農業で生きる

 

2016/1/2 土曜日

 

  環太平洋連携協定(TPP)の大筋合意や国のコメ政策の転換など農業をめぐる環境が変化する中、本県の農業環境も厳しくなることが予想される。こうした中、新たな販路拡大や生産技術の確立など、創意工夫により活路を見いだしている生産者や団体を紹介する。

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若手農家の販路開拓=1

 

西日本での対面販売で青森リンゴをアピールしつつ、首都圏などへの売り込みに力を入れている赤石さん(左)
大阪市内で行った生産者によるリンゴ直売会のチラシの一部。ポップなデザインで若者へのPRも図られた(右から2人目が赤石さん)

 津軽地方を代表する農産物リンゴ。外国産や新品種など多彩な果物が次々と登場し、消費地での競争が激化の一途をたどる中、良品生産と並んで売り込みの在り方も生き残りのカギと言える。こうした状況の中で弘前市のリンゴ生産者赤石淳市さん(37)は、関西地方以西の遠方に自ら出向き、当地の消費者に生産物を直接アピール。さらには県外客への宅配にも積極的に取り組みながら、独自の販売網を開拓している。
 同市三世寺に代々続く農家の生まれで、建設関係や営業マンを経て10年近く前に就農した赤石さん。リンゴとコメを主とする複合経営だが、収益性を考慮してリンゴの比率を増やし「少し酸味が残っていて、好みの味」の葉とらずふじをメーンに据えた。株式会社「RED APPLE」を設立する形で法人化も果たし、代表取締役を務めている。
 食味の良いリンゴの生産に努める一方で、販路拡大にも心を砕く。県の「りんご輸出チャレンジャー育成事業」に参加するなど輸出への関心もあるが、対面販売で重点を置いているのは西日本。その理由を「まだまだ国内に消費を掘り起こす余地があるから。西ではおいしいリンゴという評価で信州(長野県)産が多く出ているが、旬の県産品を直接届ければ、青森リンゴのイメージを向上できる」と語る。
 九州地方での対面販売で「2、3年やっているうちに少しずつ評価を定着させてきた」といい、当地で知り合った業者が重要取引先として根付いた。その傍ら、ホームページ、BS番組のテレビショッピング、全国紙の広告欄などさまざまな媒体を組み合わせて全国規模で宣伝を展開。現在は売り上げの6割弱を宅配が占めており「経費も掛かるし大変な面はあるが、自分で売る以上いろいろやっていかないといけない。だから広告のことも勉強している」。
 3年前からはウェブコンサルティング会社コンシス(弘前市)が運営する農産物情報サイトの利用者仲間と共に、大阪市中心街での直売会に参加。消費者へのアピールを図り、同じ志を抱く仲間との交流を深めている。同社の担当者は「農産物の場合、私たちがPRするのと生産者が直接売り込むのとでは反応が全く違う」と説明する。
 産地を守りたい―との思いから、赤石さんは世代の近い住民に声を掛け、地域の青年農業者による互助組織も結成した。「4、5人から始めて15、16人に増えた。あれこれ話し合うことが刺激になるし、リンゴ農家同士ならではの情報共有もできている」という。農業を取り巻く情勢は必ずしも明るくはないが「みんなで頑張って、最終的に東京オリンピック(2020年)の時にそこで生産物を販売できれば面白そうだとか話している」と、前向きに夢を描いている。

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耕畜連携の未来へ=2

2016/1/3 日曜日

 

多くの飼料原料が供給されている東北グレーンターミナルの一角

 八戸港で東北最大の穀物サイロを運営する東北グレーンターミナル(八戸市)には、海外の穀倉地帯からトウモロコシや大豆といったさまざまな飼料原料が、大型船などで輸送される。昨年は津軽から飼料用米約1500トンを初めて受け入れ、津軽のコメ農家グループと取引した飼料会社へ供給した。佐藤潮社長は「飼料として扱うには、量がもっと増えるべき」と明言する。
 同社が取り扱う飼料原料は年間約140万トン。今回の飼料用米はフレコンバッグと呼ばれる梱包(こんぽう)材を用い、トラックで運び込まれた。佐藤社長は「飼料用米が万トン単位で生産されるようになれば、トラック輸送は非効率。鯵ケ沢町の七里長浜港を整備し、船で運ぶ方が合理的」とし、長期的ビジョンに立った本県の飼料用米への取り組みを期待する。

 国内は主食用米の需要が減少し、将来的に環太平洋連携協定(TPP)の影響でさらに打撃を受けるとの予想もある。一方、国は海外に依存する畜産用飼料の自給率向上を目指し、主食用米から飼料用米への転換を推奨。業務用米を中心に手掛けてきた西北五地域の大規模コメ農家は、飼料用米の作付面積を増やし始めている。
 飼料用米は現在、国から10アール当たり最大10万5000円の交付金が得られるが、売り先の確保や保管料、輸送料の自己負担がコメ農家の課題だ。
 西北五地域でコメ農家グループの代表を務める五所川原市の和島勇人さん(52)は、仲間と日本飼料工業会(本部東京)と契約し昨年、東北グレーンターミナルへ500~600トンを輸送した。「まだ手探り状態だが、これからはコメ農家がスクラムを組む必要がある」(和島さん)。
 同市の渡邊洋一さん(52)も約30人の仲間とともに八戸市の飼料会社と契約し、東北グレーンターミナルへ飼料用米を輸送した。渡邊さんは「国が減反政策から手を引き、TPPも大筋合意し、今後のコメの在り方に不安はあるが、飼料用米がきちんと推進されるかどうかが分かれ目」とし、「コメ農家のみならず、国や自治体の本気度も問われている」と口調に力を込める。

 つがる市で飼料用米を取り入れた養豚経営をしている「木村牧場」の木村洋文社長は昨年秋、約5000~5500トンの飼料用米を集荷し、このうちおよそ1500~1600トンを大手加工肉メーカーに仲介した。木村社長は「今年度は飼料メーカーに8000~1万トンを仲介することも検討中」と話す。
 中国などの富裕層増加に伴って肉を食べる人口が増え、畜肉のニーズが高まるとともに、各国間で餌となる飼料を奪い合う時代がいずれ到来するかもしれない―と木村社長は懸念。「TPPが実際に動く頃、世界の人口や消費のシステムがどうなっているか分からないが、100年後の日本のためにも、国産の飼料用米で畜肉を作るシステムを定着させるべき」と強調する。
 東北グレーンターミナルの佐藤社長も「北東北は畜産の要。コメと肉の“耕畜連携”を推し進めるためにも、津軽の飼料用米が5年、10年先も使われる体制を構築し、地域を良くする必要がある」と今後を見据えた。

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地シードル振興の今=3

2016/1/4 月曜日

 

「観光客らにリンゴ産業の素晴らしさを伝えたい」と話すシードル工房kimoriの高橋代表(右)
タムラファームが自社醸造したシードルの数々。原料果、ブレンド比、製法の違いで味わいに大きな差が出る

 全国の市町村でリンゴの生産量がトップの弘前市。特産地としての知名度アップと所得向上を図るための手段として近年、地酒ならぬ地シードルの普及に向けたチャレンジが行われている。先行的に醸造に取り組んだ事業者が少しずつ地歩を固め、これらに追随する動きも出始めている。
 同市内ではもともと大手酒造メーカー・ニッカウヰスキーの弘前工場でシードルが生産されてきた。こうした地域事情を踏まえ、市ではリンゴ生産者自らが造るシードルによって所得向上と観光振興を図ることができると判断。シードルを生産しやすくなるよう国から規制緩和の特区認定を受け、実行委員会方式のイベントでシードルの知名度アップを図っている。
 2014年春、市りんご公園の一角に「シードル工房kimori」がオープンした。同施設では製造過程を見学でき、これまでに4種のシードルが公園内の売店や市内各小売店で販売された。昨年度の年間生産量は約1万1000リットルで、今年度はそれを上回るペースという。昨秋には、小口の委託に対応できるよう小型タンクも増設した。
 高橋哲史代表(42)は自然災害の被害果を少しでも有効活用する方策として、数年前からシードルの醸造を構想し、仲間の生産者らと共にこの事業を立ち上げた。最近では「物珍しさが先行していた当初の段階に比べ、少しずつ認知度も上がってきた。まだまだ試行錯誤の段階だが、それが面白い」という。最近は見学者に対し、公園内の園地でリンゴの生態や管理の要点を説明しており「シードルというモノだけではなく、リンゴの魅力を伝えている。畑ならではの話は誰もが喜んで聞いてくれる」と語る。
 一方、同市のタムラファームは14年12月、市内にシードル醸造所を構えた。加工用で根強い人気の「紅玉」など自社農場産の果実を用い、ワインで用いられる特殊な技法も取り入れて1年間で約6700リットル分を仕込み、限定品を含む6種の商品を送り出した。
 同社はもともと、アップルパイやジュースの製造・販売に取り組んできた。田村昌司社長(57)は「良い商品を作っては売り、こつこつとブランド作りに取り組んできた。シードルの醸造もそのように整えた環境の上でやっている」と言い、環太平洋連携協定(TPP)の大筋合意など貿易自由化の流れが加速する中で「海外では日本酒ブーム。ならば日本のシードルも世界に認めてもらえるのではと思う。機会があれば輸出に挑戦したい」と夢を描いている。
 こうした先駆者に続けとばかりに、十数人のリンゴ生産者が「弘前シードル研究会」に参加し、情報収集に努めている。年内の酒類免許取得を目指した複数の動きもある。このうち、森山聡彦さん(43)は「摘果した実を何かに有効活用できないかと考えシードルに着目した。観光資源としてもシードルは面白い素材だ」と話す。
 市りんご課は「同じ産地の中に違った味のシードルがあれば、弘前がフランスの『シードル街道』(当地で著名な産地)のようになる。2軒、3軒と次の事業者が出てくれば点が線へと変わり、そのようになるのでは」と期待している。

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