保育園からの幼なじみである齋藤さん(右)と三浦さん。弘前市内に今夏開設した事務所のデスクは地元人材で埋まりつつある
カードゲームでの戦いをベースにしたゲームアプリ「津軽為信統一記」の開発画面

 「青森から世界へダイレクトにつながるビジネスを実践したい」。10月下旬、弘前市のひろさきビジネス支援センターで開かれた起業セミナー。ゲスト講師の齋藤雅昭さん(42)がビジョンを熱く語っていた。齋藤さんは今年6月、幼なじみの三浦斎さん(42)と津軽初のゲーム開発会社「エイコードバンク」を弘前市に開業した。すでに二つのゲームアプリをリリースしており、津軽為信をテーマにした新作も準備中だ。情報技術(IT)分野では後進の本県から成長産業のゲーム市場へ参入し、将来的な海外展開も見据える。
 齋藤さんは平川市生まれ。県内の高校を卒業後、就職のため上京し、アスキーなど大手でゲーム作りに携わった。現在は首都圏でフリーのシステムエンジニアとして働く。齋藤さんとゲーム仲間だった三浦さんは県内のコンピューター会社でプログラマーとして働く傍ら、個人でロールプレイングゲーム(RPG)などを開発し、無料で公開していた。
 2人が起業を決意したのは2013年。背景にあったのはゲーム開発をめぐる製作・流通環境の変化だ。開発エンジン「ユニティ」の登場で低コストでのゲーム開発が可能に。アプリ販売のプラットフォームとなるスマートフォンが全世界的に普及し、10兆円規模とされるグローバルなゲーム市場へ個人でも参入できる環境が整った。
 しかし「有料に値する水準のゲームを作るのは資金面で難しい」と感じていた三浦さん。かねてより地元でIT関連の起業を考えていた齋藤さんは、三浦さんを資金面でバックアップすれば「青森でもゲーム開発会社が成り立つ」と法人化へ向け動き出した。
 資金調達は難航した。銀行の担当者から「青森は農業と漁業の県」と断られたことも。「ITの普及で今までできなかったことができる社会になる。首都圏でしか無理だったゲーム開発も青森でできる」。齋藤さんは自己資金で開発を継続した。県内での起業にこだわるのには、ほかにも理由がある。首都圏より家賃が安く、通勤のストレスが少なく製作に集中できる環境が整う。「首都圏にお金が集まる流れにあらがいたい」との思いもあった。
 こうした信念が実を結び、15年に1作目のRPG作品「アビスアンドダーク#1」が完成。現在もじわじわと売れ続けており、1200円の有料版は約3000ダウンロードを記録しているという。今春に発表した「アビス―」シリーズの新作はクラウドファンディング(インターネットによる資金調達)を活用したほか、グーグルのアプリ販売サイトで紹介され話題を集めた。海外から英語版のリリースに関する問い合わせもあり、海外展開への手応えを感じている。
 活動の広がりに加え、ひろさきビジネス支援センターの起業支援専門家の協力で今春、地銀の融資を受けることができた。今夏に齋藤さんを代表に法人化。秋までにデザイナーと、都内企業のシステム開発を請け負うエンジニアの計4人の地元人材が加わった。
 同社は現在、みちのく・ふるさと貢献基金の助成金を使い、来春の完成を目標に津軽為信が津軽統一を目指すゲームアプリを開発中だ。地元人材やUターン人材の受け皿になりたいとの思いも強く、海外展開に向け翻訳担当者を地元の留学生から採用する案もある。齋藤さんは「企画力のある場所にお金が集まる時代。うちがモデルになり、ITやエンタメ系の企業が青森にも続いてくれれば」と本県に新たな産業が根付くことを願っている。