農業で生きる

 

「黒石米」復興=4

2016/1/5 火曜日

 

ムツニシキを試食した市民の反応はおおむね良好=2015年11月21日、黒石りんごまつり会場

 かつて、すし米として高く評価された「黒石米」。黒石市は今年度、この名声を取り戻す試みに着手した。白羽の矢を立てたのは良食味品種でありながら、時代のニーズに合わずに消え去ろうとしていた旧県奨励品種「ムツニシキ」。「青天の霹靂(へきれき)」に沸く中で、あえて“幻の品種”に着目したのも話題性があるが、本当の狙いは、用途をすしに特化してコメ余りが叫ばれる主食用との差別化を図ることにある。
 市農林課によると、黒石は古くからコメどころとして知られ、特に北海道ではすし米として人気を博したという。今年度から3カ年の黒石米活用検討実験事業で、すし米としての黒石米復興の夢をムツニシキに託した。
 ムツニシキは旧県農業試験場藤坂支場が開発し、1971年に奨励品種になった。食味より収量が重視された時代で、倒れやすさや粒が小さめで多収が見込めない欠点から、生産者に敬遠された不運の品種だが、当時を知る生産者に「おいしかった」記憶が残っており、すし米として使われた実績もある。市は「技術が向上した今なら、欠点を克服できる」と判断した。
 事業には県農試を前身とする県産業技術センター農林総合研究所が苗の提供などで協力し、栽培は若手生産者で組織する南黒おこめクラブに委託。当時を知らず、手探りで挑戦した同クラブの工藤文秀会長は「作りにくくはなかった」と話すとともに「天候に左右されるため、作り続けてみなければ何とも言えない」とした。
 今年度は3アールに作付けしたが収量は「つがるロマン」の半分程度の90キロにとどまった。農林総研水稲品種開発部の須藤充部長は「手植えによる疎植が主因。つがるロマンの95%ほどの収量は確保できるはず」とする。関係機関や市民の試食では「おいしい」「すしに合う」との反応がほとんどで「倒伏を避けようと肥料を抑えたことや諸事情による刈り遅れがあったのを考えると、食味も今年度以上になる」と期待する。
 来年度は市と同センターが昨年12月に結んだ連携・協力協定に基づき、農林総研から生産指導などを受ける。栽培面積を10アールに増やし、一部は機械で植える方針。既に県内すし業界から問い合わせがあり、作付け希望の声も聞かれる。近く市内のすし店を対象に行う試食で高評価が得られれば、販売面の道も開けてくる。可能性を高める2年目が間もなく始まる。

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稲作複合経営を提案=5

2016/1/6 水曜日

 

大規模稲作経営に向けた直播を核とする省力・低コスト技術について説明する佐々木さん=2015年10月、つがる市柏

 見渡す限り田んぼが広がるつがる市の柏地区―。45年ほど前、父から水田を受け継いだ同地区の農家佐々木直光さん(66)は、就農当時2・5ヘクタールだった水田をトラクター、田植え機、コンバインなど積極的な機械の導入で徐々に規模を拡大してきた。現在、家族とともに農繁期には雇用を入れながら約30ヘクタールの大規模稲作経営を実践する。米価が低迷する中、高品質重視のクリーンライス、加工用米、飼料用米、酒米といったさまざまな用途別のコメづくりをする「稲作複合経営」を提案、地域に合った農業の形で安定的な経営を目指している。
 東北農政局青森支局によると、2015年産水稲の市町村別収穫量で10アール当たりの収量(単収)は、つがる市が661キロで、5年連続県内トップ、作付面積(7320ヘクタール)、収穫量(4万8400トン)ともに県内首位となった。一方、近年の米価低迷により打撃を受けたコメ農家の中には、収入安定のため、大規模化や多品目による複合経営など、時代のニーズに合う農業形態を模索する動きが見られる。
 佐々木さんは地域との共存に根差した効率的な経営展開や省力技術の導入、用途の異なる稲栽培での経営安定などが評価され、15年度田中稔賞を受けた。
 柏地区の場合、土壌が湿地だったこともあり、水田の下に泥炭がある場合も多く、畑と水田を両立させるのは厳しい。佐々木さんは「土地に合ったやり方を見極めることが大事。この辺りは稲作のみでの複合経営が向いているのではないか」という。
 佐々木さんは昨年、コメの複数品種作付けに挑戦した。これまでの主食用、飼料用、加工用のまっしぐら、主食用のつがるロマンに加え、高品質の青天の霹靂(へきれき)、新たな販路拡大という意味から華吹雪(酒造好適米)を作付けした。
 多品目ではなく、品質のいいコメを高く売り、収量が上がる地域の特性を生かし飼料米もつくる。地域の特徴を捉え、時代のニーズに合わせて複数品種を扱い、稲作を主流にしたままで安定収入を目指し、危険分散を図ろうという取り組みだ。高い管理技術が求められるが、地域の人たちと情報交換をしながら土地ならではのスタイルを模索する。
 栽培面では15年、西北地域県民局の「西北型大規模稲作経営確立のための省力・低コスト技術体系定着事業」で乾田直播、湛水(たんすい)直播、疎植栽培に取り組み、直播を核とした省力・低コスト技術確立を目指した。
 事業では規模拡大に対応し、直播栽培を取り入れることで作期を分散させ労力の集中を避けた。家族労働という少ない人数でも適正な栽培管理を実現させた。「田植え機並みに収量を確保できるかというところ。技術的に安定してきている」と手応えを感じている。
 人口減少が進み基幹産業が農業というこの地域で、省力・低コスト技術の確立、作業の効率化、農地集約といった水田農業の維持・発展への課題は山積する。さらに、環太平洋連携協定(TPP)大筋合意の流れにより、本県農業は国内外競争への対応に迫られている。
 「『青天の霹靂』のデビューをきっかけに他の県産米も注目度を高められるよう、おいしいコメをつくり県産米をアピールしていきたい」とし、「ここでは農家が生き残っていけないということは、地域そのものが崩壊するということ。大規模も小規模も(農家は)地域を守ってきた。地域が持続できるよう、若い世代が希望を持てる農業を発信していきたい」と積極的な農業経営を進める。

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リンゴ輸出先開拓=6

2016/1/8 金曜日

 

マレーシア向けのジュースを積み込む作業員。青研ではさまざまな国にリンゴや加工品を輸出している=2015年7月、弘前市の青研本社前
一層の販路拡大を見据え、青研の本社向かいに新設された集出荷貯蔵施設「第2りんごセンター」

 2014年産の県産リンゴ販売額は、16年ぶりに1000億円の大台を突破した。この快進撃の重大な要素となったのが、本県産を主力に年間3万トンの大台を初めて突破した輸出。県内の移出業者や農協などが海外展開を図っているが、このうち弘前市の農業生産法人「青研」は、現在の主要取引先である中華圏以外にも生果やジュースを積極的に売り込み、将来を見据えた販路拡大に力を入れている。
 青研は50年近く前に若手リンゴ生産者の研究会として発足。その後株式会社化し、現在は自社直営農園産と200戸以上の契約農家から集めたリンゴを生果やジュースとして販売している。03年から輸出への取り組みを始め、14年産は生果200トン弱、ジュース約100トンを海外に展開。昨年春に集出荷貯蔵施設を新設したこともあり、15年産は生果、ジュースとも大幅増の見通しという。
 台湾、香港、中国が主要取引先だが、マレーシア、タイ、シンガポール、米国といった国々にも積極的に売り込んでいる。竹谷勇勝社長(72)は「農家が豊かになれば少子化や人口減に歯止めをかけられる。そうした部分を満たしていくための努力をするよう心掛けている」と攻めの姿勢を貫く理由を語る。
 輸出先の開拓に当たっては、食味や安全性で取引先の信頼を得ていくことが重要。こうした考えに立ち昨秋、生産や流通の過程が適正と示す規範「グローバルGAP」の認証を得た。欧州発祥の規範で、EUやその影響下にあるアジア各国との円滑な取引につながると考えている。「販売歴や従業員の健康チェックなど、内容は従来から行ってきたことの延長で、さほど難しいことではなかった。これで欧州に輸出するチャンスも出てくる」と意欲を示す。
 昨年、賛否両論が渦巻く中での大筋合意となった環太平洋連携協定(TPP)。参加国の無関税化を目指す内容で、青研の取引先の国の一部も参加の見込み。竹谷社長は「リンゴには関税撤廃までの慣らし期間がかなり長く、プラスもマイナスもそう無い」とみており、その進捗(しんちょく)状況に関係なく販路拡大を模索する構え。政府に対しては「これまで農協や各業者の努力で、リンゴ輸出のために必要なインフラ整備がなされたが、6次産業化となると大変な経費が掛かる。そうした部分にてこ入れが欲しい」と求める。
 TPPが締結となった場合の輸出への影響については、県りんご輸出協会の深澤守事務局長も「現段階で大きな影響はない」とみている。一方、県産リンゴ最大の輸出先、台湾ではニュージーランドが既に台湾とFTA(自由貿易協定)を交わしており、優位に立つ。「台湾が今後(TPPに)入れば、日本産も台湾の関税が撤廃されるので伸びていくだろう」と展望する。

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蓬田でブランド化=7

2016/1/9 土曜日

 

収穫期を終えた現在、ジュースなどの加工品の商品開発に着手。6次化の可能性も探る
蓬田村がブランド化を図っている品種の一つ「ベビーベビー」(よもぎたアシスト提供)

 「津軽の雫」「北の雅」「サマーセレブ」「よもぎたベビーベビー」。県内有数のトマト産地として知られる蓬田村は品種名ではなく、独自の名称で4品種のトマトを売り出している。トマトは全国各地で生産されており、産地間競争も激しい。「売り上げを伸ばすにはブランド化だ。産地としての盛り上がりを醸成したい」。村の第三セクター・よもぎたアシストのアグリビジネス事業部の小田桐克さん(52)は熱っぽく語る。
 人口わずか3000人ほどの村で、農業は基幹産業の一つ。中でもトマトを生産する農家は少なくない。
 村は他産地との差別化を目指して主力品種の大玉「桃太郎(津軽の雫)」に、2012年度から中玉「華小町(北の雅)」、イタリア原産の中玉「アマルフィの誘惑(サマーセレブ)」、ミニトマト「ベビーベビー(よもぎたベビーベビー)」の3品種を次々に導入。「よもぎた4姉妹」のブランド化を図ってきた。
 その一方、小田桐さんによると、村内で生産されたトマトは産地直売所や県内の一部店舗などの販売が主で、販路拡大が大きな課題となっていた。
 こうした状況の中、14年に村で新規就農した小田桐さんが村に掛け合い、ブランド化に向けた業務改善を提案。小田桐さんは15年度から三セクでトマトの販売業務に携わるようになった。
 「産地と言うからには量、品質を安定させないといけない」。桃太郎を除く3品種を、農家が栽培から収穫、選果、箱詰め、出荷していた態勢を見直した。三セクがこれらの作業を担うことで、農家が生産に集中できる環境を整備した。
 都内の店舗で一部取り扱いが始まったほか、個人客への発送にも取り組んだ。1パック(200グラム)を村内は400円、村外は450円で販売。都内では600~800円で売れた。
 3品種合計の初年度の売り上げ目標3000万円には至らなかったが、「ある程度、収量、売り上げ、栽培方法のデータが取れた」と小田桐さん。収穫期を終えた現在は、ジュースなどの加工品の商品開発を進める。
 環太平洋連携協定(TPP)が発効されれば、国内農業を取り巻く環境は一層厳しさを増す。トマトは加工品の関税が撤廃される。
 生果は直接的な影響が計りにくいが、小田桐さんは、TPPをきっかけに安全で高品質な国産農産物が注目を浴びて「価値がもっと認められるようになれば」と期待している。

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