迫るニホンジカ

 

2015/12/21 月曜日

 

 目撃情報が相次ぐニホンジカ。全国的に食害などが深刻化し、本県でも目撃場所が県内全域へと拡大している。ニホンジカの生態と被害防止に向けて取り組む県の対策を2回にわたって追う。

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予断許さぬ食害対策=上

 

 「ニホンジカの対策は被害が出てからでは間に合わない。他県の食害報告を教訓に、現時点で調査や野生ジカの管理を進めていかなければいけない」。8月中旬、青森市内で開かれた「県ニホンジカ管理対策検討科学委員会」で北里大学獣医学部講師の岡田あゆみ委員が県内で急増する野生ジカの目撃状況を受け、こう呼び掛けた。
 明治期以降、乱獲などで絶滅し県内に生息しないと推測されていた。しかし、隣県の岩手県釜石など3市町にまたがる五葉山にすむ野生ジカが地球温暖化や狩猟者の減少などで北上してきたとみられ、ここ10年で三八地域の県境を中心に目撃情報が急増している。
 県自然保護課が直近5年間に報告を受けた目撃件数(死亡、保護など含む)は2010年度13件、11年度19件、12年度10件、13年度7件、14年度40件と増加傾向にある。今年度、県内で確認された件数(10日現在)は前年度の約2倍に迫る72件で94頭に上り、目撃場所も県内全域へと拡大しつつある。
 環境省や林野庁、関係自治体などで組織
する「白神山地世界遺産地域連絡会議」が監視体制を敷く西目屋村、鯵ケ沢町など白神山地周辺の3町村では17件18頭(10日現在)を確認。8日には世界遺産の登録地域を保護する緩衝地帯に初めて、雄1頭が入り込む様子が自動撮影カメラで捉えられたと報告された。
 尻尾が短く、夏には褐色の体毛に白い斑点模様が表れるなど愛らしい姿のニホンジカだが、全国的に食害が深刻化している。岩手県が受けた農業被害額は06年度約2629万円だったが、08年度は1億4827万円と急増し、13年度は2億9128万円と約3億円に近い状況だ。
 樹木の新芽や樹皮なども食料にしており、原生林のまま残る白神山地のブナ林や希少動植物の生態系の破壊も懸念される。
 一度地域に定着すると被害の防止は難しい。雌の繁殖能力は高く、早ければ1歳で出産。林野庁の資料「森林におけるシカ被害対策について」によると、雌1頭が産む幼獣の数は年率約20%とされる。雌100頭が生息すれば、翌年には120頭を出産する計算だ。環境省は本州に生息するニホンジカは12年度末時点で249万頭と推計。現在の捕獲率でいくと23年度には402万頭に増加すると見込む。
 単独行動の雄とは違い、雌は幼獣と共に集団で行動する。そのため地域への定着状況の判断基準とされるが、県内でも雌の目撃や幼獣の死体が発見されており、被害拡大の未然防止に向けた対策が急務になっている。
 同課の佐々木あつ子課長は「県では現在、1台のカメラに撮影された映像の中に複数の雌が映る状況。本県は雌の侵入初期と言われているが、県内で生息が進んでいるのは間違いない」と予断を許さない状況だと分析。その上で「ニホンジカはやみくもに捕獲しても意味がない。検討科学委員会の委員から捕獲に関する知識をもらうなど、気を引き締めて対策を進めたい」と話す。

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狩猟者の確保が急務=下・完

2015/12/22 火曜日

 

バスツアーの企画の中で行われたシミュレーター体験。参加者が画面に向かって銃を撃ち、狩猟を疑似体験した

 「狩猟は残酷だと思うかもしれないが、動物が増えすぎて生態系が壊れないように調整するのが私たちの役目。自然を守っていると自負している」
 今月6日、津軽地方で行われた狩猟者の魅力を体感するバスツアー。現役ハンター3人と20~70代の参加者30人が意見交換する座談会で、弘前市やその周辺市町村で組織する「中弘猟友会」の工藤昭副会長が狩猟への思いを語った。参加者は興味深そうに聞き入り、「マタギとハンターの違いは」「猟は個人で行うもの? それとも団体で?」などと質問を投げ掛けた。
 バスツアーでは、つがる市木造地区での地元猟友会による狩猟や弘前市内にある銃砲店での見学、スクリーンに映し出された鳥獣に向かってモデル銃を撃つ疑似狩猟ができるシミュレーター体験、野生鳥獣を調理した「ジビエ料理」の試食などもあった。
 友人と参加した弘前大学農学生命科学部2年の後藤杏香さん(20)は「狩猟現場を見学できて感動した。狩猟者の方が動物に親しみを持っていることも分かり、狩猟に対する悪印象は全然ない」と笑顔を見せた。
 県自然保護課は、目撃情報が相次ぐニホンジカによる被害の未然防止に向けた初動対応を急いでいる。県内全域の山林に自動撮影カメラを設置して監視体制を強化しているほか、地元猟友会の協力を得て野生ジカを捕獲するモデル捕獲事業、食害の脅威を県民に周知するパネル展などを実施。バスツアーもその一環だ。
 同課の佐々木あつ子課長は、中でも狩猟者の確保は重要だと話す。「狩猟者の社会的な役割は、農作物を荒らす有害鳥獣の数を調整すること。ある程度の頭数が分かれば侵入防止の柵が設置できるが、分からない状況のままでは柵は無意味
になる。そういう意味では野生ジカの捕獲には狩猟者は必要な存在」。
 しかし、県内の狩猟免許所持者は激減している。同課のまとめでは、ピーク時の1981年には7283人が所持し、全体の約8割を占めるのは20~40代で6118人だった。しかし、高齢化による免許返納や新規取得者が増加しない背景から狩猟者の減少に拍車が掛かっている。ピーク時の約3分の1にまで落ち込んだ2010年は1917人で、14年は1509人と1500人台を切る勢いだ。年齢層は逆転し60代以上は14年1082人と全体の約72%だった。
 工藤副会長も70歳を迎える来年、免許返納を予定。もともと70歳で身を引く考えだったが「視力や体力が落ちるのはもちろんだが、もし認知症を発症して誤発砲してしまったら」と体力の衰えを口にする。後継者不足にも不安を示し「自然の変化に目を向ける人が少なくなった。狩猟に興味を持つ若者が増えてくれたら」と願う。
 県がツアー終了後に参加者に行ったアンケートでは「狩猟免許を取りたい」などと前向きな回答が多く見られた。事前申し込みには定員30人に対し64人が申し込み、うち20~40代は計45人と若者や中年が興味を示している様子がうかがえる。
 佐々木課長は「応募者が多く、免許取得を前向きに考える人も多いことが分かった」と話し、「来年度以降も何らかの形で狩猟者獲得に向けた取り組みを進めていきたい」と前向きな姿勢を示す。
 間近に迫るニホンジカ被害の未然防止には狩猟者の確保と捕獲体制の整備、管理が急務だが、その道筋に光が差し込み始めている。

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