弘前バッハアンサンブル 30年のハーモニー

 

2014/8/22 金曜日

 

 9月で創立30年を迎える声楽と器楽の「弘前バッハアンサンブル」。メンバーは整然と並んだステージ上で厳かな雰囲気を漂わせ、混声合唱、チェンバロ、管弦楽器が重厚な教会音楽のハーモニーを響かせる。生涯をかけても完璧な表現にはたどり着かないと言われるほど奥深いバッハの世界に挑んできた。150回余りの演奏会を経てなお、一歩先を目指し続ける同団体の歩みを振り返る。

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原点の“仲間”を求め結成=上

 

「メンバーの成長がバッハアンサンブルをつくっている」と語る島口さん
定期演奏会に出演した弘前バッハアンサンブルのメンバー(今年2月、弘前文化センター)

 弘前バッハアンサンブルの合唱と管弦楽器メンバー約20人を率いているのはチェンバロ奏者の島口和子さん(64)=弘前市=。舞台ではチェンバロを演奏しながら、息遣いと目線でアンサンブル全体をまとめている。奏でるのは「音楽の父」と称された、バロック音楽を代表するドイツ人作曲家ヨハン・セバスチャン・バッハ(1685~1750年)のカンタータ(声楽曲)やミサ曲だ。
 バロック音楽に欠かせないチェンバロはピアノと外見が似ているが音の出し方が異なり、鍵盤をたたくと内部に張った弦がはじかれ音が出る。ピアノと比べ演奏に強弱を付けにくく、島口さんが20代でチェンバロを始めた当初は「チェンバロに弾かされている感じだった」と振り返る。県内でも珍しい本格派の奏者だが、ピアニストとしての腕が土台にある。
 ピアノには小学校の学芸会で伴奏をすることになり、のめり込んだ。「やりはじめたら止まらない性格がピアノに向いていたのかもしれない」と島口さん。
 弘前中央高校時代から合唱部の伴奏を担当。卒業後も伴奏者として同校に協力し、1971年に同校合唱部が出場した全日本合唱コンクール全国大会で審査員に絶賛され、全国的に注目される存在になった。
 翌年、チェンバロ奏者を探していた弘前室内楽集団から「壊してもいいから弾いてみないか」と誘われ、チェンバロと出合った。「努力の中に才能は生まれる」(島口さん)と、持ち前の粘り強さで腕を上げ、NHKホールで開催された日本オラトリオ連盟の東京公演に77年から3年連続で出演するまでになった。
 専門性を深めようと79年から2年間、米シンシナティ大学に留学し、バロック音楽の解釈法や理論を学んだ。帰国後は全国各地でリサイタルや有名楽団との共演を重ね、チェンバロ奏者として名を高めていった。
 自身をソリスト気質としながらも、音楽家としての原点は「仲間とつくる音楽」(島口さん)。仲間と共に表現する音楽はないかと行き着いたのがバッハだった。アンサンブル曲を残した作曲家は数多いが、「各パートが主役にも脇役にもなり、一人ひとりが生かされる」(同)バッハの世界に挑むことを決めた。
 やるからには「世界を視野に入れる覚悟で」と、知人や合唱部の後輩など気骨のあるメンバーを集めた。生まれ育った地元にこだわり、アンサンブル名に「弘前」の地名を入れた。85年9月、北の街弘前から世界を目指す弘前バッハアンサンブルが産声を上げた。

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“人間力”高め音に深み=中

2014/8/29 金曜日

 

創立20周年記念公演の舞台に立つ弘前バッハアンサンブル(2005年、オーストリア・ウィーン楽友協会大ホール)。「黄金のホール」とも呼ばれる会場は地元の管弦楽団「ウィーンフィル」の本拠地として知られる(同団体提供)

 1985年9月の結成以来、国内外で150回余りの演奏会を開いてきた「弘前バッハアンサンブル」。本番が自らの音楽を深める―との思いを胸に、一つ一つの演奏会をプロセスと捉えて修練を積んできた。「音楽は心が大事」と人としての深みを追求する貪欲さが、30年間の活動を支えている。
 「やるからには3年後に東京公演、その3年後には本場の海外へ」と結成時に目標を決めた。チェンバロ奏者で同団体主宰の島口和子さん(64)は「世界に通用するようになるには一人一人の責任は重いだろう。でもやらなければという責任が人を育て、音を豊かにする。音ってその人そのものだから」と当時から一貫している信念を語る。
 バッハに挑むにあたり重視したのはより多く本番を経験すること。島口さんの「100回の練習より1回の本番」との言葉が示すように、結成3年目には青森、弘前、東京の3会場で公演する定期演奏会を実施。創立メンバーでバスパートの中野豊さん(54)=鶴田町=は「東京は試されるところ。耳が肥えた人が多いから勉強になる」と、質の高い音楽が集まる首都で経験を積む意義を話す。
 結成から6年後の91年、初めての海外公演は欧州3カ国が舞台となった。中でもドイツの聖霊教会での演奏は難民救済のためのチャリティーで、会堂を埋め尽くした聴衆からすすり泣きが聞かれたという。島口さんは「私たちの音楽がバッハの祖国の聴衆の心に深く届くことを実感した感動的な瞬間だった」と振り返る。
 93年には米ニューヨークのカーネギーホールでエイズの子どもたちを救うために公演。創立15周年記念で2000年に訪れた欧州では、オーストリア・ウィーンの復活祭でバッハの三大難曲の一つであるミサ曲ロ短調を演奏した。創立20周年の05年は外務省主催の国際交流事業として欧州5カ国を巡演するなど日本を代表してハーモニーを響かせた。
 結成メンバーでアルトパートの岩谷みつ子さん(62)=弘前市=は「現地の人が涙を流して聞いてくれたりすると(国内公演とは)また違った感動がある。舞台に上がるたびに歌い続けたいと実感する」と感慨深げだ。
 海外公演に伴う費用は莫大(ばくだい)だが、海外にこだわるのは「借金が残ったとしてもお金に代えられないものを得られる」(島口さん)からで、「日本人がバッハを解釈して海外で披露するのも一つの国際交流。演奏を通して外国との懸け橋になれば」(同)との思いもある。初期の海外公演では視野を広げる目的で現地でメンバーらがホームステイをしたこともあった。
 「歌っても歌っても納得することはない」とメンバーは口をそろえる。すべては“人間力”を培い、いい音楽をつくるため―。歌い込むほどに集中力と体力はもちろん、精神力を養い、追求してきたバッハの音楽。30年積み重ねたものを土台に来年の4、5月、10年ぶり7度目の海外公演をする。島口さんは「一生バッハを追い続ける。30年たってもまだまだプロセスの途中」と、さらなる高みを見据えている。

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感謝胸に節目の演奏会=下・完

2014/9/5 金曜日

 

合宿では5時間以上ほぼ休みなしで歌い続けた声楽メンバーら(8月2日)

 今年創立30年を迎えた弘前バッハアンサンブル。来年5月に渡欧公演を予定するなど既に向こう1年の演奏活動は決まっており、30周年のスタートを切る記念演奏会が今月6日から始まる。これまで積み重ねたものを土台に、メンバーそろって心新たに集大成の舞台に臨む。
 「創設者としての責任があるから、つらい時も気丈に振る舞い、(メンバーを)引っ張ってきた」と話す主宰の島口和子さん(64)。「30年続けることができて幸せ。メンバーはよくついてきてくれた。バッハをやってきて良い人生だと思ってもらえればそれでいい」と苦楽を共にした仲間に感謝しつつ、30年の歩みをかみしめる。
 現在ただ1人のテノール山口正洋さん(47)=青森市=は「自分の中で積み重ねてきたものがあるから、ここまで来たらもっと歌いたい」と情熱を燃やす。結成時から活動を共にしているソプラノの阿部陽子さん(61)=同=は「島口先生の指導があってこそ、ここまで来られた。声と体調の管理は自己責任と思い万全の準備を整えたい」と本番に向け意気込む。
 8月2~3日、島口さんと合唱メンバーは黒石市内で1泊2日の合宿を行った。食事、寝泊まりを共にしながら心を通わせようと、毎年この時期に実施している。初日は気温30度を超える真夏日で、周囲に配慮し窓を閉め切った室内は“蒸し風呂状態”に。この状況下でもメンバーは5時間以上集中力を切らさず、島口さんから飛ぶ「ブレスが足りない」「喉を絞らずに体を使って音を広げて」などの厳しい指導に歌声で応えていた。
 弘前市合唱連盟副会長で、東北女子大学家政学部教授の山﨑祥子さん(75)は自身もメゾソプラノ歌手で、2005年の渡欧公演に同行。合唱に参加し「全身で表現しようと体が自然に工夫する感覚を覚えた」とバッハの音楽を語る。節目を迎える同団体について「弘前から素晴らしい団体が育つという証明になるのでは。バッハは敷居が高いイメージがあるかもしれないが、若い人にも聞いてもらうきっかけになれば」と期待を込める。
 今月に青森、弘前、東京の3会場で開く記念演奏会では「主よ、人の望みの喜びよ」など耳なじみのある合唱曲を含むカンタータ第147番や、明るい曲調の「マニフィカト ニ長調」などを披露する。来年5月の渡欧公演はバッハゆかりの地にこだわった旅で、生誕地ドイツ・アイゼナハのほか、ドイツ・ライプチヒの聖トーマス教会内にあるバッハの墓前で初めて演奏する。
 島口さんは「自分たちのバッハを捧げられることが楽しみ」とし、「一連の公演を終えた後みんなの中にどういう思いが残るのか、何を得られるのか楽しみ。この経験を今後の土台にできるよう後悔しない演奏をしたい」と話し、この先もバッハを追い続ける。
 創立30年記念演奏会は6日午後3時から青森市の青森公立大学講堂で、7日午後2時から弘前市民会館で開かれる。チケットは前売り2500円(当日500円増し)で、紀伊國屋書店、成田本店など弘前と青森、両市の各プレイガイドで販売している。

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