全国的にみても貴重な文化である錦風流尺八を継承する山田さん
兵法書「孫子」を読む会をボランティアで開く山田さん。尺八についても「教えるというのではなく、みんなで楽しみたい」と話す(弘前市の北辰堂で)

 9代弘前藩主津軽寧親が、弘前に名手がいないことをなげき、藩士に学ばせた錦風流尺八。「御家流」として武士階級にだけ許された由緒ある音楽遺産だが、現在演奏できる県技芸保持者は1人だけだ。
 福井県出身。東北大学大学院生の時に「何かの拍子に聞いて、いいなと思った」と、全国組織の都山流尺八を習ったのが最初。弘前大学に赴任した時、尺八が吹けることを知った笹森建英教授(当時)から「もう吹ける人がいない。このままでは滅びてしまう」と聞かされた。「弘前、それもお城の周りでだけ継承されてきたもの。絶滅するのは忍びない」という思いが「私がやります」の返事を口にさせた。
 錦風流の曲は「下り葉」など10曲しかないが「勇壮でありながら、哀愁を感じさせ、いかにも武士が吹いたというような曲」ばかりで、コミ吹きと呼ばれる息を細かく切りながら吹く、ほかにはない奏法が魅力だという。「明治維新で古い文化が禁止され、全国で尺八が消えていった。弘前に残っているのは、藩主の奨励で多くの人がやっていたから。江戸時代の尺八が残るのは弘前だけと言ってもいいほど」だ。
 「私がいなくなると伝統が消えてしまう」と始めたが「できれば私のような他県出身者ではない人がやるべき」とも考える。「古典の代表として中央のプロも吹くが、洗練されたものになってしまっている。今の時代に合わないからなくしてしまえ、というのも一つの考え方。しかし新しければいいというものではない」と強調。地元の人の理解と継承を願う。
 しかし「武士が自己の鍛錬のために行ってきたと言われ、聴衆に聴かせるのではなく、自分の内面と向き合う音の世界」という性質がある。一般の人の耳に入る機会が極めて少ないのは、奏者が少ないことだけが理由ではない。「後継者を育成しなければならないが、(弘大教授の)仕事があり、なかなかできない」など、簡単ではない。
 尺八はプラスチック製がプロの演奏に耐えうるほどに進化し、しかも価格は1万円未満と手ごろ。「購入費以外の出費はいらないので、気軽に始められる。コミ吹きの呼吸による健康法と考えた方が楽しいのかもしれない」とも。
 楽譜はなく、音だけで伝承されてきた錦風流だが、万一を考えて演奏の音源と楽譜を作ることも考えている。