位置する国立西群馬病院が老朽化し、建て替えで市街地への移転が検討されたことが契機。医師不足と赤字経営に悩む市立病院を抱えていた渋川市は、地域医療を守るため病院の集約と市立病院の廃止を決めた。そのほとんどが中規模病院であり、医療の薄い北毛地域で新たに中核的な役割を担う基幹病院設立に向け、県地域医療再生計画に基づいた新病院整備へと動き出した。
 新病院は、市立病院から約2キロの場所に移転新築となり、12年2月両者が基本協定を締結。14年3月着工し、この春にオープンを迎えた。
 廃止された市立病院の医療職のうち、希望者は選考の上、定年退職などを除く大多数が新病院に採用された。
 ■医師不足を抱えていた市立病院
 03年に国から経営移譲された市立病院だが、津軽地域と同様、新研修医制度導入後医師不足に。診療科の減少で赤字経営が続き、一般会計から毎年度約5億円を支出し維持してきた。新病院の総事業費約152億円のうち市の負担は約22億円。「人口規模からすると大きな額だが、毎年赤字でもあり医療機能の進展にもなる」と、当初は住民、議会の理解を取り付けた。
 ■救急医療も苦慮
 渋川市など3市町村による渋川医療圏では医師会が2次救急輪番を運営。市立と国立西群馬を含む6病院中、市立の担当日数が最多で、他病院の2倍近くを担っていたことも。一方医師不足は深刻で、常勤医は10人程度で、1週間に1回程度という高い頻度で輪番を担当。本来必要な内科・外科の医師2人は置けず、救急を受け入れられない場合、大病院を有する隣の前橋医療圏に搬送。当時は、3次のみならず2次救急すら前橋に流れるなど同医療圏へ依存し、医療自足率は非常に低い状態だった。
 ■新病院の機能
 渋川医療センターは現在、市立と国立西群馬が担っていた2次救急輪番日数をそのまま担う。輪番日の患者数の対前年度比(4~9月)は、入院は1・6倍、外来も約2倍に増加。救急車による搬送は約2倍、医療圏全体でも約1・3倍に増え、「近隣医療圏への流出を防いでいる」と、同センターの宮﨑健司事務部長。
 新病院は旧2病院の機能に新たに複数の診療科を加え機能を充実。標榜科は地域の開業医と連携し基幹病院として入院治療ができる病院とするため、常勤医師がいる科のみに。医師確保に奔走した結果、開院時の常勤医は45人を確保した。
 ■住民対応
 統合に向けて、各病院の周辺自治会向けの説明会や、新病院の紹介を兼ねた出前講座を開催。また住民に不便をかけないようにと、バス路線の変更や増便などの強化を行った。
 また跡地利用にも並行して着手。市立病院跡地は駅に程近い好立地であることに加え、住民からも閉鎖による治安の悪化を心配する声も。市は検討委員会で協議し、介護や保育の養成学科を持つ専門学校と、子育てや高齢者の支援機能を併せ持った複合施設として来年4月にオープンさせる予定だ。
 ■開院から7カ月
 新病院オープンから7カ月が経過した。渋川医療センターの宮﨑事務部長は「思った以上の効果。市民の期待も大きい」と自信。市健康管理課の清水哲郎課長も「いいスタートを切れたと思う。救急医療もこれまでより充実しているのを実感しており、来年度以降さらに期待できるのでは」と話す。
 病院経営からは手が離れたが建物を区分所有している市側はこう話す。「運営委員会を通して市民の要望をこれからも伝えていく必要はある。より良い地域医療のために」

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中核病院で人材確保も=4・完

2016/11/15 火曜日

 

「研修医を育成できる体制が整い、医師の定着や確保につながってほしい」と話す一戸部長

 「救急医療は一定規模の医師や診療科、病床数などの医療機能が必要。まずは病院再編で機能を充実させないといけない」。先月、国立病院機構弘前病院と弘前市立病院の再編を提案した県健康福祉部の一戸和成部長は、危機的な状況に陥っている弘前市の2次救急医療の再構築についてこう語る。
 津軽地域の2次救急輪番は、深刻な人材不足で現場の医療スタッフに負担がかかる崩壊寸前の状態。救命救急センターを備えた中核病院を再編し、人材や病床数、診療科などの医療機能を充実させることで、救急医療の立て直しを図る。
 県が医療機能の充実にこだわる大きな理由の一つに、救急医療を維持する上で重要な人材を安定的に確保する狙いがある。
 津軽地域は病床が200~300床程度の中小規模の病院が併存し、救急医療に対応できる十分な医師が確保できない状況。さらに、研修医が研修先を選択できる新臨床研修制度が2004年度に開始されたことで、津軽地域外や県外の病院に研修医が流れる傾向が強くなり、地域医療の未来を担う若手医師の確保も難しくなっている。
 臨床研修制度の中で、救急医療に力を入れている病院を選択する学生は多い。その理由は「どんな症状でも診られるようになりたい」と考える学生が、症例を問わず診察できる救急医療現場で研さんを積みたいためだ。また手術の症例数が多かったり病院規模が大きかったりするなど、医療機能が充実する病院で自分を高めたい―と考える学生も多い。
 県内で救急医療に積極的な県立中央病院と八戸市立市民病院は、研修病院の中でも人気が高く、臨床研修医の募集定数をほぼ毎年度満たしている。県外からの注目度も高く、首都圏で開催する臨床研修病院の合同説明会では、2病院のブースに医学生が集中するほど。一方で津軽地域は一定人数を確保できているが、募集定員を下回る状態が続いている。
 現在、医師確保に向けて卒業後に県内勤務を義務付ける弘前大学の入学制度「地域枠」の効果が表れてきているが、一戸部長は「地域枠がなくなっても全国に数多く存在する病院の中から選ばれるためには、若手医師が切磋琢磨(せっさたくま)して腕を磨ける病院が必要。そういう病院をつくらないと再編の意味がない」と指摘する。
 県は病院再編案の中で、医師集約による急性期医療や専門医療の向上と救命救急センターの整備による医療機能の充実で、研修医や若手医師が引き寄せられる人材育成の拠点「マグネット・ホスピタル」を中核病院の役割に挙げ、長期的に安定した人材確保を目指す。
 県は市や国立弘前病院、弘大医学部附属病院の4者で協議を進めており、病院再編や救急医療の立て直しなどに向けて具体的な取り組みを提案していく。一戸部長は中核病院の誕生で「医師を育成できる体制が整い、医師の定着や確保につながって、市民や津軽地域の住民が抱える救急医療の不安解消につながってほしい」と期待を寄せる。

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