罪と向き合う市民-裁判員制度5年-

 

2014/6/29 日曜日

 

  制度導入から5年が過ぎ、当たり前に行われるようになった裁判員裁判。裁判員に選ばれて事件を審理し、罪と向き合う市民は何を思うのか。県内の経験者の思い、変化した裁判の実情と課題などを5回にわたり紹介する。

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変化=1

 

判決言い渡し後に会見し、報道陣からの質問に答える裁判員ら=2014年5月27日

 「貴重な経験ができた」「良い勉強になった」。今年5月末、青森地裁で裁判員裁判の判決公判を終え、記者会見に臨んだ裁判員ら5人は、審理の感想について、こう口をそろえた。
 昨年の最高裁判所による裁判員・補充裁判員経験者へのアンケートでも約95%が「非常に良い経験」「良い経験」と回答。制度開始時から毎年90%を超え、経験を肯定的に捉える人は多い。
 会見で40代の会社員女性は「専門用語がたくさん出てきて分からないかと思っていたが、詳しく説明があって問題なかった」と述べ、工藤順一さん(45)も「裁判官が優しく教えてくれたので、難しいことはなかった」と話した。難解なイメージがある裁判が裁判員裁判に限っては“誰でも理解できる裁判”へと変わっている。
 裁判員裁判を行う青森地裁の法廷。傍聴席に座ると、左右にある大きなモニターが目に入る。検察官や弁護士が主張の説明などに使い、文字や写真、映像、図などを映す。
 裁判員席にもモニターがあり、裁判員は手元のモニターを見ながら、説明を聞いている。一部を除いては傍聴席から見えるモニターにも裁判員と同じ、画像などが映される。通常の裁判とは大きな違いだ。
 「冒頭陳述とは証拠によって検察官が証明する事実を明らかにするものです」。検察官が、ゆっくりと裁判用語を解説してから説明に入る。手順は通常の裁判と同じだが、検察官、弁護士は専門用語になじみの少ない市民でも分かりやすいよう工夫している。通常の裁判に比べると、とても丁寧との印象を受ける。その分、審理の進行は遅いが、“誰でも”参加の可能性がある制度であり、時間がかかってでも丁寧な説明が求められている。
 市民の参加による判決への影響は―。本県では今月末までに、65件の事件が審理された。「量刑の大枠は裁判官だけのときと大きな差はない」と弘前大学の平野潔准教授(刑法)は指摘する。裁判所が言い渡す一般的な量刑の相場は検察官の求刑の8割といい、県内のこれまでの裁判員裁判もおおむね8割だった。ただ性犯罪では刑は重くなる傾向。同情を呼びやすい事案は「軽くなる傾向は強い」といい、事件ごとの刑の幅は広がっている。
 市民が加わることによる変化は、判決以外にも表れている。平野准教授は「同じ立場の市民が問い掛けることは、被告人に与える影響が違うのでは」と指摘。ある事件後の会見では「母親なので、息子を見ているような気持ちもあった」と話した女性もいた。青森地裁によると、裁判官からは「裁判員から新たな視点の意見があり、参考になった」などの声も聞かれる。

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経験者の思い・上=2

2014/6/30 月曜日

 

渋谷さんは「呼び出し状が来て焦りを感じた」と話した呼び出し状は制度開始から今年3月末までに延べ6587人の県民に送られている(写真は呼び出し状のサンプル)

 「恐ろしいことをした人。どんな人が前に立つんだろう」。2009年9月1日、青森地裁で本県初の裁判員選任手続きがあった。公判は翌日から。選任された青森市の牧師渋谷友光さん(50)は法廷内を見学しながら、緊張感を高めていた。
 裁判が終わって間もなく5年。審理したのは強盗強姦(ごうかん)事件で、懲役15年が確定した。「(刑は)長い時間。今、どういう気持ちで何を考えているのか」と当時の被告人を思い出し、考える。
 09年7月、渋谷さんに裁判員裁判の選任手続きのための呼び出し状が届いた。「裁判所に行ったことはなかったし、関わりたくない場所だった」と渋谷さん。犯罪者の全てを明らかにし、罪を厳しく算定する厳粛な場所―というイメージを持っていたという。
 裁判所は翌年の裁判員候補者を選び、選ばれた県民にその旨を通知。その中から公判前に候補者を選んで呼び出し状を郵送し、出頭を求める。「候補者になったという通知が来ても人ごとのように思っていたが呼び出し状が来て焦りと緊張を感じた」と振り返る。
 審理で被告人の起訴内容を知り、「腹立たしい思いもあったし、怒りがこみ上げてくるような内容もあった」。被害に遭ったのは一般女性。家族が同じ目に遭ったらどう思うだろうか―。
 だがこれまでの裁判の類似事案などの量刑に関する資料を見て「刑は意外に軽い」と感じた。感情と資料とのギャップに驚き、どのような刑が妥当か、判断が難しかった。
 判決は検察官の求刑通りの懲役15年。「今までの資料に比べると長いものだった」。すごく集中し、被害者、被告人のことを考えて出した結論。だが、当時の被告人が見捨てられたと思うのではないかと心配になった。判決言い渡し後、裁判長が被告人に語り掛ける説諭で「15年の中で罪を認めて、更生することを期待している。期待の15年」と伝えることにした。
 「彼(当時の被告人)の表情が変わり、うなずいてくれたのを覚えている」。今も更生を願い、思い出す。
 「犯罪に至る経緯を聞き、そこまで至らないように何かできることはなかったのかと考えさせられた」。裁判員の経験は、犯罪への見方を変えた。事件は身の回りで起きているし、どこでも起こり得ると感じる。仕事では人と向き合い、話をする機会も多く、県民にも伝えている。
 「犯罪は自分たちの社会を映す鏡の一つだと思った。こういう社会に生きていると知ることができる」と渋谷さん。「事件を人ごとに思っているだけでは、何も変わらない。人として、街づくり、社会にどう関わっていくのかを考えるきっかけになった」と話した。
 本県で行われた裁判員裁判のほとんどは被告人が罪を認めており、どれだけの刑がふさわしいかの量刑が争われた。罪をどう評価すべきか、市民らは事件、被告人と向き合い、時には葛藤しながら結論を出している。市民は経験、思いを、どう社会に結び付けていくか。

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