何ということはない、「湯殿より妻の声」がした。それだけのことだが雪に閉ざされて今まで聞こえなかったものが明るく聞こえてくるようになった。静かに降る真っ白な名残雪が、「湯殿より」の声を一層優しく伝えている。妻への一瞬の想(おも)いを捉(とら)えておりいかにも春の宵という感じが魅力的