'16参院選 暮らしと争点

 

2016/6/30 木曜日

 

 参院選は7月10日に投開票される。有権者は県内のさまざまな課題について今、何を思っているのか。分野ごとに取り上げる。

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雇用=1

 

ハローワーク五所川原で求人情報を見る求職者

 青森労働局によると、4月末時点での県内有効求人倍率(季節調整値)は1・06倍と過去最高となった。高卒者の求人受け付けも、今年は初日(速報値)が過去10年で最多を記録。青森労働局は「各企業の努力により、本県に人材が必要になってきている証拠」(山谷良子地方市場情報官)との見方を示す。
 ただ、津軽地域に目を向けると、五所川原地区は県内9地区で常に最下位。黒石地区も0・61倍にとどまるが、弘前地区で雇用を得ているという背景がある。五所川原地区の有効求人倍率は4月末時点で0・47倍。過去に0・1倍を切ったことを踏まえると上昇してはいるが、県内平均の半分以下という厳しさだ。
 稲作などの1次産業を基幹産業としてきたことから他地区と比べて企業数が少なく、さらに誘致企業も少ないことが求人倍率の低さにつながっている。
 地元の若者にとって、県内の雇用環境はどのように見えるのか。ものづくりのプロを輩出している東北職業能力開発大学校附属青森職業能力開発短大(五所川原市)は、津軽地域の工業高校からの進学率が高く、就職率はここ数年100%が続いている。
 県外大手企業への就職が内定済みの同短大電気エネルギー制御科2年工藤継太さん(19)は「学んだことを生かし、自分らしく成長できる企業を探した結果」と地元就職にこだわらなかったが、それでも「1社でも大きな工場が津軽にあればいいと思う」と話す。
 県内企業に就職が決まった同短大生産技術科2年大高弘記さん(20)は「自分がやりたい設計の仕事を県内で探した。津軽で探そうとすると確かに数が限られた」と振り返り、「県内企業は県外大企業に比べると規模は小さいかもしれないが、だからこそ自分がやりたい仕事に近づけるチャンスも多いはず」と口調に力を込める。
 山谷情報官は五所川原地区の雇用に対し、「今後も求人が一気に上昇するとは期待しにくい」と指摘しながらも、「ミスマッチを防ぐため事業所からの相談にしっかり応じ、求人をグレードアップしながら内容充実に努めていく」と支援に意欲を示した。
 一方で、ハローワーク五所川原を訪れる人々の声は切実だ。今月下旬に求人票を見ていた五所川原市の女性(20)は「情報系の学校で学んだことを生かせる仕事を探しているが難しい。県外に出た方がいいのかもしれない」とため息をついた
 求職中のつがる市の男性(61)は「一応求人はあるが、給料が安い。西北五地域は移動距離が長いのに大抵交通費は出ないので、早起きやガソリン代捻出を考えると、割に合わない」と苦笑する。
 出稼ぎも考えているが、首都圏は県内より賃金が高いとはいえ出費がかさむ。「昔は出稼ぎに行くと大部屋に寝起きし、部屋代を払わずに済んだ。今は一人部屋になった代わりに部屋代が必要」と話し、「年金も低いし働かなくては食べていけないが、どうしたらいいのか…」と暗い表情を見せた。

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アベノミクス=2

2016/7/1 金曜日

 

アベノミクス効果が十分に浸透していない地方経済。苦境打開のためのさらなる政策展開が望まれている(写真はイメージ)

 今回の参院選で大きな争点の一つとなっているのが安倍政権による経済政策・アベノミクス。金融緩和と財政政策から成長戦略を導く図式ではあったが、政策推進による円安・株高の恩恵を受けるのは大企業が主。対外輸出を軸に持たない中小・零細企業中心の産業構造である地方では、政策効果は限定的であるという見方が強い。
 弘前市にある食品製造会社の代表取締役は「一元的な政策では地方が見落とされてしまう。都市部の企業では最高益を出しているところも数あるが、ここまではアベノミクスの“矢”が届かない」とこぼす。主原料の小麦は円安の影響で高騰。現在は価格が安定してきたというが、10年前と比べ2割程度高い。「中小メーカーは値上げすると小売側で切られてしまう。大手メーカーの値上げを待って踏み切る状況。ここ3年、デフレ傾向は変わっていない」と苦境を述べる。
 小売業でも状況は芳しくない。同市の百貨店役員は「消費増税の反動が大きく、年金の受給額も減る中、いよいよ節約志向が強まってきた感がある。今年に入ってからは特に、4月に値上がりした食品関連を中心にじわじわとその波が来ている」と話す。衣料品なども低価格志向に動いており「あるメーカーでは付加価値をつけて値上げをした瞬間に売り上げが落ち込んだ。まず価格で商品を見る、というのがトレンドでは」と、家計の財布のひもは固くなっていることを実感している。
 黒石市の縫製企業の代表取締役は「リーマンショックで一度落ち込んだ業況は、3年前から回復傾向だが、縫製工場の倒産が相次いだことと、縫製業界の人手不足が仕事が多くなった要因。消費自体は減っている」と明かす。地域経済については「最低レベルだと思う。このまま何もしなかったら衰退してしまう。まずは何とかして人口減少を食い止める必要がある」と危機感を募らせ、業界自体も人手不足で外国人労働者に頼らざるを得ない状況があるという。
 人手不足は建築業でも顕著。弘前市のリフォーム請負会社の代表は「職人、作業員は50~60代が中心で現場は疲弊している」と話す。この業界でも円高と資材不足から原材料費が高騰。「原料を製造する大手メーカーは値上げをしていくが、地域の下請け業者は価格にそのまま転嫁もできず、値上げ分を企業努力で吸収せざるをえない」と、労働力と費用の両面から板挟みになっている現状だ。
 弘前大学人文学部の李永俊教授は「大胆な金融政策にもかかわらず、地方銀行の貸出残高はアベノミクス以降に増えたとは言えない状況。本県の産業構造が直接的に効果を与えられるものでないことに加え、金融市場での貸付面の弱さが政策効果を限定的なものにしている」と指摘。前出の百貨店役員は「報道では景気が上向いていると聞くが、今後は現状のまま推移するだけ、逆によりシビアになっていくのではという危機感を抱いている。やはり実体経済に反映されていると言えない現状に『何かがおかしい』という空気が小売業全般にあるの
では」と危惧する。政府の統計では個人消費は2014、15年と連続で減退しており、先行きの不透明感は企業、家計ともぬぐえない状況にあると言える。
 李教授は「個人の持つ不安心理、企業が抱く不確実性が金の流れを止めてしまっている。これをどう取り除くかが政策の一番のポイント」と論じる。局面打開には消費マインドを刺激し、経済循環を促すことが不可欠。そこに地方金融の担う役割が大きいとし「国政には地域の力を十分出せるような環境づくりが重要。地方にとってはアベノミクスよりも感応度の高い政策が求められる」と述べた。

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TPPと地域農業=3

2016/7/3 日曜日

 

津軽地方に広がるのどかな田園風景だが、多くのコメ生産者は今、高齢化と後継者不足の問題に直面している

 ここ数年、国政選挙で重要争点とされてきたのが環太平洋連携協定(TPP)への参加をめぐる是非。昨秋、政府は大筋合意に至ったが、最大の参加国・米国でオバマ大統領の任期満了が近づき、次期大統領選の主要候補は保護主義の立場から懐疑的な立場を鮮明にする。今後の行方は不透明だが、県内の農業者は地域の将来を左右する協定の行方に重大な関心を示す。
 政府は「総合的なTPP関連政策大綱」を踏まえ農業の体質強化対策、経営安定対策の充実を推進。関税撤廃が原則という中で一部を例外としたことなどを理由に、重要5品目を守るとした国会決議に沿うとしている。
 こうした流れの中、水田地帯では大規模化や農地集約が進められているが、津軽南地域では大規模な17ヘクタールを経営し県産米新品種「青天の霹靂(へきれき)」の生産にも取り組む、平川市の古川寛三さん(68)は「どんなに拡大しても日本は米国と同じような規模にはできない」と指摘する。
 家族経営の農業者が多く所属する津軽農民組合(弘前市)の工藤保組合長(55)は「小規模農家が切り捨てられようとしている。食料安保の問題、食の安全面が危惧される。農家はTPPのことを決して忘れてはいない」と主張。リンゴ生産者の団体・県りんご協会(弘前市)の藤田光男会長は「輸入果汁やニュージーランドの生果が入りやすくなり、農家の手取りに影響が出る」と心配する。
 県内の農協系団体は今回の参院選に際し、中立・自主投票の方針。津軽みらい農協(本店平川市)の工藤友良組合長は「重要5品目が守られたというが、コメの無関税輸入枠を設けるなどしており、そうは思わない。あらゆるものが関税撤廃の方向に進む」とし動向を注視している。
 農業の体質強化を目指した動きに対応できない小規模経営の農業者の中には、近い将来の離農を決意している人も多い。70代の夫と共に1ヘクタール弱の水田でコメを作付けする弘前市藤代地区の女性(67)は「夫は病気持ちだし、子どもは継がない。TPP対策は若くもない私たちには無関係。今さら政治に求めることもない。諦めムードだ」と暗い声で話した
 政治の動向に左右されず、農村のネットワークを基盤とした体質強化を進めている鬼楢営農組合(同市)。鳴海廣治組合長(64)は「地域の共存共栄を図るため、悪条件の農地で採算に合わない状態の高齢者にリタイアしてもらって農地を集約し、耕作放棄地が出ないようにしている。TPPの有無に関係なく戦略的にすべきこと」とし、政治家に対しては「選挙対策でなく、長い目で見た農業政策を講じるべき」と注文した。
 全国メディアでは国会議員や前東京都知事の政治資金問題が多く報道され、最近は都市部では必ずしも、TPPへの関心が高まっていない。弘前東部地区営農組合の小笠原悟組合長(61)は「TPPで医療や保険の問題は農家以外の暮らしにも影響する。みんなに関係する問題でないか」と警鐘を鳴らした。

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安保法制=4

2016/7/4 月曜日

 

安保法が施行され、海外任務に自衛隊が向かうことが想定される中、米軍関係者や自衛隊関係者に関わり合う地域住民の関心は高い=写真はつがる市にある航空自衛隊車力分屯基地

 参院選で争点の一つになっているのが安全保障をめぐる問題だ。3月29日、集団的自衛権を認め、自衛隊の武器使用権限を拡大した安全保障関連法が施行された。法施行により、邦人保護などの任務遂行の際に武器使用が認められ、妨害行為に対して銃の威嚇射撃も可能となる。自衛官にとって、任務の危険性と銃口を向ける判断を迫られる重圧が増すのは明らか。新任務が初めて付与される可能性がある南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)には、陸上自衛隊第5普通科連隊(青森市)が派遣候補にも挙がる中、自衛官OBや米軍在留地の人々は何を思うのか。
 約35年間、県内外で陸上自衛官として働き、現在は津軽地方の民間企業に勤務する50代男性。中国が海洋進出を進め、北朝鮮も核・弾道ミサイル開発を加速させている東アジアの情勢を踏まえ、「自衛隊の強化は必要不可欠。米軍が守ってくれるとは限らない。自分の国は自らで守るのが基本だ」と強調する。武器使用の範囲が拡大することについて「派遣される自衛官は皆、いざという時の覚悟はしている。後は新任務に応じた訓練次第」という。憲法9条の改正にも基本的には賛成だ。「あれは終戦下に米国がつくった法律。日本独自で作り直すべき」とし、「常任理事国は皆軍隊を持っており、核兵器を保有している国もいる。外交で力を持つのはやはり軍事力ではないか」と指摘する。
 津軽唯一の米軍駐留地つがる市。米軍の早期警戒レーダー「Xバンドレーダー」が国内で初めて配備されてから10年が経過し、現在も航空自衛隊車力分屯基地に隣接する米陸軍車力通信所で運用されている。自衛隊を身近に感じている同市の市民は安保法制をどのように受け止めるのか。
 同市の30代主婦は「自衛隊の友人がいる。(同盟国の)戦争に巻き込まれることになるのかと怖い。家族の保障などはどうなっているのだろうなどと考える」と語り、配慮を訴える。
 新法「国際平和支援法」では、PKOに参加する自衛隊が離れた場所の国連要員らを守る「駆け付け警護」が可能。海外での自衛隊の活動の幅は広がる。
 60代の会社員男性は「『国の平和と安全を一層確かなものとする』とか『抑止力』のためというので賛成だが、孫が自衛隊を目指しており、進路に反対した。問題はいつも何が起きているか分からないことではないか。報道を注意して見ているし関心がある」と不安そうに話した。
 安保法をめぐり、施行後も全国各地で反対を訴える活動が見られる。70代農業男性は「戦争に近づいているように思えてならない」とし、「時代は変わるものだが、歴代内閣が禁じてきた集団的自衛権(の行使)。もっと慎重に時間をかけて理解を得るべきなんだ」と静かに語った。
 施行までの流れについて、前出の元自衛官からも同様の意見が聞かれた。「平和はただじゃない。むしろ一番お金が掛かるものと国民は認識すべき」と持論を展開する一方、「自衛隊員としても、国民の過半数から支持を得て施行後の任務に就きたいのが本音だろう。現政権は決定を焦り過ぎた。国民への理解と支持をもっと得てからすべきだった」と話した。

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