呼び込む街に 交流人口・移住者増の新視点

 

コスプレ撮影会=中

2015/11/3 火曜日

 

弘前公園で開催されたコスプレ撮影会「ルミナージュ」。150人の愛好者が思い思いに撮影を楽しんだ

 弘前城の曳屋(ひきや)工事が進む9月下旬の弘前公園。県内外から訪れる多くの観光客に交じり、アニメや漫画の枠から切り取ったような衣装をまとい、園内を巡る若者たちが現れた。それぞれ思い思いのいでたちで園内の撮影スポットをバックにポーズを取る。同公園では初となる大規模コスプレ撮影会「ルミナージュ」のひとこまだ。
 コスプレイヤーとカメラマン150人が参加。弘前市周辺が大半を占めたが、はるばる関東圏からも足を運ぶ人も。「本物のお城にこれだけ近づいて撮影できるなんて、こんな場所は他にない!」。スタジオ撮影では出せないリアリティーや、“本物”の景色を求めてこうしたイベントに参加する愛好家は少なくない。
 「『そんな所でやるの?』とはよく言われます」と笑うのは仕掛け人の小原葉月さん(25)。現在は使われていない倉庫や廃校、古民家などを撮影スポットとして選定し、全国各地でコスプレ専門の撮影会を開催している。地元の人にとってはありふれた建物や風景でも、彼らの目には全く別の、魅力的なものに映る。例えば弘前市民会館の外壁は人気漫画「進撃の巨人」の舞台に。見慣れた景色もキャラクターさえ立てば、なるほど別世界に見えるものだ。

 小原さんはイベントコンサル企業・ニュープランニング(横浜市)の代表として各地でルミナージュを運営。そこで大切にしているのは地域との接点を持つことという。地元資本の旅館や商店を活用するなど「地域にお金を落とす」ことはもちろん、地域にコスプレ文化を根付かせることも見据える。「今回は弘前のシンボル的な場所で開催したことで、参加者も『認められた街』とうれしがってくれた。コスプレイヤーは就職前の学生が大きな割合を占める。弘前でも多くの若者は上京してしまうが、もし県内に楽しいことがあれば愛情を持ってとどまってくれるかもしれない」。
 青森市の黒龍緋優さん(25)=仮名=は、そんな小原さんの思いに呼応するように参加した一人。「以前は親にも言えなかったけど、コスプレ文化が周知されるようになってようやく肩身が狭い思いをしないで活動できるようになった」。とはいっても県内では専門のイベントが少なく、関東圏に足を運ぶのもしばしばとか。地元で楽しみたい思いは強く「青森全体にも活動が増えていけば」と、今回のルミナージュに端を発した活発化に期待を抱いている。

 しかし一般に浸透してきたとはいえ、コスプレ文化が誤解や偏見にさらされることは皆無ではない。小原さんはイベントを通じて「コスプレは変なものでないと地元の人に理解してほしい」と話す。参加者もちょっとしたことでイベントができなくなってしまうという危機感から、マナー順守には神経を行き渡らせている。ルミナージュなど国内のほか、海外での催事にも参加している人気コスプレイヤーの大澤絵美里さん(25)は「ルールを守って活動しているのを知ってもらうには、機会を与えてもらうのが一番」と話す。
 コスプレ撮影会は、地元民にとっては取るに足らないものからでも流入者を開拓できるという示唆を与えている。ただ、好機を生かせるか否かは地域の受け入れ方によるだろう。弘前市では同市が舞台の漫画「ふらいんぐうぃっち」(講談社)のアニメ化など、新規の観光客がますます増えていく下地がある。市民の認知度を上げるだけで「呼び込む力」は強まるはずだ。

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移住の実際と展望=下・完

2015/11/4 水曜日

 

今年6月に工藤さんの呼び掛けで開催された移住者交流会。弘前移住歴数十年の“ベテラン”から近く移住を予定するという人まで、さまざまなIターン者が集まった

 前回までに紹介した仕事旅行やコスプレ撮影会は、ひとくくりにすると、その地域の「モノ・コト」を観光の目的としたコンテンツツーリズムであると言える。同様の切り口から見ると交流人口増加につながる種はまだまだありそうだが、実際に移住につながる取り組みにはなり得るだろうか。弘前市へのIターン移住者の一人で、移住・定住の相談や支援を行う「弘前市移住コンシェルジュ」を務める工藤健さんに聞いた。
 全国の自治体が参加した移住相談会が9月中旬に都内で開催され、工藤さんは弘前市のブースで約20件の相談に応じた。「弘前に興味のある人は多いという印象。中でも観光をきっかけにファンになったという人が目立つ」と感触を話す。その意味では観光面でのアプローチが移住促進にも寄与する可能性はある。
 弘前大学地域未来創生センターによる中南津軽地域でのUJIターンの実態調査では、住民のうち約4割が移住経験者であるという結果が出た。値としては大きいものだが、Iターンに限ると全体の6・6%にとどまる。工藤さんは実際のIターン層の多くが弘大を卒業してそのまま津軽に就職したか、あるいは夫婦どちらかの実家が津軽にあることが移住の要因になっていると推察。その意味で「直接的に移住に向くことはないかもしれないが、まったく弘前を知らない人が興味を持ってくれるというだけで重要」と、コンテンツツーリズムの振興に期待を寄せる。
 前出の調査ではIターン者の生活幸福度が他のUJターン移住者や定住者などと比較して高いことも示された。「弘前は地方だが田舎ではなく文化的な街。自然もあってバランスがいい」。工藤さんはIターンの知人に見られる面白い共通点として「毎週のようにキャンプに行く」ことを挙げる。「車を走らせてすぐのところでキャンプができ、さらに格安。都会では今や学校のグラウンドもコンクリートになってきている。子どもを広い自然に囲われた場所で育てたいという思いから移住してきたのもあるだろう」とする。都市部の住民は少なからず自然への欲求を持つことを端的に示すエピソードともとれるだろう。
 ただ実際に移住するとなると、経済的なハードルがある。ほとんどの移住相談者は働き口に不安を持っていると工藤さんは言う。「Iターン者にとっては実家がないので住居は基本的には賃貸で、また賃金は都市部と比べて低い。現状ではこちらでやりたいことがあるという人、商店主など仕事を作ることができる人でなければ移住は厳しいのでは」と実情も認める。
 その観点では移住層は限られるものの、逆に働く場所を問わない形態の個人事業者や起業家向けに特化した移住プランもあっていいのではと提案する。「都市部と比べて人口が少ないところは厳しいが、人と人との距離感が近いのが弘前の特徴。地域ビジネスを展開するには好条件がそろっている」。さらに、例えば税制面での優遇など事業家を移住に向かわせる利点を用意すれば「地域に仕事がない」という現状はチャンスに変わるかもしれない。
 自然と良い住環境だけではまだまだ「移住・定住先進地」の長野などには及ばないだろう。差別化を図るための弘前の強みとして、工藤さんは「人」の存在を挙げる。いわく「地域で何かを仕掛けようとしている人が多い街」。自身も、IJターン移住者などいわゆる「よそ者」だけが顔を合わせて親睦を深める会合や、地域の異業者同士を引き合わせたりなど、人の結びつきを強める活動をしている。工藤さんら活動的な「よそ者」が作り出した流れは対外的にも及ぶ。今や地域の人やコミュニティーそのものがコンテンツツーリズムの対象になり、新たな交流層をも生み出している。「定住人口を増やすには、まず交流人口を拡大すること」と工藤さん。より人を引き付け、呼び込む街づくりをすることが、ひいては移住される街に結実していくだろう。

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